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エピソード4 濡烏の女

Episode4

登場人物

濱平 万里:主人公

カイト:死亡中

数字男:左腕に仕込み銃を持つ不死身の人殺し

濡烏の女:カマイタチとヌリカベを操るおばさん?


叫ぶ! いや、叫んでいるつもり…なのに声が出ない。 誰でも良いから人を呼ばなきゃ。 不思議な事に私は無音のまま叫び続けていた。


カイトの指が、足が小刻みに痙攣している。

痛いの? 苦しいの? うつ伏せたままの身体の下から何か黒い液体が漏れだして来る。 やがて、…完全に静かになった。



それでもなお怪しい数字男の一人は警戒を解いていない様だった。 動かなくなったカイトに向けて刀を構え、その背中に「ザクっ!」、「ザクっ!」…。 一回二回深く刀身を突き刺してトドメを刺す。


確実に死んだ?

普通 顔とか胸とか撃たれたら生きてられないだろう。 しかも刀で刺されてるし。 さっきまで一緒にお好み焼きを食べていた男の子が目の前で殺された? 警察でなんて言えば良いの? なんで私こんな事件に巻き込まれてるの?



いや、そうだ。 他人事ではなかったのだ。 すっかり忘れていた。  怪しい数字男の一人、首が折れた男の方が 今度は万里に向かって歩いて来た。


男は右手に刀を構えている。 あれで斬られるのだろうか? それとも腕の仕込み銃で撃たれるのだろうか? 地面にへたり込んだまま、動けない。


これが私の現実なの?



男の一人が懐から拳銃を取り出した。 最初に私に向けていた注射針の飛び出すエアガン だ。


麻酔? 毒薬? 私、一体何をされるのだろう?



そこでようやく気がついた。 私さっきから息を吸っていない。 ずっと、からからになった肺からでは、幾ら叫んでも声は出ない筈だ…。


一旦叫ぶのを諦めて…大きく息を吸う。 そのまま止めて…


万里:「いやあああああああああああああああああっ!!!!!!」


数字男は表情一つ変えず、叫び続ける私にエアガンを向ける。 



そして、…男の手首が地面に落ちた。 エアガンごと…ぽちゃりと。



私には一体何が起きたのか、正確にはこれから何が起こるのか全く判らなかった。 しかしそれは 想定、いや想像の範囲を超えていた出来事だったのだから仕方が無い。


一瞬で、数字男たちの動きが慌しくなる。




その視線の先、陽の落ちた黄昏の住宅街に一人の女が立っていた。 髪の長い長身の女。 どこかで見た事の有る? そうだ、学校からの帰りの電車でその女見た気がする。



危険に巻き込まれるのが自分一人で無くなった事の安心感? いやそれより一刻も早くこの異常事態を伝えなければ…


万里:「来ちゃ駄目! 逃げて!!」


本心からの台詞なのだろうか? 人はこんな状況下に置かれていても対面を気にする哀れな生き物なのだろうか? それとも本当の私は、自分で思っている程あこぎな人間ではないという事なのだろうか。



首が折れてしかも手首を切り落とされた?数字男は、残った方の手に刀を構えて女目掛けて突っ込んだ!


女は、避けるでも無くただ立ち尽くす。 …危ない!?


いや、走り出した男はそのまま地面に倒れた。 正確にはすっ転んだ。

何故だか…男の足は膝下から切断されて無くなっていた。 取り残された両足はそれぞれ違う方向に転がっている。



女は、ゆっくりと、更に危険の方に向かって歩いて来た。


女の足下に揺らめく陽炎のような黄色い灯りが見えた…気がした? よく見るとそれはサルだかナマケモノの様にも…まさか、



もう一人の数字男はエアガンを取り出すと、ろくに狙いを定めもせずに女目掛けて撃ちまくる。


男の撃った注射針は、どうやら女には当たっていない様だった。 当たる直前、何かに弾かれる様にしてあらぬ方向に弾道を変えている。


エアガンが通用しない事を悟った男は、とっておきの切り札?らしい腕の中の仕込み銃を展開する。


即座に発射される銃弾は、これ又女には到達せずに弾道を変える。


「パン!」、「パン!」、「パン!」、「パン!」…


住宅街に爆竹の様な音が鳴り響いた。



女:「ウルサイわね。」


女の台詞の後、銃声はパタリと止んだ。 まるで魔法の様に。


そして仕込み銃の左腕は、肘から先が数十枚のハムの様に薄くスライスされて地面に落ちた…様に見えた。



万里:何が起こっているの?



今度は首が折れて手首と足を切断された方の数字男が左腕の仕込み銃を展開する。 もう一人の銃とは微妙に形が違う。


その先端から噴出される大量の霧? 液体? 水鉄砲?

