表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

エピソード3 数字の男

Episode3

登場人物

濱平 万里:主人公

カイト:可愛くて凶暴な男の子

番号の男:謎の戦闘員


万里:「ご馳走様。」


お会計の後に一言お礼を言う。 こういう関西は嫌いじゃない。



お好み焼き屋を出ると、霜月の誰そ彼は足下に紫の影を落し始めていた。


カイト:「ねえちゃん! おおきに、 ほんまねえちゃんは命の恩人や。」

万里:「大袈裟ね。」


こういう関西は好きじゃない。

いや違う。 多分、本当は、自分には欠けているモノだから。 


こんな風に自分を露にして、いとも簡単に他人と馴れ馴れしく接するなんて事自分には出来ない。 だからそんなモノは否定しないと、自分の生き方、これ迄の自分を肯定できなくなってしまう。 きっとそれが怖いのだ。



そんな関西否定は一旦脇に置いて、改めて少年の顔を見る。 やっぱり可愛い。 こんな中学生相手に堪えようも無くトキメイているなんて… 自分はどうかしてしまったのだろうか。 いやこれは恋愛とかではなくてきっと母性本能なのだ。 だから病気ではない。


ハンカチでカイトの口元を拭いてやる。 お好み焼きのソースの跡が付いているからだ。 他意は無い。


万里:「ほら、じっとして綺麗にしなさい。」


男の子は、嫌がりながらも言われた通りにじっとされるがまま耐えている。 ドキドキする。 こういう時って、自分の唾液で濡らしたハンカチで拭いてやるのだっけ…流石にそこまでやると変態かも知れないと思って躊躇した。


後で一人になってから、ハンカチをドウコウしようなんて事は…ちょっとしか考えてない。



万里:「記憶が無いとか言ってたけど、これからどこ行くつもりなの。」

カイト:「わからん。 せやけど、腹も膨れたし、…まあ何とかなるわ。」


万里:「警察とか行った方が良いんじゃないの?」

カイト:「そのうち行くわ。 けど今日は止めとく。」


記憶喪失の美少年は、あくまでもあっけらかんだ。 いや、そもそも本当に記憶喪失かどうかすら怪しい。 触れないで欲しいと言っている事をこれ以上詮索するのは止めるべきだ。


でも…、


万里:「今日、泊まるとこあるの?」



途端に、男の子の顔が赤くなった。


カイト:「ねえちゃん、俺、確かに さっき、身体で払うちゅうたけど…けっこう大胆やな。 流石黒パンだけのことはあるわ。」


ようやく自分の言っている意味に気つく、


万里:「ば、馬鹿もの! 心配してあげてるだけじゃない!」


そっぽを向いて家路に軌道修正する。


万里:「もう良いわよ、勝手にしなさい。 じゃあね。」



振り返らずに歩く。

ちょっと勿体ない気がする。 連絡先くらい交換しても良かったかも知れないな。



夕暮れの商店街は人影もまばらになりつつある。 愛すべきおばちゃん達は、既に台所で夕食の支度に忙しいはずだ。


寂しい道を一人で黙って歩いていると除けておいた現実が押し返して来る 。 例えば明日の講義の宿題が頭をよぎる。 しかしほんの少し退屈が紛れたのは事実だ。 明日寺西に今日の出来事を話してやったら、一体どんな反応を示すだろうか。




ところで楽しいハプニングの後には、歓迎したくないハプニングが用意されているものらしい。 大抵そうやって世の中バランスが取れる様になっているのだろう。


やがて行く手に二人組みの男が現れた。 トレンチコートを着てテンガロンハットを被っている。 見るからに怪しい。 何が怪しい って…全く同じ格好のペアルックなのである。 しかも多分男二人。 それが曲がり角の電信柱の影に立って小声で話をしている。 誰がどう見たって怪しい。


あたりは偶然か? 人っ子一人いない。 ふと見ると「痴漢に注意」の看板! しかし迂回するには道が遠い。 とにかく目立たない様に関わらない様に下を向いて歩く。 もしも何か言って来たとしても一切無視。 携帯で祖母と話しているフリをする。



すれ違い様、そっと男達の様子を伺う。

期待した通り、いや、そんな事にはならないで欲しいと願った通りに、男達の挙動は更に怪しさを倍増していた。  しかも矛先は私に向けられている。


男のうちの一人が、鉄砲の様なモノを私に向けて狙いを定めていたのだ。


当然私は吃驚する!

額に血が上る、いや頭に血が上る。 とにかくこの変な人から直ぐさま逃げなければならない。 なのに私に出来た事は…


万里:「ひゃっ!」


…っと叫ぶ事だけだった。


とっさに激しく動こうとしても、特に足は動かないものだと言う事をこの時に思い知った。



万里:変質者? 強盗?? 撃たれる!


期待通りに男は銃を発射した。 意外にもその音は「パスッ」くらいの小さなもの。 もしかしてエアガン?


