エピソード13 妖精の欠片
Episode13
登場人物
濱平 万里:主人公
加地 伊織:ヒラメ顔
源 香澄:ナゲヤリ
難波 優美:電波
舘野 涼子:ヤンデレ
カイト:裸の男の子
透明なコクーン型の容器にその人体部品は格納されていた。
胴体の皮膚は脱ぎかけのジャケットの様に捲り上げられ、その下の筋肉やら腹膜は胸から左右に開かれて肋骨が剥き出しになっている。 臓物一式はプラスチック製のシリンダーに保護される形でぶら下がっていた 。
骨盤から下は上半身から外されており、両足は皮膚が剥がされて筋肉と骨が露出している。 両腕も身体から外されて、やはり同じ様に骨が剥き出しになっていた。
更に頭部も同じ様に皮膚が剥がされており、 頭蓋骨も半分切り取られている。
異様なのは、全身の骨が青緑に塗装されているという事、所々骨の間に幾つものギミックが取り付けられていると言う事、そして脳みそにも無数の部品が貼付けられていると言う事。
万里:「本当にカイトなの?」
ゆっくりと、二つの眼球が動いて声の主を探す。
両眼球の間、 額の部分に取付けられた銀のプレートには「xiv」の文字が刻まれていた。
伊織:「貧血に頼んで遠隔で再生させられないかな。」
お竜:「 問題は何に戻すかと言う事ですね。」
伊織:「どういう意味?」
お竜:「元の人間に戻すのか、改造人間に戻すのか…と言う意味です。」
伊織:「人間に戻せるなら、その方が良いんじゃないか?」
ヒラメ顔と源の身体を乗っ取っているらしい妖怪がなにやら相談している。
万里:「カイトを元に戻せるの?」
伊織:「ええ、多分。」
お竜:「後で香澄さんにしかられるのは嫌なので一応言っておきますけど、人間が聖獣の再生能力を身につける仕組みは調べてみる価値があります。 人間に戻してしまったら判らなくなってしまうかも知れないですよ。」
伊織:「どうせ、ろくでもない仕組みだろ。」
シロ:「ちなみに僕は既に、そのろくでもない仕組みを解明したのだ。」
伊織:「えっ、どうやって?」
シロ:「この子が繋がっている機械のコンピュータと話したのだ。 この子を組み立てる事が出来ると言っているのだ。」
夢の中の少女とそっくりな女の子、とヒラメ顔が何やら相談している。 この連中の関係が今ひとつよく分からない。
どうやらこの連中はカイトを元に戻す事が出来ると言っているらしい。
万里:「あの、お願いです…カイトを助けてくれませんか。」
シロ:「やってみるのだ。」
シロのかけ声でコクーン内のマニピュレータが 動き出す。
マニピュレータは先端に取り付けられた器具を使って残った皮膚を剥がし始めた。
すっかり全身の皮膚を剥がれた人体部品は続いて臓器と骨格を有るべき位置に配置され、まるでプラモデルのように一体の人間に組みあげられていく。
続いて上部から黒くて細い線?が現れ、巧みに筋肉の上に編み込まれて行く、パッと見は網付きのボンレスハム?の様になる。
切り剥がされていた頭蓋骨のパーツも元の位置に組み込まれ、頭部にも同様に強化繊維が編み込まれる。
やがてコクーン上部から透明なチューブが現れ、口から喉の奥へと深く差し込まれる。 そしてチューブを伝って何か赤黒いペースト状の物体が口の中に流し込まれていく。
すると…全身に細かい血管が再生し始め、見る見る半透明の粘液が全身を包み込始めた。 粘液は見る間に皮膚を形成し、
あっという間に生身の男の子が出現する、それはまぎれも無く…
万里:「カイト!」
クロ子:「おおぉ、男の子の裸。」
台座のランプが緑から赤に変わり、蒸気を噴出しながら容器が開口する。 最後にマニピュレータが男の子をコクーンから排出した。
シロ:「完成なのだ。」
万里、カイトに駆け寄り濡れたままの身体を抱きしめる。
万里:「カイト、良かった…。」
伊織:「つまりあのベビーフードみたいな奴が再生能力の秘密って言う訳か。」
お竜:「食べてましたね。」
伊織:「シロ、あのベビーフードを少し取り出せないか?」
シロ:「出来るのだ。」
コクーン内部のチューブからボタボタと赤黒いペーストが零れだす。
伊織:「良い匂いじゃないな…。」
伊織、顔をしかめる
お竜、持って来た袋にサンプルを回収する
