決着
一方森の中を進む三笠は、本陣から離れて逃げる連合軍総大将の一団に追いつき、木の上から見張っていた。が、しびれを切らして目の前に飛び降りる。忍者装束、不気味な白仮面姿で。
『これはこれは皆さんお揃いで。ピクニックですか?』
「な、だ、誰だ!」
『秘密ですよ。ただ、さっき戦闘機であなた方の本陣を奇襲した人間、とでも言っておきましょうか。いや、怪物、かな?』
「ということは、傭兵軍の者か」
『大・正・解! ということで貴方方に私は降伏勧告をいたしましょう! なんと奥さん(誰のことを示しているのかはわからない。おそらくその場のノリだろう)! 今ならただで命が助かりますよ! なんてお得! 降伏しないのならば、全員気絶させて無条件降伏させちゃいます。降伏or無条件降伏。さあ、あなたはどちらを選びますか? ぶっちゃけたことを言えばもう本陣に戻っても無駄無駄無駄ア☆ なんと! もうすでに傭兵軍が本陣を占領してこっちへ向かってる途中なのでーす! アッハッハッハッハ!!』
白い仮面が高笑いとともにハイテンションで告げた内容に、活路は見いだせなかった。
ニヤニヤと(もともと笑っている仮面なのでその内部の表情はわからないが)自分たちの周囲をぐるぐる回る男に青筋を浮かべながらも降伏することを告げる。
『ほっほー。存外早く決まりましたねえ。成程成程、な・る・ほ・ど。了解でっす! これを伝えてきましょう! ではでは、それでは!!』
ボン! という音とともに男は消え、その直後に傭兵軍の鬨の声が聞こえてきた。
「まさか、たった六十人の部隊に三百はいる我々が負けるとは……」
「これが異世界の力ってやつですよ。なに、あなた方が弱いんじゃなくて、我々が強すぎるんだ」
「同じ傭兵軍でもここまで航空戦に差が表れるとショックを受けるな」
代表三人が話し合っている一方、地上部隊、海上部隊、航空部隊も敵味方を超えて話をしていた。
海上部隊では、
「あの揚陸艦、いったいどれだけ積めるんです?」
「ま、戦車なら最低二両。人員なら最低でも百近くは詰めるんじゃないか?ま、そこまで積んだことねえから分かんねえけどな!」
「あんたがたの艦。なかなかいいじゃねえか。俺たちを負かすたあ、なかなかできねえことだぜ?」
「いやあ、おほめに預かり光栄ですな。なに、性能ではなく、人の力を信じているからこそあそこまでできたのですよ。まあ、そのあとすぐに負けましたがな! ですが、大事な艦の主砲にに洗濯物を干したり、誇りが溜まっていたりするのはいただけませんなあ。ちゃんと掃除をしなければ艦が泣きますよ?」
「おっとそりゃあいけねえ。ちゃんと新米どもを鍛えなおすしかなさそうだな!」
がっはっはっはっは! と大笑いする声が響いていた。
陸上部隊では、
「なかなかいい戦車をお使いのようで」
「こいつは九五式軽戦車でしてね、あっちはティーガーⅠ。性能差はかなりありますが、役目によってはどれもなかなか使いやすいんですよ」
「ほう、それなら我々の二型戦車に一八三型戦車も負けてはいませんよ」
「へえ、見てみたかったな。歩兵の支援だけで戦車戦は起こらなかったし」
「あの歩兵部隊の迅速さと言ったら! 我々の国に欲しいくらいですよ!」
「そりゃあ一から鍛えてやってんだ。あったりめえよ」
「とか言いつつ嬉しそうな顔してんじゃねえの、海坊主さんよお」
「んだとお? おめえもそうだろうが荒鷲!」
傭兵軍の仲間割れが起こっていた。
そして、航空部隊。
「あの機動を行うにはだな、空中分解の可能性があるからボルトをしっかり締めて、どんなことがあっても緩くなるようなことがあっちゃならねえんだ。海坊主の機体みたいになる」
「ほー。ということは、それさえ気を付けておけば?」
「いや、そうでもない。もともとの機体性能の差というのもある。あんなのはまず固定脚機ではできないだろうよ」
「はあ。というか、女性も戦闘機に乗るのか。危険では?」
「そうでもないですよ? 誰にだって適正はあるんです。ウチはそれがある人を戦闘機に乗っけるだけですから。で、この機動なんですが、エルロンロールやハイ・ヨーヨーさえできるなら可能ですよ。基本的な技を組み合わせることでできるんです」
「ま、できるかできないかは操縦士の腕にもよるんですけどね。インメルマンターンみたいな機動は少しでもミスをすれば機体ごと大地と永遠のキス。なんてことになったりしますから。あとは、風精霊との契約なんて言うのもいいかもしれませんね。あれの力を使えばかなりいろいろできますよ」
かなり本格的な空中戦闘機動の話し合いが行われていた。