女は、初めて手を上げて顔を庇う。


女:「臭っ! 何カケタのよ!」


辺りに立ちこめるガソリン臭。



数字男の仕込み銃から、今度は炎がメラメラ燃え上がる。


女:「全く、これだから火は嫌いなのよ。 馴れ馴れしくって!」


男の左手から放射された火炎が10メートル余りの火柱になって女に襲いかかった。


同時に「ザン!!!」…という今迄に聞いた事も無い様な轟音が響き渡る。 何か引き摺る様な、引き裂く様な、



果たして火柱は 女には到達していなかった。

突如出現した幅3m高さ6m厚さ30cmの土壁が女の盾となって火柱の到達を防いでいる。


万里:「妖怪ヌリカベ?」



これはきっと夢に違いない。 一体私はどこで眠ってしまったのだろう…。



女がヌリカベの横に移動して顔を見せる。


女:「一人いれば良いわね、」


女の台詞の直後、 辺りから集まって来た砂? 塵? とにかく細かな粒が、首が折れて手首と両足を切り落とされた数字男に飛びかかる。 まるでミツバチの大群に襲われている見たい? 男の姿は砂嵐の渦に埋もれて見えなくなる。


そして、砂の竜巻が去った跡には…本当に何も無くなっていた。 ただ、 ガソリン臭に混じって何か生き物が其処にいた証の様な有機的な臭い 。 それと大量の液体が地面を濡らしている…。



女はちらりと万里の方を見て、直ぐに残ったもう一人の数字男に向かって歩き出した。 土壁は女が離れると同時にボロボロと崩れて土塊となる。


数字男は、右手に刀を構えているが、恐らく通用するとは考えていない様だった。 なす術も無くただ後ずさりする。


女:「さて、貴方のボスの事を教えてもらいましょうか。」



次の瞬間、数字男の頭のてっぺんから何かが吹き出した。 噴水の様に辺りに飛び散って刺激臭を振りまく。 堪らず距離を取る女。


女:「毒ガス…?」


数字男の身体は自ら噴出した液体に腐食されて 行く。



気がつくと、辺りには結構の野次馬が集まっていた。


野次馬1:「なんや、一体?」

野次馬2:「臭っさ! なんの臭いや?」

野次馬3:「何有ったん?」

野次馬4:「何? 焼身自殺かいな?」

野次馬5:「ちょっと、子供も倒れてんで。」




女:「仕方ないわね。」


女、カイトに近寄り、見下ろす。


女:「あなたとっくに気がついてんでしょ? 何時迄死んだフリしてるつもり?」


カイト:「…」


万里:あの女何をやっているの? だってカイト死んでるのよ!


女:「変なガス吸っちゃう前に退散するわよ。 早く起きなさいってば!」


万里:だから! 無理だって。



カイト:「おばはんのパンツには興味は無い…」


万里:「へっ?」


女、ハイヒールの踵でカイトの顔を踏みにじる



女「とにかく、貴方はあいつらをおびき寄せる餌なんだから、おとなしく付いてきてもらうわよ。」


カイト!生きてる?



カイト:「いやや、香水臭いおばはんは嫌いや。」


カイト、本気?で泣いている

女、更に深く、ハイヒールの踵をえぐり込む

万里、保護者的にカイトの傍に駆け寄り、女に立ちはだかる。


万里「ちょっと、誰だか知りませんけど、嫌がってるじゃないですか。」


女、万里を睨みつける。


女:「貴方、こんなのに係わっていたら命がいくつあっても足りないわよ。」


カイト、万里の後ろに隠れる


カイト:「ねえちゃん!俺は無実や、助けてくれ!」


女、不意に妙な顔つきになる


女:「貴方…何か匂うわね。」


万里、赤くなる。 さっき、ちょっと漏らした…



万里:「ひ、失礼な!…毎日ちゃんとお風呂入ってます。 …貴方の方が、香水きついじゃないですか。」


女:「そういう意味じゃない。」


じゃあどういう意味よ。 やっぱりバレてるの??


万里、焦る!


万里:「カイトぉ、あんた撃たれたんじゃなかったの? 大丈夫なの?」


万里、必死に話題を変えようとする。


カイト:「あかん、このおばはんに殺される。」


女、カイトの耳の上の髪をつまんで、上に引っ張り上げる


カイト:「痛い痛い痛い!」


女:「ぼく…、今度おばはんって言ったら、本当に殺すわよ。」




更に人が集まってきた…。



女:「とにかく場所変えるわよ。 貴方も付いてきなさい。 多分貴方ももうターゲットにされてる。」


万里:「何だか良くわかりませんけど、家この近くなんで…来ますか?」


何が起きているのか、何に巻き込まれているのか、それとも全部夢なのか。 確かめた方が良いに決まっている。


女:「家族も巻き込む事になるわよ。 どこか別の場所のほうが良いわね。」



何故だかそう言う有耶無耶な流れの内に、私はこの不思議な濡烏の女と知り合う事になった。


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