紅華帝国空軍
○零式輸送機操縦席・高円若草
紅華帝国の国境に差し掛かった時、前方に赤く塗装された戦闘機らしきものが見えた。旋回している。
「前方に機影。距離およそ三千。戦闘機だと思われます。数は三」
「よく見つけてくれた。たぶんお迎えだろうな」
私が見つけたことを報告すると、兄さんは私の頭を撫でてくれた。ほめてくれるのはうれしいけど、いつまでも子ども扱いなのはちょっと……。
『荒鷲傭兵団の方々とお見受けする! 我々は紅華帝国空軍第一飛行隊だ! お迎えに上がった!』
『こちら荒鷲傭兵団一一一飛行戦闘部隊。出迎え感謝する』
兄さんが答える前に、輸送機の主翼を左右に振って自分を示すようにサンイチ飛戦が答えた。
『私たちは二二二飛行戦闘部隊。今後の予定を報告します。間もなく貴国の国境付近の町で補給を実施。その後、菊花皇国中部の町でも補給を行い、デルタ諸島へと向かう予定です。我々の最終目的地はデルタ諸島の四の島で良いですか?』
ドイツから来たサンニイ飛戦が確認し、紅華空軍が認める。
「俺たちはサンロク飛行戦闘隊。間もなく降下する。貴国の管制塔の無線周波数を教えてくれ」
教えられた周波数の無線で管制塔に着陸許可と着陸目的を伝え、待機する。間もなく許可が与えられ、全機着陸した。国土が広大なだけあって、複数の滑走路がある。おかげで待機時間が無駄に長くなることはなかった。
燃料補給を終えて離陸し、次は菊花皇国へと向かう。町の中で暇を潰せるものもいくつか購入したので、カタリナが退屈になることはないだろう。今は司令部の男たちと双六をして遊んでいる。司令部も相当暇だったのだろう。それに加えてなぜかイタリアから来たサンヨン飛戦の男が搭乗していて、一緒に混ざりながらも夏見をナンパしている。殴り飛ばされた。これで懲りずに別の女性にアピールしようとするところは感心するが、諦めた方がいいのではないだろうか。
「どうしてあの人がいるんですかね?」
「おい、気持ちはわかるがここは輸送機の中だ。斬りかかるなよ?」
若草も過去にあの男にナンパされたらしく、それ以降あの男を相当嫌っている。目は笑っているのだが、体じゅうから相当な殺気と怒気を放っているため、できれば一緒に操縦席にいたくはないくらいだ。すでに右手がめったに使われないのにやたら綺麗に手入れされている刀の柄の上に置かれている。すでに抜刀体勢だ。
「分かっています。ですが、私は、この気持ちが抑えられないっ!!」
「わっ、馬鹿、やめろ! 束縛!」
魔力を使って空気中に不可視の縄を創造し、若草を縛り、身動きが取れないようにする。
「兄さん! 放してください! 私はあの男を討つんです!」
「後でな! 今は操縦中なんだ! 着陸してからなら幾らでも殺っていいから!」
束縛しているはずなのに、縄が若草の溢れるような力でミシミシ、ブチっ! ブチっ! と音を立てて切れていく。その時にとった三笠が行動は、若草の唇を奪うことだった。こうすれば妹は焦って動きを止める。
ボッと火がついたように若草の顔が赤くなる。
「なっ……! 兄さん、こ、こんな時にな、何をするんですか……?」
「いや、だって、お前こうでもしないと俺の縄ちぎるし」
「うう、不意打ちは卑怯ですよ……」
「? 何か言ったか?」
ぶつぶつと何かを呟いているが、あいにく三笠はそこまで三笠は耳がよくないために聞きとれない。
「い、いえ、何でもないです」
「そうか、ならいいや」
明らかに狼狽しているのだが、面倒なのでそのまま放置しておく。
その直前にはサンロク飛戦の輸送機が大揺れを起こしてサンニイ飛戦とサンゴオ飛戦の輸送機にぶつかりかけ、各機体が大慌てで回避したり追従したりと大変だった。だが、操縦席の二人はそんなことがあったことには一切気づいていない。