エピソード5 居酒屋での契約
Episode5
登場人物
濱平 万里:主人公
カイト:可愛い男の子(関西人)
源 香澄:痴女
何故だか私は駅前の居酒屋にいた。
私の頭がどうにかなったので無いならば、ついさっき迄 私は怪しい2人組の男に襲われていたのだった。 一人は突然発生した砂嵐の中に消え、一人は刺激臭のする薬品の中に溶けて行った。 カイトはその男達に鉄砲で撃たれて、しかも刀で刺された筈だった。 変な話である。
でもその証拠に、此処にいる女は相変わらずガソリン臭かったし、カイトの服はボロボロで血まみれだったし、私の股間はちょっと湿ったままだった。 よく店に入れてくれたものだ…
店員:「ぇいらっしゃあぃ!」
威勢の良いかけ声が店内に響いている。 私達は少し静かな個室に上がり込んでいた。 田舎町だから当日でも個室が取れる。
カイトはさっきからメニューに夢中だった。
所謂チェーン店的な居酒屋ではなく、地元の個人経営的な飲み屋だからメニューもかなりバラエティに富んでいる。 そうでなくても関西は食べ物が豊富である。 普通にスーパーでフグとかハモとか売っているのには驚く。
カイトの頬っぺたは赤く腫れ上がっていた。 さっき女がハイヒールの踵で思いっきり踏みつけたからだ。 カイトはきっと何故だか踏みたくなるキャラなのだろう。 それは否めない。
女がじっとカイトを見つめている。
私の方が先につば付けたんだからね 、と心の中で所有権を主張してみる。
カイト:「何頼んでもええのん?」
カイト:「なんか動いたらまた腹減ってきたわ。」
店員がおしぼりとお通しを運んでくる。
店員:「いらっしゃい。 先にお飲物伺いましょか。」
カイト:「俺てっちり、それとふぐのから揚げ…」
万里:「飲み物っちゅうてるやん!」
万里:「はっ!」
何故!私ったら…突っ込んでるの? しかも何故に中途半端なイントネーションの関西弁??
香澄:「とりあえず生。」
香澄:「貴方は?」
女が私の方を見る。
万里:「良いん…ですか?」
香澄:「良いも何もここは居酒屋よ、何か頼みなさい。」
カイト:「せやせや、このおばはん金持ってんでぇ。」
女、カイトを睨む。
万里:「あの、それじゃウーロン茶を。」
定員、下がる。
香澄:「はじめまして、私は源香澄です。 貴方の名前は?」
万里:「えっと、濱平です。 濱平万里。 …はじめまして。」
香澄、カイトを睨む。
香澄:「あんたは? ちょっと、メニューから目離しなさいよ。 てっちりキャンセルするわよ。」
カイト、メニューの隙間から源を伺う。
カイト:「鬼や、ここに鬼がおる。」
香澄:「 いいこと今後は私の事をお姉様と呼びなさい。 良いわね。」
万里:おねえさま… って、この人幾つなの?
カイト:「いやや、俺は正直なんや、嘘はつかれへん。」
香澄、呼び出しボタン押す。
店員:「へい、ただいま!」
香澄:「てっちりキャンセルお願いします。」
カイト「お姉様! 僕カイト言います。」
店員、飲み物を運んで来る。
カイト:「唐揚げとシシャモとエノキベーコンとジャガバター追加。」
香澄:「ところで貴方たちは一体どういう関係なのかしら。」
万里:「いえ、今日あったばかりで、関係とかそう言うのは何も…。」
カイト:「お姉様! 焼き鳥頼んでもええ? 」
香澄:「貴方の頬っぺたの傷がすっかり治ってる理由を教えてくれたら、何頼んでも良いわよ。」
本当にカイトの頬の傷はすっかり綺麗に元通りになっていた。
カイト:「よう判らんけど、肌強いんちゃうん?」
それだけではない。 私は確かにカイトが刀で突き刺されるのを見たのだ。 現にカイトの服は破れて大量の血が付いている。
香澄:「それで、カイト、あんた一体何者なの? どうしてこの子に付きまとってる訳?」
万里:何この女? いきなり呼び捨てな訳?
