涙
○青年
果実を拾い終、奴隷の少女とともにしばらく歩く。目的地であるその屋敷が割と遠いことを知って、途中で休憩をしていくことにした。
「そういや、休憩するのはいいものの、休憩できるような場所でもあるのか?」
”道を少しはなれたところに、小さな丘がありますそこに一本だけ大きな木が生えているので、私はよくそこで休憩しています”
「わかった。まずはそこまで行こう」
○少女
歩きながらかんがえる。どうしてこの人はここまで優しくしてくれるのだろうか。さっきは薬もくれたし、果実を拾うのも手伝ってくれた。自分は奴隷であり、獣人だ。この目の金色も周りとは違う色なので自分と同じ奴隷身分の者にでさえ忌避されている。それなのに、なぜ避けようとしないのだろうか。今まで自分と他人とのコミュニケーションにあったのは、一方的な暴力のみだった。それが普通だと思っていた。それをこの青年は破った。
そう考えると、涙が出てきた。
「おいおい、何で泣いてるんだ? 俺は女の子が泣いてるのはあんまり見たくないんだが……」
その声は、本当に戸惑っている声でした。
”な、なんでもありません”
「いーや、それはないな。今まで辛かったんだろう? 休憩場所に着いたら話くらい聞いてやるさ。飯だって少しは分けてやる。だから、……だから、今の間は泣き止んでいてくれ。なっ?」
”分かりました”
それで完全に泣き止めるわけではなく、少しすすり続けていたけど、私は泣くことなく青年を休憩場所まで案内した。
木陰の下で、男の人は背嚢の中から数本の竹筒を取り出した。中に入っていたのは香ばしい香りのする握り飯や焼肉だった。
「さ、食え。なに、遠慮なんてしなくてもいいぞ? 沢山あるからな。あ、あと水。ほれ」
新たに取り出した竹筒を私に向けて放る。
どれもおいしかった。今まで食べていた残飯のような残念なご飯などとは比べ物にならないほど。食べれば食べるほどお腹が減り、そのまま一心不乱に食べ続けました。
また涙が出てきて、今度はなかなか止まりません。止まってほしいのに。
「ははは、泣き虫だなあ、お前は。ほら、たっぷり食え、飲め、泣け、語れ。それがお前の明日の生きる糧になるさ」
私は言われたとおりに沢山食べ、飲み、泣き、話しました。今までの辛かった事すべてを吐き出すかのように。その間、男の人は何も口を挟まずに聞いてくれていました。
「……もう大丈夫か?」
いつの間にか私は青年の胸の中で泣いていました。
「はい。ありがとうございました」
いつの間にか声が出るようになっています。気分は澄んでいたけど、それでも涙は止まりませんでした。
「もうしばらく、このままでいいですか?」
「ああ、いいぞ。こんな可愛い少女に抱きつかれるなんて早々ないからなあ」
役得役得と笑いながら男の人は私が完全に泣き止むまで背中をさすり続けた。