エピソード6 アイの巣
Episode6
登場人物
濱平 万里:主人公
カイト:ショタ?
源 香澄:危険な香りのする女
居酒屋での食事の後、三人は駅前のビジネスホテルに泊まる事になった。
何故か万里とカイトは同じ部屋、そういうバイト?だから仕方が無い。
祖母には大学のゼミの合宿でしばらく泊り込む事になったと伝え(香澄の入れ知恵)、毎晩電話するという条件付で渋々了解してくれた。 なんだかやましい事をしているような、そんな気分になる。 でも、危険から身を守るためだから仕方が無い、祖母を危険に巻き込む訳にも行かない。
シャワーを浴びて、ようやくもろもろ綺麗になる。 コンビニで買ってきた間に合わせのパンツに履き替えてひと心地つく。
黒いパンツは、一応洗って取っておく事にする。 なんと言ってもカイトとの思い出の品なのだから。
カイトはいつの間にか眠ってしまったようだった。
万里:この子も大変だったんだよね
改めてしげしげ見ると、やはり可愛い。 ショタコンというのがあるらしいが少し判るような気もする。 女の子みたいな男の子…とは違う、赤ちゃんみたいな男の子かな。
髪の毛を乾かすのにドライヤーを使うとカイトが起きてしまうかも知れないから、バスタオルで拭き取るだけで我慢する。 肩にかからないキリキリのショートカットで良かった。
いつの間にか自分でも知らない内に添い寝していた。本当によく眠っている。
そっとほっぺたに触れてみる。 …起きない。
そっと唇に触れてみる。 …起きない。
キスしたら起きるだろうか。 もちろんそんな事はしない。 想像しているだけだ。
破けた服の隙間から直の肌が見える。
服には血がついて、乾いている。 確かに、撃たれ、斬られたはずなのだ。
なのに、肌には傷ひとつ残っていない。 普通の人間ではない事は確かだ。
一体、この子は何者なのだろう。
もしかしたら自分が考えている以上に危険な存在なのだろうか?
正体不明といえば、あの女も謎だ。
砂を自在に操って、人を切ったり、火を防ぐ壁を作ったりする。 「そんな事は人間には出来ない」と源は言ったが、 それはあの女が人間ではないという風にも聞こえる。
カイトはかけ布団の上に眠ってしまっていた。
かけ布団を引っ張り出してかけ直したら起きてしまうだろうか。
私のベッドのかけ布団を持ってきてそっとかけてやる。
そうしたら私はどうするの?
仕方が無いから同じ布団にもぐりこむ。
ぬくもりを感じるくらい傍にいる。 この胸が触れてしまいそうな位近くにカイトの指がある。 ブラは、きついから外したままだ。 もしも寝返りをうったら、その敏感なトコロが触れてしまうかもしれない。
なんだかドキドキする。
変な想像しながら、眠りに落ちる。
またあの夢だ。 不思議と今自分は夢を見ているのだと分かる。 古いヨーロッパのような田園風景。 町外れの見張り塔の中に、その少女は隠されている。 アンティーク人形の様な面立ち、ウェイブした長い髪、大きな瞳、長い睫、透き通るように白い小顔。
いつもと同じ、声は届かない。ただ見ているだけ。
何年も、何回も同じ夢。 最初に見たのはいつの頃だっただろう。 そう、まだ小学生に上がる前のクリスマス。 プレゼントを心待ちにして眠れないでいた私、いつの間にか眠ってしまったのか、眠っていなかったのかも定かではない。 その美少女は、夢の世界で迷子になって泣いていた私に優しく微笑みかけてくれた。
言葉は通じないのだけれど、その少女の名前だけは伝わった。
もう14年も前の事、もしかすると覚えていないだけでもっと昔から見ていたかも知れない。
今日も少女は優しく微笑みかける。 一体この少女は誰なんだろう?
カイト:「ああっ!」
カイトの叫び声で目が覚めた。
時計を見ると、7時45分。 まだもうちょっと寝れる… 結構ひどい寝相だった。 かけ布団は、私が占領していた。
カイト:「俺、寝てる間にドーテー失ってもうたん?」
カイトが悲壮な顔をしている。
何? 私とじゃ不服だったって訳??