カイト:「判らん。 俺も知りたいわ。 記憶喪失やねん。」
香澄:「あらそう、記憶が戻るまで料理はお預けにしようかしら。」
カイト:「本まや、何も覚えてないんや。」
カイト、真剣に半泣き
香澄:「人間離れした身体能力とか回復能力とか、自分の身体の事なんにも覚えてないわけ?」
カイト、首を横に振る
確かに、大人の身長を超えるジャンプとか体当たりで人間の骨を折るとか、普通に考えればあり得ない。
香澄:「貴方を襲ってきたあの連中の事は?」
カイト:「知らんけど、なんかひつこう付き纏ってくるんや、あいつら。」
カイト:「なんか、あいつらに捕まったらあかん言う事だけは判っとる。」
香澄:「あの連中、カイトと同じ額にナンバープレートが付いていたわよ。 貴方の仲間なんじゃないの?」
香澄:「それは一体何なの?」
そうだ、怪しい数字男の額にはカイトと同じ銀のプレートが埋め込まれていた。 それにローマ数字が刻まれている。 前髪に隠れたカイトのプレートには、確か xiv… 14?
カイト:「判らん、覚えてへん。」
香澄:「どうしてあいつらに捕まったらいけないの?」
カイト:「思い出せん、けど、なんか酷い事されるんは判ってる。」
香澄:「じゃあ、何を覚えているの?」
カイト、少しぼーっとして考える。
カイト:「海の近くに居た。 潮の匂いがしたんは覚えてる。」
カイト:「それから、なんかずっと逃げてきたんは覚えてる。」
香澄:「どっちの方角とか、どこの海とか、もう少し何か手がかりは無いのかしら?」
カイト:「判らん。」
香澄:「家族の事は思い出せないの? 友達とか、彼女とか、」
一瞬、「彼女」という言葉にドキっとする。
カイトにも好きな子が居たのだろうか? こんなに可愛いのだからカイトの事を好きな子はたくさん居たに違いない。 カイトの帰りを待っている人が居るに違いないのだ。 私、そんな事考えもしなかった。
カイト:「…判らん。 なんか、忘れたらあかん事があった様な気がする。 …けど、思い出せへん。」
香澄、突き出しをつつきながらビールを飲む。
香澄:「まあ、相手の出方待ちね。 カイトもこれ以上逃げ回ったって何の解決にもならないわ。 自分の事知りたいなら協力しなさい。」
カイト:「バイト料なんぼくれる?」
香澄:「一日500円。」
カイト:「そんなんやったら、朝晩牛丼食ったら無くなってまうがな。」
香澄:「あら、一ヶ月30日で15000円よ? 一年間で18万円、きっちり働いたらボーナス付けて20万円にしてあげるわ。」
カイト:「20万円かぁ、そやな、判ったわ、手えうとか。」
おいおい判ったのか? 本当に1ヶ月15000円でこの美少年を自由にして良いのか?
から揚げその他が運ばれてきた。 着々と鍋の準備も整いつつある。
香澄:「じゃあ、契約成立って事で前祝にこれ食べて良いわよ。」
カイト:「おば…お姉様、本まはええ人やねんな。」
万里:「私は、どうすれば良いんですか?」
万里:「何だかのりでついて来ちゃったけど、あんまり関係ないみたいだから…もう帰ってもいいのかな。」
ちょっと拗ねてみた。
香澄:「良いけど…あの連中は多分貴方を狙ってくるわよ。」
狙って来るって? どうして私が狙われる必要が有るの? 昨日迄ごく普通の大学生で、何の責められる謂れもないこの私がどうして?
万里:「どうして、私が狙われるって言い切れるんですか?」
女は、立て肘をついて妖しい微笑で私を見る。
悔しいけど美人だ。 綺麗な髪、切れ長の眼、自信たっぷりの振る舞い。 私が男だったら、こういう女に掌で転がされるんだろうな…とか一瞬想像する。
香澄:「貴方には特別な力があるから。 奴らが私の探している連中だとしたら、必ず貴方を手に入れようとするはず。」
でも言ってる事は何か普通じゃない。 何かの宗教? カルト集団?
