問答
○青年
拾った果実を少女に手渡す。
「これ、お前の?」
「―――」
何か言おうとしたようだが、何故か声が出ない。代わりにこくりと頷いた。
「お前、一人?」
こくり。
「喋れないのか?」
こくり。
「それは先天的に? 後天的に?」
頷く代わりに喉を指差す。そこは、火傷の痕があった。
「こいつはひどいな。虐待か? まあ、そうでもなきゃこんな格好してないわな。奴隷か?」
こくり、こくり。二回頷く。両方を肯定しているらしい。
「少し待ってろ」
背負っていた背嚢の中身を漁り、ひとつの小さな箱を取り出す。その中には白いクリーム状の何かが入っている。
「おお、これだこれ。ちょっと上向け。塗ってやるから」
そのままできる限り優しい手つきで喉にクリームを塗ってやる。それはひんやりとしているから、少しくすぐったいかもしれない。
「こいつは火傷を治す薬だ。少しは楽になると思うぞ?」
○少女
気休めかもしれないけど、楽になったので、それを身振りで示すと、男の人はニイと笑いました。
「どこに所属してる奴隷だ?」
西を指差したのですが、男の人にわからないというような顔をされました。うう、声が出せないのがもどかしいです。
「うん。わからん。それと、めんどくさいから口で何か言う素振りだけでもしてみろ。俺は理解できるから」
”西の方角にある伯爵のお屋敷で働かされています”
「伯爵。それはケーズ伯爵のことか?」
”その通りです”
男の人の顔が少しだけ明るくなりました。よかった。
「ふうん。なら、そこまで案内してくれないか? 道がわからん」
”わかりました。ですが、少々お待ちください”
「ああ、それを拾うのか。いいよ。手伝ってやろう」
”いいんですか?”
「ああ。ちょっと待ってな」
そう言うと男の人は道に転がった果実を率先して拾い始めました。それは、私の仕事なのに。