模擬戦闘
○屠龍前部操縦席・夏見小町
戦闘機群が昇降機で滑走路上に上がりる。そこに見えるのは等間隔で並ぶ松明と、その先に見える外の光だけ。
「何も見えませんね」
「まあ、山の中だからね」
『離陸するぞ』
カタリナちゃんと会話をしていると、高円中佐から無線が入った。
「了解」
五機の戦闘機が離陸し、そのあとから百式司令部偵察機が離陸してきた。
『おや、大佐たちも出るんですか?』
『当たり前やろ。新入りの歓迎パーティーやねんからな』
金橋と社が無線で通信する。そこに、割り込みが入った。
『ヘーイ! サンロクのジョーカーズ!! 今日こそどちらが本物の死神部隊なのか、決着をつけようじゃないか!!』
なんと、百式司偵の後ろに、五機の戦闘機がついてきていた。それもサンロク飛空のように深緑色に統一された機体ではなく、銀だったり、紺だったり、いろいろな色合いだ。前から順に、P-51 ムスタング、P-38 ライトニング、P-47 サンダーボルト、F6F ヘルキャット、F4U コルセアの異種編隊だ。もう! いつもこういう時にちょっかいをかけにくるんだから!
『サンイチ飛戦のブレイカーズか。喧しいんだよ。こちとらこれから新入りの歓迎パーティーなんだ。邪魔すんな』
『ケチケチすんなって。どうせお前ら曲芸飛行するだけなんだろ? なら模擬空戦でもしようぜ。なあ、新入りのお嬢ちゃん?』
「は、はい! 模擬空戦、やってみたいです!」
『ゲストの頼みとあっちゃあしょうがねえ。おい、サンイチ。相手しろ』
『望むところだ!!』
○百式司令部偵察機・高円若草
サンロク飛戦とサンイチ飛戦が向き合い、戦闘が開始された。
『こんなところで日米空戦をする羽目になるとは思ってなかったんだが、なっ!』
『なかなかやるじゃないかジョーカー! それでこそ我々の相手だ!』
紫電改とムスタングが巴戦に入り、くるくると回りながら上昇していく。
零戦とヘルキャット、疾風とコルセア、震電とライトニング、屠龍とサンダーボルトが戦いを繰り広げる。
『俺の勝ちだねぃ、破壊者。これで三十勝一敗。弱いねえ、お嬢ちゃん♪』
『ガッデム!! 私が負けるなんて!』
どうやら剣少佐が勝利したらしい。あの二人は仲がいいようにも見えるが、どちらなのだろうか。
震電とライトニングの奇形戦闘機組は、後ろをとって取られてを繰り返し、頭上をとった金橋中尉が勝利した。
『僕の勝ちです!』
『あっちゃー、やられたね。これはオレの負けだ。これで十五勝十六敗か』
『ありがとうございました! 結構貴重なサンプルが手に入りました!』
『そうかい、それはよかった』
どうやら戦いながら金橋中尉はデータを記録していたらしい。ずいぶんな余裕だ。
『なっ、負けた?』
『そうやって顔隠してるからいい線行くだけで終わるんだよ、バーカ』
『まだそれでもこちらが三勝分勝ってるからいいもんね』
『そうやって言ってられるのも今の内だよ~?』
青葉大尉が敗退したようだ。この二人は仲がいいらしい。
「なかなかやりますね! さすがは先輩!」
『君たちもな。ここまで追い込まれたのは初めてだ。だが、私は負けない!!』
「「嘘っ!?」」
屠龍は追い込まれていた。大型機同士の戦いで、ここまで派手な空戦はないだろう。
『私の勝ちだな、もっと励め。あと、新入り、なかなかいい腕をしてるじゃないか』
「本当ですか!?」
『また相手をしてやろう』
「「ありがとうございました!」」
これで小町たちの三十一連敗。まだまだこれからだ。
一方、なかなか決着のつかない紫電改とムスタング。
『さっさと落ちろや、クソボケ!!』
『やってみろクズ!!』
空戦しながら罵倒しあい、模擬空戦どころか本気の殺し合いを繰り広げていた。
『終わりだ!!』
『まだだ!!』
戦いは終わらない。両方自分が隊長であるというプライドがあり、負けるわけにはいかないのだ。上昇しては下降し、また上昇して今度は宙返りを打つ。アクロバティックな戦いを繰り広げ、紫電改の機銃がムスタングの胴体と主翼に穴をあけたところで戦いは終わった。
『フッ、俺の勝ちだ』
『今度は負けんぞ』
サンロク飛戦は死神の座を守り切った。