その2
00/一0/二八
死ぬほど好きでも、どうにもならない恋というのはあります。残念ながら。
00/一0/二九
俺はだいぶ変わっているって言われるけど、美穂さんも多少普通の人とは感性が違うと思います。
人間は自分と同じ感覚を持つ人と親しくなる傾向があります。それは付き合う上で自分と似ている方が楽だからです。そういった意味で、親しくなる人の数は平々凡々とした人よりも少なくなってしまうのでしょう。これはしょうがない事です。けっして美穂さんに魅力がないという訳ではありません。
悪い事にこれは、初対面だとか付き合いの浅いケースに当てはまる事が多いようです。
付き合いが長くなると逆に、自分にないものを持っている人のほうが相互補完がうまくいって親しくなるようです。
0一/0二/0四
拝啓。厳寒の折から、いかがお過ごしでいらっしゃいますか。
当地は桜の花が満開になり、花見にちょうど良い季節になって参りました。
さて、此の頃の小生は、引越しの事等でにわかに忙しくなってまいりました。
本日も折角の休日を荷物運びに費やした次第です。
引越し先は現住所より車で三十分足らずの場所にあるのですが、なにかと問題があり、少々梃子摺っております。
まず、お風呂のガスが壊れておりまして、これを自腹で直さなければなりません。大家が直してくれないのであります。慈愛の心を持たぬろくでなしの大家でありますが、ここは黙って従う他ありません。
つぎに御手洗いですが、水洗ではないのです。いまどき旧態依然とした汲み取り式の御手洗いでございます。なんという事でしょう。ここの大家は二十一世紀になった事に気付いていないような有様です。
更にこの家には幽霊が出るという噂があります。いかんせん、すぐ裏手に墓地があるものですから、その信憑性も高まるというものです。
とはいえ、肝心の幽霊目撃者が一人もなく、小生も霊感が全くないので心配する必要はないのかもしれません。
少々強がってみましたが、実のところ小心者の小生は恐怖感でいっぱいでございます。もしお手洗いで、便器の下から幽霊が出てきたらどう致しましょう。
恐怖の余り不覚をとるかもしれませぬ。
いえ、別段御手洗いですので、不覚をとっても何ら問題はないのでありますが。
むしろ便秘しらずで健康には良いかもしれません。
何故そのような物件に引越すのか不思議がるかも知れませんが、悪い事ばかりではありません。
まず間取りがゆったりとしております。部屋は六畳、四畳半、四畳半に、台所が六畳、当然お風呂と御手洗いは別であります。
収納も十二分のスペースが確保されております。
メインルームは南向き。
何よりも、バルコニー前の車一台分幅で横切る細道の向こうは、海であります。海まで徒歩十歩の距離であります。
なんと素晴らしい事でしょう。以前に比べると夢のようではありませんか。
いえ、現住所も海まで三百メートルの距離なのですが。
引越し先にはすぐ近くにXXXXというホテルがあるのでございます。距離にして二百メートルでしょうか。ホテル自体は大した事はないのでありますが、夏になるとビキニを着た御姉様方がわんさと宿泊にやって参ります。
小生の名誉の為に弁護しますが、別段そのような下卑た目的で引越したわけではありません。(多分)
これで肝心の家賃が一万二千円足らずです。敷金も礼金もありません。恵まれすぎていてこの先バチが当たる事うけあいです。
ええ、小生ズルをしております。この家の大家は町であります。そう、町営住宅。
そこにズルをして入った次第です。
これからは、知らん振りしていた税金もちゃんと払おうと決心しました。(来年ぐらいから)
そんなわけで、いよいよ今週中に引越を完了させる予定です。
引越が完了しましたらば、またメールします。
そうそう、小生のズルを手伝った友達が今度の連休、東京に遊びに行きます。
東京の空気が悪くなったら、友達が到着したと思ってください。
できれば捕獲して、上野動物園にでも監禁して下さい。
どうぞ、寒中お風邪など召しませぬよう、大事にお過ごしください。
敬具
0一/0二/一五
なんで引越でゴタゴタしたかというと、前にここに住んでいたのが友達なのね(その友達もズルをしていたのだが)
で、その友達が、
「使っていた物を置いていくから、自由に使ってくれ」
と、ありがたい言葉を残し、去っていったのだけど、これが見事にゴミばっかり。
助かったのは、冷蔵庫と洗濯機ぐらいかな。どれもリサイクルショップでさえ引き取らないような代物だけど。
冷蔵庫とキッチンの棚には沢山の調味料があったけど、残念な事に、すべて二年前に賞味期限が切れていました。
冷蔵庫には、熟した卵とコーヒー牛乳がありました。これは比較的新しかったです。でも賞味期限は、二十世紀中でした。同じく、生かき、までも。
彼は俺を殺す気でしょうか。
