秘密の部屋
○荒鷲傭兵団航空機格納庫秘密の部屋・金橋以蔵
暗く長い廊下を抜けると、明るく開けた大きな部屋に出る。あまりの眩しさに目を左手で覆い隠し、右手で周囲を探る。
ようやく目が慣れてきた。目の前にいるのは十人の男女。
「やあ、金橋中尉。今日はどうだったよ?」
「これはこれはジョージ大尉。お久しぶりです。敵は殲滅ですよ。カタリナちゃんの実力が明らかになりました」
「カタリナ、っていやああの獣耳のちっちゃな少女のことかい?」
「やあ、ジゼル中尉。その通りですよ。あれは、何と説明したものかわかりませんが、いうなれば冷凍光線ですよ。一帯の敵戦闘機全てが真っ白に凍り付いて墜落して行きました。もちろん操縦者も凍死してますよ。おそらく絶対零度と同等のレベルなのではないでしょうか」
絶対零度。水の古代属性魔法として最大クラスの魔法に位置しており、炎の絶対温度と並ぶとされている。最高位の魔法は、古代魔法よりも古い、神代魔法の大紅蓮地獄と大焦熱地獄なのだそうだ。
「おお、怖い怖い。こりゃあ気を付けねえとな。地上なんかで撃たれたら砂漠だろうと雪原になりそうだな」
「むしろ永久凍土でしょうよ」
「どちらも当てはまりそうですがね。それより、はやくコイツを完成させてしまいましょう。恐れていたことがついに起こったのです。のんびり話しているような時間はありませんよ」
「「おっとそうだった」」
僕たちが作業に取り掛かったのは、この世界の技術では二十年、いや、三十年経ったとしても追いつかなさそうな新型戦闘機。大陸南方の沖合にある小島、通称航空機の墓場で見つかった機体で、全長は約二十メートルはあり、大型機の分類にあたるサンダーボルトや紫電改などはこれと比較すると子供みたいだ。
「しっかしでけえな。この、なんだっけ、F-15J イーグル? とやらは」
「説明書らしきものがついてなければ我々はこいつがなんなのかすらわからなかった可能性があるでしょうね。なにせ、Me262や秋水、震電ですら最初は戦闘機には見えなかったのですから」
「まあな。純粋な化学があの世界ではここまで発展するのか。この世界の魔導科学も相当なもんだと思ってはいたが、案外侮れねえもんだな。赤丸―――日の丸をつけちゃあいるが、もとはうちの国の戦闘機を日本の技術で作ったなんだそうだ」
ジョージ大尉がマニュアルを読みながら答える。世界一の大国は技術力もあるようだ。さすがはアメリカ。けど、日本も負けてない。
ちなみにこちらの世界の技術では、どうも菊花皇国などの東洋諸国が優勢にあるらしい。
実際この傭兵ギルドでは菊花と提携を結んで技術発展が著しい。菊花の技術は門外不出なのだそうだが、相手はあちらでいう日本人なので、潜入して指導者を集めるのは楽だった。今も何人かを連れてきてここで作業を指導してもらっている。
賄賂って、便利ですね。
○荒鷲傭兵団航空機格納庫秘密の部屋・ジョージ・フランクリン
ジゼルが十機近くある機体と、その近くに置かれている謎の物体を指さして金橋に質問する。畜生、俺でもいいじゃあねえか。
「で、なんだってこんなに機体とよくわかんねえ箱を持ってきたんで?」
「さあ? けど、この箱はイーグルの胴体下部につけるウェポンベイとやらなんだそうです。すてるすとかいう戦闘機を作るらしいですよ? こんなにあるのは失敗してもいいようになんだとか」
どうも司令部からそういう通達があったらしい。金橋も俺に同じ質問したよな。実際最初に説明した俺もそこからただ命令を受領しただけだからよくわからんがな。
「上からの指示、なんですよね?」
「ま、その通りだな。俺たちはこのイーグルを仕上げればいい。あとの五機に負けねえような最高の機体を作り上げてやろうじゃねえか。今日中にな」
「「おうっ!! …………え?」」
○ ○ ○
○荒鷲傭兵団第六六六飛行戦闘隊控室・カタリナ
翌朝。三笠さんと一緒に控室へ行くと金橋さんが先に待っていました。壁の中から現れたような、かなり怪しいポーズで。
「おはようございます、金橋さん」
「や、やあカタリナちゃん。おはよう。高円中佐もおはようございます」
「お、おお。どうした? ずいぶん疲れているようだが」
「何でもありません。ちょっと用事で立て込んでたのであまり眠れなかっただけです」
「そうか、気をつけろよ? ……そういや、さっきジゼルやジョージにも会ったが、ずいぶん疲れた顔をしてたな。何かやってたのか?」
「い、いえ、ナンデモナイデスヨ?」
「嘘です」
あまりにも辛そうだったので嘘を指摘してみたのですが、合っていたでしょうか。目も泳いでいるし、さっきから背中に何かを隠しているようでしたから。
「背中、何かあるのか?」
「さ、さあ、僕には何のことかさっぱりわかりませんね」
「よーし、そこをどいてみろ。何もないなら大丈夫なはずだ。さっきから気になってるんだよなあ、そのお前の後ろから流れてる隙間風」
「な、何でもないですから!」
「いけ、カタリナ!」
「了解です!」
三笠さんが右を、私が左をとって金橋さんを壁から引きはがしにかかります。
「ちょっ! だめですって! そんなにやったら壊れ―――」
がちゃり。青葉さんが入ってきました。その目の前には、金橋さんを押し倒しているような姿の三笠さんと私の姿。
「ヤッホー……って、……ごめんねえ。おじゃましましたあー。三人でなかよく、ごゆっくり♪」
「「待てええええええっ!!」」
ごゆっくりとは、どういうことなんでしょうか。ただ、お二人は青葉さんを止めに行っちゃいました。なので、私はその隙にこっそり壁の向こうへ行ってみることにしました。
そこには―――。