解放奴隷
○七十五番
しばらく屋根の上を飛び跳ね続け、仮面の男の人は一本の木がある広場に降り立ち、私を下しました。
『まあ、ここまでこれば大丈夫でしょう』
「ここは……」
ここは昼にミカサと名乗る青年と休んだ場所。偶然?
「あの、あなたは誰なのですか?」
『さてさて、ここで問題です』
「え?」
名前を聞いたのに何故か問題を出されることになりました。
『さて、問題。デデン! 私は誰でしょーうかっ!?』
「み、ミカサさんですか……?」
『…………』
「…………」
この沈黙はなんなのだろうか。少女があの、と口を開こうとした途端、
『ピンポンピンポーン!! 大正解です!!』
かなりハイテンションな声で叫ばれた。周りに聞こえたらどうするのだろうか。
仮面の男の人が急に忍装束を脱ぎ始め、笠をかぶる。忍装束の下には見覚えのある黒尽くめの東洋の服。仮面の下の顔は暗いうえに笠をかぶっていたのでよくわからなかいけど、どう見ても昼にあったミカサと名乗る青年でした。
「よく俺だと分かったな。いつ分かった?」
先ほどの朗らかだが、どこか人をからかうような声とは全く違い、落ち着いて優しさのこもった声でした。
「人質にされた時です。何となく手が優しかったので。そうなんじゃないかなって」
「そうか。たった今からお前は解放奴隷だ。奴隷の少女七十五番じゃなく、ただの少女のカタリナになる。よかったな」
「え? どういうことですか?」
「俺が今からその奴隷の証をなくすってことだ」
「そんなことしていいんですか?」
「駄目なことだぞ。だから今から隠れてこっそりやるんだ。見つからなけりゃ問題にはならない。つーことで、見せてみ」
○高円三笠
手枷と足枷をじっくりと観察する。カタリナが恥ずかしそうな顔をしているが気にしていられるか。
「ふうん。それなりに高度な拘束魔法だな。それに隷属魔法と施錠魔法に重力魔法、……って、こいつは違法レベルじゃねえか。よくこんなんで動けたな」
「私が獣人だからでしょうか?」
「こいつをつけられた当初は体をうまく動かすことができなかっただろう。だが、こういうものだと思って体を慣らしていくうちになんともなくなった、というところか」
「そ、そうです。どうしてわかったんですか?」
「そりゃあ見りゃわかる。……可哀そうにな。すぐ解除してやるから待ってろ。
隷属魔法に開放術式を当てて相殺。施錠魔法解除。重力魔法は、どうなってんだこれ。複雑だな。解析。……こうすればいいのか。解除。あとは鍵だな。二式開錠術式四ヶ所同時展開。…………よし、できた。ちょっと動いてみ」
ゴトリ、という音が四回して手枷と足枷が落ちた。
○カタリナ
体が軽くなった。少し飛び跳ねて、自分の記憶にあった時よりも動きがとてもよくなったことを確認する。
「ありがとうございます。本当です。体がとっても軽いです!」
「そうか、そりゃよかった。で、これからどうする?」
喜んでいる私にミカサさんはまじめな口調で尋ねました。
「え?」
「お前はこれからどうするんだ? 俺は二十番と名乗るおっさんからお前を助けるように依頼された。だが、それ以降のことは何も言われてないから、俺についてきて旅をするもよし、自立してひとりで生きていくもよし。選択肢はいくらでもある。自立するなら、お前の故郷まで送ってやろう。」
「……ついて行っても、いいんですか?」
「ああ、いいぞ。だが、お前、乗り物の操縦はできるか?」
「できません」
「そうか、まあいい。教えながら旅をすればいいからな。じゃあ、朝になったら出発。それまで解散。準備なりなんなりするといい」
そういうと、ミカサさんは夜闇に消えました。