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エピソード2 彼氏の事情

Episode2

登場人物

濱平 万里:主人公

カイト:記憶喪失の男の子


思わず見蕩れてしまった。

なんて可愛い子なんだろう。こんな男の子が現実に居るなんて何だか不思議。


どうしてだろう…胸が高鳴る

何か運命的なものを感じてしまう。 だって空から降って来るなんて普通あり得ない!


万里:だめ駄目! 万里しっかりしなさい! この子まだ中学生くらいじゃない。 …だけど私だって見た目中学生だし、


ここまで0.8秒



やがて男の子のつぶらな瞳が開く。 柔らかそうな唇をぎゅっと鉗んでいる。 なんて綺麗な肌なんだろう。 なんて整ったパーツなんだろう。 華奢な体つき、細い指、長い脚。 直接この手で触れてみたい。


思わず 顔が熱くなるのを覚える。  耳の中では自分の動悸が一切の音を遮断している。 理性が崩壊するのを肌で感じてしまう。 無理矢理にでも抱きしめたくなる。 


お持ち帰りできないだろうか…。


ここまで1.3秒



それはきっと、今までずっと待ち続けていたリアルが切り替わる瞬間。


男の子:「ねえちゃん」

万里:「へっ?」


男の子:「黒」「…いパン…」


思わずパンプスの踵でその綺麗な顔面をにじり付けていた。




和菓子屋:「おいおい、この子あんたの弟さんか? 何悪さしたか知らんけど、あんまりキツい事したりなや。」


万里:「知りません。 こんな子!」


万里、顔真っ赤。 再度地べたに沈黙した男の子から後ずさりで離れる。



自分でもどうしてそんな酷い事が出来たのか良くわからない。 

子供にパンツ見られた位、どうって事無いじゃない。


「きゃっ!」とか「いやっ!」とか、もう少し違った反応も出来たと思うのだが…不思議な事に勝手に身体が動いたのだ…としか言いようが無い。


ノッケカラ自分のキャラクター設定が崩れていく気がする。


いや、これは全部あいつの所為だ。 あいつがそういう反応をさせているんだ。 こんな綺麗な顔してるのに、この子はどうしようもなく「突っ込んでオーラ」に溢れているのだ…。



全て無かったことにしてやり直す。 私はお饅頭を買いに来たのだ。


万里:「おじさん、御膳饅頭ひとつ。」

男の子:「ねえちゃん、腹減ったぁ。」


男の子は跳ね起きていた。 ぜんぜんピンピンしている。

やがてごった返していた野次馬も自然と散開していく。



万里:「私は貴方の姉ちゃんじゃありません。」

和菓子屋:「坊主、腹減ってるんやったら饅頭食うか?」

男の子:「甘いもんヤダ。」

男の子:「姉ちゃん! お好みが良い。 お好み食べたい。」



何これ? 新手のたかり?

可愛らしい顔に、…私のパンプスの跡が付いている。



妙に馴れ馴れしい。 でも…見た目可愛いのは否めない。 こんな可愛いのが愛想振りまいてきたら、かまってあげたくなるのは仕方ないことだ。 子猫を思わず抱きしめたくなるのと同じ事。


自然と、口元が緩む。



万里:「し、しょうが無いわね。 …丁度、これから食べに行くとこだったんだけど、あんたも来る?」


ちょっとだけ嘘をついた。


男の子:「行く行く。」

男の子:「それで、このご恩は身体で返す! チュウでも何でもするから…。」


万里:「そういうこと言うなら連れて行かない。」


甘栗入り粒餡厚皮饅頭の紙袋を受け取って代金を払う。


一個が直径15cmは有ろうかと言う大きめの饅頭である。 ラウンドケーキかパイの様に少しずつ切り分けて頂くのが美味しい。


和菓子屋:「毎度おおきに。」



辺りはいつも通りの商店街に戻っていた。


ふと見ると、男の子は自分が堕ちて来た空を見上げていた。 やっぱり可愛い。 赤ちゃんみたいなほっぺた…無性に食べてしまいたい。



でもどこか謎めいている事は確かだ。 こんな子を連れ回して本当に大丈夫なのだろうか? どっかに男が隠れていて「姉さんうちの子をかどわかしてただで済むとはオモテヘンヤロナ…」とか強請って来たりしないだろうか。


嫌嫌、ちょっと位人生にサスペンスなスパイスが有っても良いに決まっている。





和菓子屋のすぐ隣がお好み焼き屋だった


お手拭で男の子の顔を拭いてやる。 これは私が踏んだ跡だから仕方がない。

まあ、お好み代も、慰謝料だと言えなくもない。 勿論、おしぼり越しとは言え直に触ってみたいという裏心が無かったかと言うと嘘になる。


万里:「なにこれ?」

男の子:「痛いイタイいたい」


男の子の額にはシルバーアクセの様なプレートが…はめ込んであった?


