異世界の航空機
○荒鷲傭兵団航空機格納庫零式輸送機操縦席・高円三笠
翌日。滑走路でエンジンをふかしながら待つ零式輸送機に、サンロク飛空、ニロク戦隊、ロク司令の面々が乗り込む。だが、剣は乗り込まずに零戦で護衛をする。
ロク司令の一人が点呼をとる。
「ロク、全員いるか?」『応!』「ニロク」『応!!』「サンロク」「剣以外は全員やな」
「よし、離陸してくれ」
「了解。これより零式輸送機、離陸します。操縦士は高円三笠。よろしく」
無線で応答し、二つのゼロが動き出す。
離陸すると、ほかの五機の輸送機と五機の護衛戦闘機が待っていた。それぞれの輸送機や戦闘機にはそれぞれの国籍と部隊章が張られている。すべて異世界の機体で、乗員もかつては敵だったり、仲間だったりした者たちだ。
元大日本帝国所属の零式輸送機と零式艦上戦闘機。元大英帝国所属のヘイスティングスとスピリットファイア。元ドイツ帝国所属のJu32とBf109。元イタリア王国所属のG.12とMC.202フォルゴーレ。元ソビエト連邦所属のИл-12イール・ドヴィナーッツァチとЯк-3ヤーク・トリー。元アメリカ合衆国所属のC-76キャラバンとF6Fヘルキャットだ。
総勢十二機の機体が一斉に東に向かって飛んでいく姿は、なかなかに壮大だ。途中で民間機が空賊除けになると思って一緒に飛んだり、それに驚いた国の空軍が慌てて誰何してきたり、空賊は機体のエンブレムを見て慌てて逃げ出す。それらに対応しながらも堂々と進んでいく航空機群。皆、唖然として見守るほかなかった。
また二機の民間機がくっついてきた。
「またか……」
「そこまで私たちも万能というわけではないんですけどね」
「まあ強者に追従したいというのは当然のことか」
そんな会話が客席から聞こえる。
「こちらとしては情報を得ることができるからありがたいことだが、しかし、どう考えてもガセネタが入ってる情報もあるな」
「まあ、わかる部分は簡単に教えてあげればそのあとの誤解もなくて済みますよ? それに、もし襲ってこられても守ることはできませんから、別に墜落したらしたで私たちは関係ありませんよ。『勝手について来て勝手に墜ちた』とでも言っておけばいいんです」
「まあ確かに。だが、随分と薄情だな」
「何を言ってるんです? 兄さん。私はずっと前からこうですよ?」
「それもそうだった」
三笠も若草とともにそんな話をする。
「目的地まではどのくらいかかるんですか?」
「そうだな、あと二時間ほど飛んで、一回休憩のために紅華の国境付近の町で降りて、もう一回菊花で降りる。そのあとはまた一時間近く飛び続けるから、あとまあ七時間ほどじゃないか? どうかしたのか?」
カタリナが聞いてきたから答えてやると、「暇なのです」と返された。まあ、まだ年齢的には子供だし、(見立てでは十二歳頃)輸送機の中は何もないうえに、気難しい人間も多くいるので騒がしくするわけにもいかないのだから当然だろう。
「何かなかったかなあ、暇を潰せるけど、静かにできるもの」
操縦を若草に任せて、ロッカーの中を探る。出てきたのはかなり難しめの哲学書や、経済学などの本。
「…………ちょっと待っててくれよ。たぶん何かあるから」
「わかりました」
それから探すこと数分。ついにお手玉が六個出てきた。
「お、これなんかいいんじゃないか?」
「なんですかそれ?」
「お手玉だ。こうやって、こうして遊ぶ。案外難しいぞー。ま、俺みたいに慣れた奴は六個だろうと十個だろうとできるけどな」
カタリナのために実演してみせる。最初は三個。そして床に落ちている玉を足で器用に蹴り上げて四個。同じように五個、六個と輪の中に入り、どんどん加速し、きれいな極彩色の輪ができた。
「わあ、これ、借りてもいいんですか?」
「おう。いろいろあるからこの鞄ごと貸しておく。好きに使うといい」
書籍類を抜き取って玩具だけを入れた鞄をカタリナに手渡すと、カタリナは喜んで客席に戻っていった。やっぱり子供だなあ。
「悪いな、大丈夫か?」
「随分と仲がよろしいんですね。兄さん」
少し不機嫌そうな顔をする若草。
「そんな顔するなって。ちゃんとお前のことも考えてるから。なんなら一緒に操縦するか?」
「いいんですか?」
「むしろ嫌なのか?」
「いえ、うれしいです」
二人の操縦士はそれから仲良く飛び続けた。自分で言っててなんか、アレだな。うん。
Ил-12イール・ドヴィナーッツァチとЯк-3ヤーク・トリーは、ロシア語読みになっています。
Ил-12イール・ドヴィナーッツァチは、イリューシン12。NATOコードネーム「コーチ(Coach)」です。
Як-3ヤーク・トリーは、Yak-3(Jak-3;ヤク3)です。