しかしエアガンだろうが本物だろうが、どうにも出来ない私に出来た事はただ一つ、 目をつぶるだけだった。



暫く待ってみるが何の衝撃も痛みも訪れない。 弾?は当たらなかったのか? ようやく勇気を振り絞って、目を開ける。


いつの間にかそこにはカイトがいて、エアガンの弾を掌で受け止めていた。


万里:「あっ…」



二発、三発、四発、続けざまに 撃ち出される弾を、巧みに掌で受け止める。


万里:この子やっぱり普通じゃない。



カイト:「このねえちゃんに手ぇ出したら、俺が黙ってへんで。」


万里:何だか、格好いい…



ひとしきりの銃撃の後、カイトが受け止めた弾丸を振り払う。 掌から零れ落ちたものは…小さな注射針? だった。


万里:なんで、こんな怪しいものを…



続いて怪しい男たちは、トレンチコートの下から、何やら金属製の棒を取り出した。 いや、それは確かに、刃渡り50㎝くらいは有りそうな…刃物。



万里:「こいつら、一体何者?」


怪しい男たちがカイトに向かって襲い掛かる。

胸の懐に刃物の柄を当てて、突き刺す様にカイト目掛けて突っ込んで来る。 カイトは左右に跳んでそれを避ける。 二人掛かり交互にしかも躱された後の反転も早い! カイトは休む間もなく避け続けるが、次第に壁に追いつめられていく。


カイト:「…!」


カイトが気合いと共に跳躍する! 信じられない事に少年の身体は二人の男の頭上を飛び越して背後に回った。


しかし、逃げた訳では無かった。

一旦男の背後を取ったカイトは着地と同時に反転して振り返ろうとする男の一人に体当たりした! 


堪らず吹っ飛ぶ怪しい男。 地面に転がってテンガロンハットが脱げ落ちる。

その男の額にも…カイトと同じ金属のプレート、其処にはローマ数字? XCVII…



もう一人の男が、今度はカイトに斬り掛かる。

体当たり直後でバランスを崩していたカイトは転がって剣先を躱す。 しかし男の攻撃は止まらない。 カイトは辛うじて男の足下をすり抜けて距離をとる。


しかし、既に体当たりされた男が立ち上がって攻撃を仕掛けて来る。 見るからに形勢が悪い。


カイト:「ねえちゃん、早よ逃げぇ!」

万里:「だって、」



とうとう、後ろから斬り掛かった男の刃物がカイトの肩を撫ぜる。 横に転がって致命傷は避けたものの、切っ先は一瞬だが皮膚の下深くに潜り込んだ。


カイト:「がぁぁっ!」


そのまま地面に転がるカイト。 男の一人がトドメを刺そうとゆっくりカイトに歩み寄る。


もう一人の方は…、方向を改めて万里の方に歩いて来る。


万里:「カイトぉ!」


いつの間にか自分でも気付かないうちに泣いていた。



万里に向けて男が刃物を突き出して来る。

その時、何か金属同士がぶつかる様な大きな音がした。


よろけて、倒れる男。

どうやって、そうなったのかは判らない。 が、いつの間にかカイトがその男に体当たりしていた。 どうやら男の足は腰から折れた様に変に曲がっている。


カイト:「このねえちゃんに手ぇ出したら、承知せん言うたやろぅが!」



万里を庇い立ちふさがるカイト。 もう一人の方の男が刃物を構え直してカイトに突っ込んで来る。 後ろには万里。 これ迄みたいに避ける訳にはいかない。


カイトは、自ら刃物に向かって突っ込む!


すれ違い様カイトは僅かに左に逸れる。 刃物は見事カイトの脇腹を斬撃した。 しかし肉を切らせた カイトのパンチは男の顎を捉えていた。


再び大きな金属音。 そして男の首は折れて外れたかの様に見えた。



一体これは何かの冗談なんだろうか。 お好み焼きを食べた帰り道、怪しい男と可愛い男の子が殺し合いをしている?


…首を折られた男は、その場に崩れ落ちた。



カイトも、膝をつく。

肩で息をしながら万里を振り返る。


カイト:「ねえちゃん、大丈夫か?」

万里:「あんたこそ、大丈夫なの?」


足が震えて動かない。

いつの間にかちょびっとおしっこ漏らしてる。なんて情けない身体なんだ!


膝が折れて、地べたにしゃがみ込む。



カイト:「ねえちゃん未だ安心したらあかん。 早よ立って逃げるんや!」


カイトは再び男達の方に向き直り、再び攻撃体勢を整える 。



そうして腰を砕かれた筈の男が、やがてゆっくりと立ち上がる。 首が折れた筈の男も、そのままの首で立ち上がる。 その男の額にも金属のプレート

、やはりローマ数字?LXXXIX…


万里:「こいつら何なのよお?」




次の瞬間、信じられないものを見た気がした。


男の左掌がぱっくり割れて、中から銃身のようなものが飛び出す。 躊躇無く銃撃される カイト。 


「パン!」、「パン!」


一発は胸、一発は顔。 硝煙の匂いが辺りに立ちこめる。


カイト、地面にうつ伏せて、痙攣…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