朝が強い方じゃないから、破れかぶれの顔でもそもそ起きあがる。
万里:「失礼ね、なんにもやってないわよ。」
カイト:「なんで、いっしょの布団に寝てたん?」
なんて言おう…
万里:「ちょっと寒かったから、アンカがわりにしただけよ。」
ちょっとだけ嘘をついた
カイト:「寝てる間に変な事した?」
万里:「しないわよ。」
それって女の子の方の台詞じゃない? 女の子って歳でもないけど。
万里:「何か食べる?…って、何も無いか。」
朝ごはん作ってあげる…なんて、まだ先は遠い。
カイト:「下のコンビニで ブタ饅 売ってたで。」
肉まんだろ…、と心の中で突っ込む。
万里:「じゃあ、着替えて買いだしに行こっか。」
カイト:「俺着替えないし、このままでOKや。」
万里:「ちょっと待ってて。」
流石に外に出るのにノーブラは恥ずかしい。
万里:「覗かないでよね。」
一応声をかけてシャワー室で上半身裸になる。
あえてユニットバスの鍵は開けたままにしてある?のだが、カイトはこういう状況に余り興味はないらしい。 やはりお子ちゃまなのだろうか。 それとも年上の女には興味が無いとか??
ぱっぱとブラジャーを着けて、改めて鏡を見る。
スカートもブラウスも皺だらけで、全身はしたない状態である。 こんなので学校に行ったら絶対に勘違いされるだろう。 まあ、私に絡んでくるのは寺西だけだとは思うけど。 源からは、それでも危険だから絶対に家には戻るなと念を押されていた。
万里:「服買いに行かないとな。」
カイトの匂いは気にならなかったけれど、自分の匂いは妙に気になる。
そういえば、カイトって何日着替えてないのだろうか? もっとよく匂いを嗅いでおけばよかった…あくまでも保護者として。
肉まんとサンドイッチの簡単な朝食の後、半ば無理やりカイトを風呂に入れる。
カイト:「風呂はいらへんかって死なへんって…」
万里:「身体綺麗にしとかなきゃ駄目! 新しい服買いに行くんだから。」
カイト:「覗かんとってや。」
万里:「男の子が何恥ずかしがってんのよ!」
パタン、とドアを閉める。
シャワーの音
そーっと開けてみる。
万里:「背中洗ったげよっか?」
カイト:「きゃー!」
シャワーのお湯をかけられる。
カイト:「ねえちゃんが悪いんや、覗くから。」
授業をサボって近くの安売り衣料品店に着替えを買いに行く。 とりあえずバイト料ということで源からは50万円渡されていた。 こんなに札束を持ったのは生まれて初めてだ。
ワゴンに片っ端から必要そうなものを突っ込んで行く。 下着類に化粧品、そこそこブランドっぽいシャツにブラウス、カーディガン、セーター、パンツにスカート、上着、それにコートとマフラー。
カイトのモノも選ぶ。 Tシャツにポロシャツ、チョッキにパーカー、フード付きのジャンパー。 靴下に…トランクスかブリーフかで悩む。
万里:「ボクサーパンツ…。」
カイト:「着るもんなんて、何でもええで。」
会計を済ませた後、試着室でカイトを着替えさせてもらう。
カイト:「袖 長ない?」
万里:「こんなもんよ。」
さりげにカイトの脱ぎたて一式をゲット。 だって保護者なんだから何もやましい事等無い。 処分する前に、一寸…
携帯の着信音!
万里:「…判りました。 よくそんな所 借りられましたね。」
源からの電話。 梅田のど真ん中にマンスリーマンションが借りられたと言う。 それにしても、一体ドンだけ金持ってんだ…あの女。
香澄:「家具付きでブロードバンドも完備、直ぐに住めるわよ。 ハイこれ鍵。 一応1月末まで借りておいたわ。」
万里:「凄い綺麗な部屋。」
カイト:「見て見て! パソコンもついてるで。」
3LDKバストイレ別、リビングダイニング20畳に一部屋は和室。 落ち着いたブラウン系で統一された内装と家具類。6Fのバルコニーからの眺めは、そうは言っても大阪…。
カイト:「冷蔵庫にジュース入ってんで、飲んでもええの?」
香澄:「布団も新しいのを入れてもらったわ、今日の午後に運んで来るって。」
万里:「何だか良いんですか? こんなにしてもらって。」
香澄:「気にしないで良いわよ。 その分 役に立ってもらうんだから。」
万里:「役に立つって?」
香澄、意味深な微笑み
香澄:「言ったでしょ。 あの連中はまた貴方達を狙って来るって。」
香澄:「二人一緒に居てもらった方があの連中が出方を予測しやすくて助かるって訳。」
香澄:「私は同じこのマンションの一つ上の階に部屋を借りたわ。 今後は余程の事が無い限り直に会うのは止めておきましょう。 何か有ったら携帯で連絡して頂戴。」
カイト:「俺、携帯持ってへんで。」
香澄:「大丈夫、アンタには…ほら、ここにカプセルを入れたでしょう。」
カイト:「ケータイが良い。 ケータイ欲しい。」
香澄:「大体あんたが携帯持ってて、誰にかけんのよ?」
万里:ちょっと待って。 それってもしかして私達「囮」、「餌」って事?
…やっぱりこの女、危険?!