空
○カタリナ
飛行場にて。
「ミカサさん、これ、どうですか?」
「おお、いいんじゃないか? それなら高高度飛行でも大丈夫だな」
カタリナが着ているのは頑丈そうな灰色の飛行服。
「よし、それにしよう。勘定で」
「承知しました。銀貨二枚です」
「了解」
私の飛行服を買ってもらい、ミカサさんも飛行服に着替えて滑走路脇で零戦を召喚します。
「よし、乗れ」
コックピットに入り、キャノピーを閉めると、航空管制塔から無線で連絡がきました。それにミカサさんが答えています。
『F-0, runway 2. Line up and wait.(F-0、滑走路2に入って待機してください)』
「Noted with thanks.(了解)」
『F-0, wind 7 degrees at 5knots. Runway 2. Cleared for takeoff.(F-0、風向7度で風速5ノット。滑走路2からの離陸に支障ありません)』
「Noted with thanks. ……Take off!(了解。……離陸する!)」
何を言っているのかはわかりませんが、カンセイヨウゴというものなんだと思います。
零戦がプロペラを回転させ、動き出した。次第に加速し、浮き上がりました。すごい! もう地面が小さくなってます!
「わ、飛びました! 飛びましたよ!」
「そりゃあ、飛行機だからな。飛ばなきゃ飛行機じゃないだろ?」
「これからどこへ向かうんですか?」
「中央大山脈の神峰カムイ火山だ」
神峰カムイ火山とは、大陸中央に位置する中央大山脈の中でも、一番高く、一番峻険な山です。その昔、神さまがその火口に降り立ったということから、そう呼ばれているらしいです。
「その周辺じゃなくてですか?」
「俺たちは火山の中に住んでいるんだ。あそこはもう死火山だし、天然の要塞になってるから住みやすいからな」
上昇するうちに、雲の中に入りました。気流の影響で機体が揺れています。
「っとと、こっから急上昇するからしっかりつかまっとけよ?」
「はい!」
ほぼ垂直になって上昇し、雲の中を抜けます。
「わあ、きれいです」
そこに見えていたのは雲海。とても幻想的でした。雲の上に機体の影が映っています。
「こっからしばらく飛び続けて、一度中部にある街で補給する。そのあとは一直線に帰る。たぶん夜には着くだろうな」
「じゃあずっと雲の上ですか?」
「それでもいいが、下の景色を見てみるか? 海賊ならぬ空賊が出たりするから基本的に高空を飛ぶんだが。その時は覚悟が必要だぞ?」
「大丈夫です! 下の景色を見たいです!」
「よく言った。じゃあ、行くぞ!」
零戦は再び雲の中に入っていった。
○ ○ ○
○零戦前部操縦席・高円三笠
雲を抜けると、すぐ前方にこちらに向かってくる航空機の編隊が見えた。
「ミカサさん、何か光ってます」
「さっそくお出ましだ。あれはB17だな。航空要塞だ。米軍航空隊のエンブレムだが、あれは空族だな。しっかり捕まってろっ!」
急に加速した零戦は敵機に向かって突進していく。
○B17爆撃機・空族
「お頭。前方に一機」
爆撃機らしい大型航空機の中で、オレたちは前方から突進してくる小さな航空機に目を向けた。
「撃墜しな。一機だけでオレたちに勝てると思ってんのか? 各機戦闘準備!」
『応!!』
後ろを飛んでいた十機の複葉の戦闘機群が目標に向けて襲いかかった。
○零戦後部操縦席・カタリナ
「カタリナ、歯ア食い縛れッ!!」
ミカサの声がしたと思った直後、途端に急激なGがかかる。機体が右向きに急旋回を始めたのだ。
「きゃっ」
「俺たちを墜とすってんならそれでは遅すぎるぜ?」
いつの間にか零戦は敵戦闘機群の後ろについていた。
「はい、ドーン」
二十ミリ機銃が火を噴いた。一機、二機、三機と撃墜されていき、一分もたたないうちに全機撃墜されていた。
「さて、あとはあの『空飛ぶ要塞』だけだな」
ミカサは後ろを飛ぶB17爆撃機に向けて、旋回を始めた。
○B17爆撃機・空賊
「なっ、全機撃墜? このオレたちが負けるのか?」
その時、敵機から無線が入った。
『よお、そこのB17爆撃機。今からお前らを墜とすんだが、先に聞いておく。それ、どこで拾ってきた?』
「ハッ、答えるかよ。どうしても聞きてえってんなら俺たちを墜としてみやがれ!」
十二,七ミリ機銃十三丁が零戦に向かって火を噴く。
しかし、それらが当たることは一度もなく、掠りもしなかった。
○零戦前部操縦席・高円三笠
「今度はこっちの番だな」
サービスとして死神のような笑顔を爆撃機に向けてやる。
B17爆撃機の下を高速で潜り抜け、背後に抜ける瞬間に操縦桿を引いてインメルマンターン。背面飛行のまま、巨大な垂直尾翼に機銃弾を放つ。命中を確認して右方へ離脱。そのまま下へ錐揉みで逃げる。
『ああああぁぁぁぁぁぁああああっ!!!』
耳障りな悲鳴を響かせながら、垂直尾翼を失い、錐揉みに陥りながら墜落していく爆撃機。地面に激突し、大破した。
「どこで拾ったのか聞くんじゃなかったんですか?」
「あ、忘れてたな。だが、ああなっては生きてる奴はいねえだろう。まあ、なんとなく見当はついてるし、大丈夫だろ」
燃え盛る爆撃機の残骸を確認して、零戦の進路を東に向けた。