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おしまい

「……それでね、田部ちゃん。やっぱり早乙女何とかって娘は、坂梨緑だったって」


 木俣探偵事務所まで、わざわざ長浜署からきた報告の報告しにやってきた船虫警部。


「早乙女純子ですね」

とは訂正したものの、脳裏にその面影が浮かぶおにぎり君


「はあー、人の良さそうな女性だったけどなあ」


「そりゃ知らんけど……でさ、ブームだったかな? その軽自動車は……」


「ムーブ」


「あ、そうだった。でさ、岐阜のレンタカー屋で借りたんだって。それが何と本名でね」


 これを聞き、いたく感銘を受けたおにぎり君


「ああ、やっぱり根っからの悪人じゃなかったんだ!」


「何? そのテンションの急上昇って?」


「あ、忘れてください」


「わかった、忘れた……でさ、親子ともども、アッサリとすべての罪を認めたって」


 これに、何ともいえぬ顔をしている田部君


「それって、なんとなくわかりますよ。目的を達成して、満足というか脱力したんですね、きっと」


「さて、どうかなあ? ま、とにかく田部ちゃんも危機一髪だったね」


「ホントですよ。下手したら、今頃は臭い飯を食ってました」


「だね。それにしても……」

 そう言いながら船虫さん、先ほどより離れたところでパソコンと睨めっこしている木俣さんに目をやって


「いつもながら鮮やかだよね、おたくの探偵さんって」


「そうですね、確かに」

と答えたおにぎり君、同じようにパソコン前を見やって


「あれで、口さえ悪くなければ……」


 その後を引き継いだ船虫さん口からも


「あと、金に汚くなかったら……」


 そして再び助手からも


「他に、男にだらしなくなかったら……」


 だがお二人さんの視線の先の女、その右耳だけをウサギの様に立て


「ピーン! ひ、人が黙って聞いてりゃ……ええ加減にせんかいっ!」

 そう言いながらエクソシストの如く、顔だけをグルリと横に向けてきたのだが


「あれ? ハゲ虫さん、いつのまに来たんだ?」


「し、白々しい。ずっといますよ、ずっと」


「これは失敬」


「それでね、木俣さん。事件の報告の報告に来たんですよ。どうせ興味がないと思って、田部ちゃんに言っておきましたから」


「わかた。その内に聞いておくし……」

 そんな気なんて、あるわきゃない。


「ところでさ、奥様は見つかった?」


 この、いきなりの質問。確かに女房は蒸発中であるが


「え? 何でこのタイミング? ま、まだですけど」


「いやね、今度の事件で思ったんだけど。女と男ってさ、この世にたったの二種類しか存在してないのに、その在り方って多種多様だなって」


 これに三度ばかし頷いた船虫さん


「確かにそうですな、うんうんうん」


「でしょでしょ? だからさ、おたくの奥さんだって」

 ここで、拳が入りそうなくらいに口をでかく開いた悪魔


「とっくに若き燕クンと一緒に暮らしてるかもね! ガッハッハ!」




「もう! しょーもない事を言うから、船虫さん、気分悪くして帰っちゃったじゃないですか」


「木俣流のストレス解消方だ。どうせ困ったら、また来るに決まってるし」


「そりゃそうですが……一応、この間の事件の報告は聞きましたよ」


「別にいらんし。その件について考えても、もはや報酬が増えるわけでもないしさ」


 心底、どうでもいいようだ。


「あ、はい。でね、木俣さん? 純子さん……あ、いえ、緑さんの刑期ってどれくらいでしょう?」


「ほう? キミって、騙された女にまだ未練を持ってるんだ?」


「い、いや違いますって! 気になっただけですって!」


「フフフ。無理しちゃってからに、このおデブめが」

 ここで、本日九本目のハイライトに火をつけた木俣さん。旨そうに紫煙を鼻から吐き出しながら


「ふうー……ま、三十年かな」


「え?」


「出てきた時は、すでにオバサンだね。誰かわからなかったりして……ユーシー?」


「そ、そんなあ」


 ガクッと、うなだれたおにぎり君だったが、そこに


「嘘だよーん! まあ情状酌量の余地もあるんで、五・六年くらいじゃね?」


「そ、そうですか!」

 いきなり明るくなった田部君、その耳にチャイムの音が聞こえてきた。そしてすぐさま、条件反射で声を上げている。


「ハーイ!」


「フン。まるでパブロフの犬だな」



「シロブタ宅配便ですが、受け取りのサインを」


 モニター越しに見ると、制服のお兄さんの横にデンと座っているのは、パブロフの犬ではなく――


「き、木俣さん! こ、狛犬が送られてきました!」


「こ、こまいぬ、だって?」

 場違いな言葉に、モニター画面を食い入るように見る木俣さん。やがて


「キミ、その狛犬を中に入れていいよ」


「いいんですか?」


「ああ、いいとも。何せ、その狛犬こそ」

 木俣さん、力強くハイライトを揉み消し


「この木俣マキさんのさ、唯一無二のライバルだから、な!」 了


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