金
○侵入者
奴隷小屋が盛り上がっている頃、侵入者は、十五人目の衛兵を戦闘不能にしたところだった。
「き、貴様、何者なんだ」
「…………」
だが、侵入者は答えない。そのまま主の部屋に向かって進んでいく。
「誰だ!! ガアッ!!」「ウッ」「きさ―――ぐふっ」
次々に倒していく。しかし、ここまでで怪我人は出ても死者は出ていなかった。ただ戦闘不能にしていくだけ。しかし、追いつくことのできないように。
「殺せ!! 情けのつもりか!」
衛兵の一人が叫んだ。しかし、侵入者はやはり答えずに、その衛兵にバイバイと手を振って去っていく。睡眠魔法をかけて。
そして、あっさりと主の部屋にたどり着いた。扉に耳を当てて聞き耳を立てる。すると、中年の男の下卑た声と、複数の女性の嬌声が聞こえた。
『もっと寄れ、もっと』『嫌ですわ、旦那様』
「…………」
侵入者は後悔した。なぜこんな屋敷に自分は侵入したのかと。衛兵の腕はよかった。しかし、それだけだった。自分と互角にやり合えるような者はいない。
だが、後悔しても始まらなかった。
驚かしてやろうと、扉をそっと開けるのではなく、バアン!! と完璧で、いっそ流麗ともとれるようなフォームで蹴り破る。
「な、何だ!?」『キャアアアァァァァアアア!!』
女性の叫びがうるさい。これでは話もできない。
逃げる女性たちのことは放っておき、まだ事態を把握せずに、うろたえている男に近づき、面を被ったままなのでくぐもったままだが、第一声を放った。
『お久しぶりです。伯爵』
「な、だ、誰だ?」
『察してほしいものですな。そろそろ溜まりに溜まりまくった報酬金、総額で金貨二十枚分。耳をそろえてきっちりと返してもらいましょうか』
「き、貴様、あの時の暗殺者か!」
『そのとおり。で、答えは? 返すなら命は見逃しましょう。返さないのなら、外の衛兵とは違って殺してでも、奪う。それでよろしいでしょうか?』
返答は、しばらく経ってからだった。
「……わ、わかった。返す……、とでも言うと思ったか!! 出てこい!」
恐縮したようなっ先ほどの姿とは打って変わって、急に傲岸不遜な態度をとる。急に現れたのはまだ残っていた衛兵たちと、傭兵、奴隷たち、総勢五十人。
その中には、昼の少女、七十五番もいた。