取れない。 新手のピアス? 的な何か?? プレートには xiv の刻印。 なにかの記号?? ますますミステリアス。



男の子:「俺、豚のモダン、それと焼きうどん。」

男の子:「なにこれ、特製ソース?」

男の子:「すっげ辛!」


なのに、振る舞いは唯のやんちゃなガキ…

このギャップ感が余計な緊張を取り除いてくれる。




万里:「あんた、一体何者?」

万里:「お好み焼き奢ったげるんだから、名前と素性くらい明かしなさいよね。」


男の子:「姉ちゃん、俺明石焼きよりたこ焼きの方が好きや!」



親父ギャグ… しかもその切り替えしスピードの速さ! 只者ではない?

いつの間にか鉄板に置かれていた鉄製のコテを握りしめている自分も…怖い。


万里:「コテで顔焼くわよ!」

男の子:「顔はやめて…、せめて見えへんとこにしといて…」


店内の視線が集まる。


万里:「やめろ! 皆が本気にするだろ!」



ちょっと恥ずかしい。

大体、関西人の「のり」には時々着いていけない。

町中全員がお笑い芸人? ボケと突っ込みは小学校の必須科目なんじゃないだろうか?


万里:「ちゃんと話しなさいよ。」


敢えてちょっとキツい視線で睨みつける。

男の子も突然真剣な眼差しになる。


憂いを秘めたミステリアスな表情に、不覚にもドキ…してしまう。


男の子:「実は…、覚えてへんのや。」

万里:「100%うそ臭いわね。」



男の子:「ほんまや、さっき頭打った時に忘れてしもたんや。 記憶喪失やねん。」

万里:「大体なんで空から落ちてきたのよ。 そもそもどっから落ちて来たの?」


男の子:「姉ちゃんに顔踏まれたショックで全部忘れてしもたんや!」


店内の視線が集まる。


万里:「やめろ!!! 皆が本気にするだろ!!」


ちょっとだけ嘘をついた。



店員の女子が金属製のカップに入れたお好み焼きの元を持ってくる。


女子:「自分で焼かはりますか?」

万里:「あっ、お願いします。」


アルバイトらしき女子は流石の手際でお好みの元をかき混ぜると、次々と鉄板の上に並べていく。


女子:「焼きうどんはどないしましょ? もう持ってきましょか?」

万里:「あっ、じゃあ、一緒に焼いちゃってください。」


見ると男の子は鰹節の入れ物を開けて、手掴みでもしゃもしゃ食べている。


万里:「かつ節くうんじゃない!」


男の子の鼻をつまむ。


男の子:「だって、俺腹減ってんねん…。」

万里:「すぐに焼けるから、おとなしく待ってろ。」


お好みの焼ける音と匂い。 しゃきしゃきのキャベツが徐々に塗り固められていく。



男の子:「カイト。 多分名前はカイトや。」

万里:「ふーん。」



万里:「あんた、この近所の子?」

カイト:「ちゃうんちゃうかな、多分。」



カイト、突然思い出す!


カイト:「姉ちゃん、こんなん知ってる? …あれちゃうちゃうちゃうん? ちゃうちゃう、ちゃうちゃうちゃう。…」

万里:「どうでもええ!」


ついつられて関西弁になる。 思わず赤くなる。



関西弁嫌い

特に数字を数えるのにイチイチ節をつけて歌う神経には付いて行けない…今のところ。



こてを使って、鉄板の上のお好みをひっくり返す。 これでも女の子だ。 これくらいの料理?は何て事無い…


カイト:「姉ちゃんへたくそやな。 ちょう早すぎんとちゃう?」


粉砕するお好み焼き

カイト、また、かつ節もしゃもしゃ食ってる


女子:「やりましょか。」

万里:「あっ、お願いします。」


手際良くひっくり返され、形を整えていくお好み軍団。 その鉄板の脇に、続いて焼きうどんが投入される。


女子:「焼きうどんはもう出来てますから、すぐ食べれます。 良かったらうちの特製ソース試してみてください。」

万里:「はぁ、どうも。」


カイト、焼きうどんにマヨネーズとソースを大量投入、さらに上から鰹節をぶっ掛ける。

焼きうどんの上で鰹節がゆらゆら踊る


この子、確実に関西人よね。


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