洗濯機の中はきれいでした。それで空回しせず、いきなり洗濯してみました。どうやら洗濯曹の下に蛾が巣を作っていたようです。洗い終わった洗濯物に、蛾の羽が多数付着していました。
テレビアンテナは屋上で錆付いて死んでいました。
電話線は引かれておらず、お陰で電話工事のために、仕事を半日休みました。
室内ライトは薄暗く、ジーと厭な音がします。
となりの部屋は裸電球です。
しょうがないので二つとも買い換えました。
彼は気を利かしたつもりでしょうか、やかんにも浴槽にも水が入っていました。一体いつの水でしょうか。謎です。
トイレもたっぷり溜まっていました。それを肥料にして庭で野菜を作ってくれ、という事でしょうか。でも彼の肥料で出来た野菜など食べたくもないので、さっそく業者を呼んで汲み取らせました。
お風呂はちゃんと沸きました。一緒に変な物が沸きあがらなくてほっとしました。
彼がいい加減な奴だとは分かっていたけど、ここまで酷いとは…
正直、参りました。
まだ粗大ゴミは片付いていません。
これからゆっくりと俺らしい部屋にリフォームしていこうと思います。今のところまだ彼の残り香がプンプンしているので居心地が良くないです。
―― 歩野さんがパチプロだったなんて(もしかして現役?)知りませんでした。
テレビ、スカパー、コンポ、プレステ、室内ライト、その他いろいろ パチンコの儲けで購入しましたが、パチプロではありません。
とうの昔に卒業しました。今は立派なドカチンです。残念ながらデカチンではありません。鼻は大きいが(自覚まったくなし)あそこは並です。よくお姉ちゃん達に、見掛け倒しだと言われます。
いいんです。俺の鼻があと一センチ低かったら、歴史が変わってしまいますから。
この前は全国的にバレンタインデーだったみたいだけど、美穂さんは何か良い事がありましたか。
俺はむさ苦しい後輩と二人で酒を飲んでいました。
菓子メーカーの策略にはまりたくないもんね。ハイ、強がりです。
落ち着いたら、女でもつくろうかなと思っています。
0一/0二/一八
―― 歩野さんが女を作ると言うのはいったいどういう心境の変化ですか?
久しぶりにセックスしようかなっていう、それだけです。
男は性欲に振り回されるきらいがあるので、まだ若くて性欲が強い頃は、はやくインポになれって自己暗示をかけていたのだけど、望み通りにだいぶセックスに冷めた今、なんかつまらないんだよね。人間はオナニーをしなくなったらお終いだ、という言葉があるけれど、まんざら嘘ではないと思います。
性欲が生の原動力だというのも、冷めた今でははっきりと頷けます。本能の赴くままに女のケツを追っかけている男がうらやましいよ。一般的には良くないと言われるけど、オスとしては魅力があると思います。
それで平穏な日々に刺激を与えるため、セックスしようかなって。それと、元来やってあげたがり屋なところがあるので(昔はセックスに自信があったし)自分の愛撫で女をエクスタシーに導きたいっていうのもあるね。なのでセックスに満足している女には手を出さないでしょう。
なんてね。まあ、いま書いた話は本当だけど、もっと本質的な事を書くと、精神状態を充実させたい、っていうのが一番かな。
以前HPに書いた、人間は人から認知される事で精神的に安定している、っていうやつ。例えば、ある日突然、家族、友達、仕事先の人、この世の全ての人から一斉に、あんた誰? って言われると、自分が何者なのか分からなくなり、精神状態が不安定になるでしょ。
それでね、俺は家族がいないも同然の人間なんだよ。それ故、人一倍仕事に執着しているし、たまに、友達に依存しすぎてるなと思って、自分にブレーキをかけて距離をとったりしているんだけど。
ようは自分の存在を確認したいんだろうな。
で、セックスって手っ取り早いんだよ。自分の愛撫で相手の体が反応してくれるでしょ。それを見てると、俺の愛撫で快感を得ているっていうのが嬉しくてね。だから俺はペニスを挿入しなくても満足するような奴だし。
そんなわけで、セックスしようかなと。
でも俺の場合、条件が難しいんだよ。
一.ゆくゆく子供が欲しいと思っているのなら、俺と結婚しようと思わない事。
二.性格が悪くない事。
三.不感症でない事。
四.セックスに満足していない事。
これだけなんだけど、一番の条件がねえ。もう絶対条件だから。
何故そんなに子供に拘るかっていうと、俺と同じ苦しみを与えたくないから。それならそうならないように育てればいいじゃないって言われそうだけど、潜在意識は半分が幼児体験で、残り半分が先祖からの遺伝っていうじゃない。この遺伝が恐くてね。どうしようもないでしょ。
ちなみに俺は幼児期に馬鹿兄から虐待されていました。三つ子の魂百まで、っていう先人の教えがあるけど、間違っちゃいない。一時期は克服したと思ったけど、駄目だね。
この話はこれ以上書きたくないので、ヤメにします。
そんなわけで、女でもつくろうって事です。強い欲求ではないので、いつできる事やら。




