帰還
○高円三笠
空賊の襲撃から六時間ほど飛び続けて、大陸中央部の町に到着した。
補給と休憩、観光をしている間に二時間経ってて、太陽は沈みかけていた。時間的に危なくなってくるので、急いで離陸する。
「まずいな。あと二時間しかない!」
「二時間経つとどうなるんですか?」
「門が閉じて翌朝まで締め出される」
「まずくないですか?」
「まずいな。これ以上ないくらいまずい。ということで、これからこいつの最高速度で飛ぶ。少し寒いかもしれないが、我慢してくれ」
「わかりました」
零戦がさらにエンジンを大きく唸らせて、速度を上げる。
「六百km/hか。このくらいならなんとか一時間以内に到着できそうだ」
どんどん暗くなっていく景色が後ろに流れていき、ついにカムイ火山が見えてきた。無線を取り出して呼びかける。
「そろそろか。……How do you read? This is Joker.(聞こえるか? こちらジョーカー)」
すると、二つの無線が入った。一つは前方からやてくる機体後部にプロペラを付けた独特な機体からの安堵の声。もう一つは、怒鳴る独特な口調の声だった。
『中佐! ようやく見つけた!』
『こんな遅うまで何をやっとるんじゃボケェ!!』
「うげっ、なんで親父、いや、大佐が!? あと、金橋!?」
『あんまり遅いから迎えに来たんです! よかった、すぐに見つかった』
『見つかったんなら早よ着陸してこんか!』
「『の、Noted with thanks.(りょ、了解)』」
『……Perform landing check! ……Gear should be down.…………Approaching glide path. Begin descent! (……着陸確認! ……降着装置を下げろ。…………グライドパス接近。降下開始!)』
松明が灯された誘導路を二機の戦闘機が進み、着陸する。どうやら、山の中に大穴が開いていて、その中に入ったようだ。
「遅い!!」
「ぐうっ!?」
機体から降りた瞬間に殴り飛ばされた。
「ミカサさん!」
カタリナが駆け寄る。
「中佐、部隊長ともあろうお方がこんな時間まで何をしてたんですか?」
目の前に立っていたのは白い軍服姿の若い女性。目は笑っているのに、とんでもない迫力が醸し出されている。ヤバイヤバイヤバイ。逃げろと頭の中で自分が警鐘を鳴らしている。
「ちゃ、ちゃうねん。これには訳が……」
何故か親父の口調がうつっていた。
「問答無用! しばらく営倉の中で反省していてください!」
女性の合図で筋骨隆々な男が二人、俺を捕まえてどこかへ連れて行こうとする。
「待ってください!」
カタリナが男たちの一人に全力でタックルし、ミカサを奪い返す。
「あなたは誰です!」
「私はカタリナといいます! ミカサさんに助けられた元奴隷です! そのせいでミカサさんは帰るのが遅くなったのです!」
女はカタリナの目をじっと見つめ、はあ、とため息をついた。
「その言葉に偽りはないようですね。仕方がありません信じましょう」
こうして、カタリナのおかげで俺は営倉入りを免れることができた。
○ ○ ○
○カタリナ
翌朝、朝食を好奇の目線を受けながら食べた私たちは航空機格納庫へ向かいます。そこには、何人かの人影が大小さまざまな航空機とともに二人を待っていました。
「中佐! 急に我々を読んでどうしたんですか?」
昨日のスーツ姿のお兄さんがミカサさんに質問します。
「新しい仲間だ。ほれ、自己紹介しろ」
ミカサさんに押し出された私は緊張でカチカチになっていて、とてもしゃべれる状況じゃありません。何しろ目の前にいるのはいかにも人斬りといった顔つきの義足をした男性なのです。何か間違ったことを少しでも行ってしまったら斬り殺されてしまいそうで、怖すぎて動けないのです。
そんな私の様子を察したのか、ミカサさんが私のことを紹介してくれました。
「こいつはカタリナ。とある町で助けた元奴隷の少女だ。フェンリルの純血種らしく、身体能力も高い。乗機は決めてないが、身長の問題でおそらく複座式戦闘機が必要になるだろうな」
そういって一人の女性のことを見つめました。中華風の服を着た女性がそれを察したように手を挙げました。
「はい! ならアタシの屠龍はどうですか?」
「小町か。まあいいんじゃないか? 他は全員単座式だし」
「よろしくね、カタリナちゃん! アタシは夏見小町少尉。乗機は屠龍っていう大型の戦闘機なんだ」
小町が指をさすところにある双発型の大きな戦闘機。あれが屠龍なのだろう。壁に取り付けられた黒板に名前を書き、こう読むのだと教えてくれました。
そこから自己紹介が始まる。まずはスーツの男。
「僕は金橋以蔵中尉。飛行実験団の一人だから、メンテナンスとかも僕が担当。乗機は震電。よろしく」
続いて、顔の判別しない人です。声も中性的で、性別がわかりません。
「青葉諒大尉。性別は秘密だね。だってそのほうが面白いでしょ? 乗機は疾風っていう戦闘機。よろしくね」
そして、人斬りのような人相の男の人。
「俺ぁ剣兵八少佐。さっきは怖がらせたようで悪いねえ。乗機は零式艦上戦闘機六四型ってえ機体だ。昨日中佐が乗ってきた奴の改良版よ」
続いて、ミカサ。
「改めて、俺がこの戦闘隊隊長の高円三笠中佐だ。乗機は紫電改。これからよろしく」
ミカサさんの字って、こうやって書くんですね。三笠、三笠。よし、覚えました。
最後に昨日三笠さんのことを営倉に閉じ込めようとした白軍服の女性と三笠さんを殴り飛ばした茶色い軍服の坊主頭の男性が続きます。
「わたしは高円若草少尉です」
「おっちゃんの名前は高円社大佐。おっちゃんら二人はそこにいる三笠の父親と妹やねん。乗機は二人とも百式司令部偵察機Ⅲ型。よろしゅうな」
アホとはなんだアホとは。と呟きながら、三笠さんが説明してくれました。
「簡単に俺たちとこの部隊のことを説明するぞ。俺たちが所属しているのは<荒鷲傭兵団>。俺たちの部隊は六六六飛行戦闘隊で、通称サンロク飛戦。この山の中にはあと五個の飛行戦闘部隊と六個の地上戦闘専門部隊、三個の偵察部隊があるんだ。まあ、おいおい説明していくと思うが、今日のところはこんなもんだな」
「中佐、座学なんてつまらねえことやってねえで、この子の歓迎会として、アレやりましょうや。アレ」
剣さんがじれったそうに言うと、全員が頷いた。
「そうだな。やるか! 全員搭乗!」
三笠さんの号令で全員が飛行服に着替えて愛機に搭乗しました。