幕間 登場人物紹介⑥
○シーク=マクスウェル
おやおや、誰かと思えば高円中佐じゃないですか。それと、あの閃光の女の子。
「よお、ドリー作戦以来だな。こいつに自己紹介してやってくれないか?」
「ああ、カタリナちゃんといいましたか。あの水色の閃光の」
「ははっ、そりゃあいいあだ名だ。これからこいつの二つ名は<水色の閃光>だな」
「そ、そんな、恥ずかしいです」
「おいおい、俺は<死神>だぜ? 二つ名ってのはそんなもんだよ。気にしたら負けだ。むしろ胸を張っとけ」
「わ、わかりました」
「さて、そろそろ自己紹介をしましょう。私はシーク=マクスウェル。二つ名は<紳士>でTACネームもGENTLEです。乗機はスピットファイアです。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。どうしてスーツなんですか?」
「ああ、これですか。キャラ、というやつでしょうか。まあ、英国紳士としてのたしなみですよ」
「かっこいいです」
「ありがとうございます。お嬢さんも十分可愛いですよ」
さて、そろそろ代わらないと、部下たちにあとで何かと言われそうですね。
○ジャック=ブレア
次は私でしょうか。
「では、私はジャック=ブレア。TACネームはHAT。同じくスピットファイアに乗っています」
「ジャックさんは軍服なんですね」
「ええ。私は元戦艦プリンス・オブ・ウェールズ乗りでね。そこでは規律がしっかりしていたから、軍服のほうが楽なんだよ」
「戦艦って、みんなそうなんですか?」
「んー、俺は一度戦艦長門に乗ったことがあるが、確かに何から何まできっちりしてたな」
「三笠さんも戦艦乗りなんですか?」
「いや、俺は本土からラバウルってところに回航されるときに訳あって乗り込んだんだ。元から戦闘機乗りだよ」
「我々は一度戦いましたよね」
「ああ。あの時の対空砲火は怖かった。あの時俺は一式陸攻の直掩にあたってたんだが、かなり正確な対空砲火でなあ、俺の機も右主翼を掠らせた時はどうなるかと思ったもんだ」
「私は水偵部隊だったが、その時は右舷の対空砲を担当していたんですよ」
「おいおい、てことは俺を打ったのはお前の可能性もあるわけだ」
「もしかして、あの時急降下してきた右翼の一部が欠けたゼロって……」
「俺だ」
「「…………」」
「お二人は知り合いだったのですね」
「「互いに知らなかったけどな(ですけどね)」」
まあ、そんなわけで、新たな旧知の知り合いが判明しました。
○アッシュ=ネルソン
まさか彼らが知り合いだったとは。世界は狭いものだな。
「私の名はアッシュ=ネルソン。TACネームはEDGE。よろしく頼む」
「はい。よろしくお願いします」
「アッシュは確か親父と知り合いなんだっけ?」
「ああ。そうだ。日英同盟がなくなる少し前には何度も会っていた。貴公らには会ったことはなかったが、彼の交友範囲はとても広かったよ」
「まあ、ナチス高官とも知り合いだったしな。その辺は疑わないさ」
「彼の情報収集能力は侮れない。頼りにしていると伝えてほしい」
「了解した。親父も喜ぶだろうよ」
○マックス=ロッド
やはり過去の同盟のこともあって日英両部隊は仲がいいのだろうか。
「私はマックス=ロッド。よろしく頼む。何かあったときは何でも聞いてくれ。君たちのところの金橋君には及ばないが、機体の整備などに関してはまあできる。いつでも言ってほしい」
「ありがとうございます。そのときはよろしくお願いします」
「しかし、君が、あれを撃ったとはな……」
「えと、その、私は、その、……」
「人間じゃないからできた、だろう?」
カタリナと三笠殿の目が驚愕で見開かれた。
「! 知っていたのかっ!」
「おっと、三笠殿。そう身構えないでいただきたい。私はあれを間近で見ていた。あれは矮小な我々人間ごときが繰り出せるような軟な魔法なんかじゃない。あなた方より何年も前、少なくとも複葉機全盛期時代にこの世界に来た私にはそれがわかる。誰が人間で、誰が人間でないのかも」
「…………じゃあ、これを、見ても驚きませんか?」
「驚かないだろうな」
カタリナが飛行帽を脱ぐと、現れたのは獣の、狼の耳。フェンリル純血種か。黒髪に金色の瞳の時点でなんとなくは感づいていたが……。
「本当に、驚かないんですね」
「当たり前だ。英国紳士は言ったことは守る。何より、私は何人もの魔族と呼ばれる者たちを見ているからな。もう驚くのにも飽きた」
さすがに、フェンリルという高等種で、しかも純血種というのは初めて見たが。
○アメリア=レインウッド
マックスさん、目がやたらキラキラ輝いてますね。いつもはぼーっとしてるのに。
「わたくしはアメリア=レインウッドと申します。以後お見知りおきを」
「よろしく、お願いします」
あらあら、じっと見つめても何も出ませんわ。
「この服装のこと?」
「あ、……はい」
「いえ、いいですわ。お気になさらず。これは隊長と同じようにキャラのようなものですわ。まあ、こんなところでドレスを着るような人はあまりいませんが」
「あまりどころかアンタだけだろうよ」
「あら、三笠様。それでも何か大切なときは若草ちゃんも来ているのではなくて?」
「…………確かにそうだ。だが、それとは別だろう。普段着としてそれを着るのはどうなんだ? スーツくらいならなんとなくわかるが、ドレスになるとお前は中世ヨーロッパ貴族かっ、とでもツッコミたくなる」
「三笠様だっていつも袴姿じゃないですか。袴もドレスと似たようなものではなくて?」
「袴じゃねえ、水干だ。この服は武器を仕込みやすいから来てるまでだ」
「違いが判らない、とでもいうような顔ですね、カタリナちゃん」
「あ、はい。どちらかというと、おしゃれというのがあまりよく分からないんです」
「そうですか、ではいいことを教えてあげましょう。少しこちらにおいでなさい」
彼女の耳に簡単なことを小さな声で教えてあげると、彼女は顔を真っ赤にして戸惑っております。
「あ、……な、う、あう」
「ふふふ、純情ですわ。可愛らしいですわね」
「おい、何を吹き込んだんだ?」
「殿方には関係のないことですわ。ではカタリナちゃん、また近日中にいらっしゃい。レクチャーしてあげましょう」
「う、ああう、……はい」
○ ○ ○
○高円三笠
「どうだった?」
「すごく、個性的な人たちなんだなって、思いました」
「で、アメリアに何を吹き込まれた?」
「ひ、秘密ですっ」
顔を真っ赤にして逃げられた。本当に何を言われたんだ?
とりあえずこれで全航空部隊の紹介が終了です