万里:「私に力って…。 そんなの無い。」
万里:「そもそも、あなたは一体何者なんですか?」
万里:「大体、この中で一番怪しいのはあなたじゃ無いですか? さっきの…あの男達を切り刻んだのって、あなたがやったんじゃないんですか?」
多分やってる事も普通じゃない。
香澄:「普通あんな事、人間には出来ないわ。」
香澄:「それに私の事知ったって面倒くさくなるだけよ。」
確かに、深く関わってはいけない気がする。
香澄:「信じようと信じまいと勝手にすれば良いけれど、私としては 協力者は多い方がありがたいわね。 貴方もバイトする?」
香澄:「協力してくれたら、あなたをあの男達から守ってあげる。」
守る? 本気で私が危険だと? 全くそう言う実感が湧かないのだけれど。
万里:「…学校あるし。」
万里:「それに、バイトって一体何すればいいんですか?」
香澄:「簡単よ。 四六時中この子と一緒に居てくれれば良いだけ。」
香澄:「マンションは私が用意するわ。 そこでこの子と共同生活して、出掛ける時も出来るだけ一緒に出かけて欲しいの。 それだけ。」
カイトと四六時中一緒に居る? マンションで共同生活?? 特に「四六時中」と言う言葉にロックオンされる。 この可愛い男の子と一つ屋根の下、歯ブラシ並べて、一緒にテレビ見て、朝ご飯とか作ってあげて、洗濯とか! してあげちゃったりして。 当然カイトのパンツとか…洗わないといけないよね。 お風呂! お風呂はどうするのよ? 四六時中の中に入ってるの?? 寝る時は、まさか同じ部屋?
どうしよう、ドキドキが激しい…止まらない。
カイト:「おばちゃん、刺身盛り合わせ追加。」
香澄:「ちょっと、なにさっきからあんたばっかり頼んでんのよ。 私も頼むわよ。 鮭のはらみあぶり焼きと揚げ出し豆腐、それとひれ酒 追加ね。」
店員:「へい、毎度。」
一瞬 逝っていた自分が恥ずかしい…。
香澄:「後、これ身につけておいて。」
源、風薬の様なカプセルを万里に手渡す。
万里:「何なんですか?」
香澄:「発信機。貴方達の居場所が判るように。」
カイト:「なにそれ、俺にはくれへんの?」
香澄:「あんたにはもうつけて有るわよ。 ズボンのお尻のポケット見てご覧なさい。」
カイト:「ほんまや、いつの間にこんなん入れたん? おば、お姉さん手品師?」
香澄:「イチイチ間違えるんじゃ無いわよ。」
香澄:「和菓子屋の前ですっ転んでた時にね、付けておいたの。」
何?この女、それって和菓子屋の前からつけてたって事? もしかしてストーカー?? ますます怪しい! それにズボンのポケットにこれを入れたって事はカイトのお尻に触ったって事よね。 幾ら本人が気付かなかったと言ったって、これはれっきとした痴漢、いや痴女行為じゃないの!
香澄:「でもあんたの場合、もうちょっとちゃんとした場所につけておいたほうが良いわね。」
香澄:「ちょっと、こっち来なさい。」
万里:こっちに…来なさい? 一体、何をするつもりなの?
カイト:「なんや、俺は18歳が許容限界やねんで。」
香澄:「ほら、サイコロステーキ頼んだげるから。」
カイト:「しゃあないな…。」
万里:しゃーないの? サイコロステーキで、行っちゃう訳? この子?
香澄:「ほら、お姉さんの膝の上に頭を乗せて。」
万里:ええぇ〜、膝枕ですか。 やっちゃいますか、それ。
香澄、カイトの耳たぶの後ろを指でナゾル。 いきなり切れて鮮血が流れ出す。
万里:「な、何を…してるんですか!」
香澄、カプセル状の発信機を唾で濡らしてその裂け目に押し込む
万里:今…唾つけましたね…
香澄:「もういいわ。 暫くお手拭で押さえときなさい。」
カイト:「サイコロステーキ約束やで。」
どくどく流れ出す鮮血。 見る見るお手拭が血で真っ赤に染まっていく。
店員:「あらまあ、どないしたん? 大丈夫かいな?」
香澄:「平気平気。 おばちゃん、新しいお手拭もらえる?」
店員:「かまへんけどその子大丈夫なんか? 何か血ぃようさん出てるで。」
香澄:「大げさなのよ。 カイト、もう離しても大丈夫でしょう?」
カイト:「あっ、本まや、直ってもた。 おばちゃん、サイコロステーキ追加。」
万里:一体この子はなんなの?
香澄:「はい、我慢したご褒美。」
香澄、カイトの額にキス
万里:「やります! 私、そのバイトやります。」
気付いたら叫んでいた私、
何だろう、嫉妬? いや、多分嫉妬。 でも、もう止められない。 ご褒美のキス…ってやっても良いのよね!
あれ? 私って、こんな変な人だったっけ?
香澄:「あら、そう。 良かったわ。」
香澄、微笑む