伊織:「これが何だか判らないか?」
シロ:「このコンピュータは知らないのだ。 でも僕たちには判るのだ。」
クロ子:「お兄ちゃん、これ聖獣の屍骸よ。」
伊織:「聖獣の屍骸? 聖獣って殺せないんじゃなかったのか?」
お竜:「正確には、完全体になった聖獣の尸童の屍骸です。 肉骨粉を体液でペースト状にといた物みたいですね。」
伊織:「そんなモノを食べさせてたのか…。」
ヒラメ顔、げっそり
万里:「何なの? ヨリマシって毒かなにか? カイト大丈夫なの?」
伊織:「知らない方が良いです…。 多分、大丈夫。」
お竜:「でもおかしいですね。 聖獣はいちいち死んだ尸童の身体の一部に残留したりはしない筈です。 尸童の肉を食べた所で再生能力を移し替える事は不可能だと思うんですけど。」
シロ:「でもこの肉骨粉からは聖獣の痕跡がぷんぷん臭ってくるのだ。」
クロ子:「ヨリマシの肉骨粉…」
クロ子、ニヤニヤする
やがてカイトが目を覚ます。
万里:「カイト! 私が誰だか判る?」
流石に未だぼうっとしている
カイト:「あっ、…ねえちゃん…」
万里、カイトを抱きしめる。
万里、カイトをぎゅっと抱きしめる。
万里:「カイト、…カイト、良かった。」
カイト:「ねえちゃん、苦しいって…」
伊織:「シロ、ここのコンピュータが知ってる事を全部聞き出して、香澄のパソコンに教えておいてやってくれ。」
シロ:「ひえー、一応了解なのだ。」
万里:「カイト、立てる?」
まだ、起き上がるのは無理なようだ。
ヒラメ顔が肩を貸そうとするが、普通の重さではない。 150cm足らずの痩せた体躯に100kg近くはあろうかという重量。 一体この重量を動かす動力源はどこから来ているというのだ。
二人掛かりで両側から支えて、ようやく香澄の車まで戻って来る。
伊織:「さて、と…みんなご苦労様。 今日の所はこれで解散!」
クロ子:「やだぁ、 涼子お兄ちゃんと一緒に寝る。」
シロ:「ミジンコは都合のいい時だけ僕らを呼び出してこき使うからずるいのだ。」
お竜:「おやすみなさーい。」
ヒラメ顔、ポケットから二つに割れたコインの欠片を取り出して、…くっつける。
3人の女、いきなり静かになり、
立ちくらみの様にその場にしゃがみ込む。
源、一旦立ち上がるが…よろけてヒラメ顔にすがりつく。
香澄:「入れ替わる瞬間ってすごく気持ち悪いの。」
源、やけにベタベタしている。
万里:「あの、色々ありがとう。」
ようやくひと心地ついて、とりあえず忘れない内に礼を言う。
改めて落ち着いてみると、ヒラメ顔もそれ程害のある人物には見えない。 何処にでも居る所謂普通の男子っぽい。
伊織:「こちらこそ、 」
香澄:「まあ、色々収穫も有ったし、山猫の居場所も判る様になったしね。」
伊織:「これからこの人達、どうするんだ?」
香澄:「ほうって置くと、また山猫がちょっかい出して来るでしょうね。」
伊織:「と言う事は、香澄はまだこっちに残るのか?」
香澄:「あら伊織はお姉さんがいないと寂しいのかな?」
伊織:「別にそんな事は言ってないけど…」
優美、万里に詰め寄る。
優美:「貴方、本当に「さりな」と交信できるの?」
万里:「えっ、 私は夢で見るだけで。 交信とかは…よく、分からない」
香澄:「そうね、「さりな」の事も有るから、まあ一緒に連れて行くのが一番妥当な線だけど、 」
香澄:「カイト、あんたは私と一緒に来る?」
カイト:「上手いもん食わしてくれるんやったら行ってもええで。」
香澄:「濱平さんはどうする?」
なんだかそれほど悪い人達ではない様な気はしている。…でも、
万里: 「私は、やっぱり残る。」
香澄:「そう、判ったわ。」
そう言って香澄は少しだけ微笑んだ。
その日は、一睡も出来ないまま朝を迎えた 。 未だに身体が震えている。
なんだかとんでもない体験だった。
ついこの前迄は「いつかオカルトでファンタジーな世界がおもちゃ箱から飛び出して手の届かない現実をぶっ壊してくれたら面白いだろうな」…なんて妄想したりしていたのだが。
正直言ってもう懲り懲りだ。 おなか一杯。 やっぱり私には普通が一番。 もう二度とリア充を馬鹿にしたり、理系の男子を見下したりしないと心に誓う。
隣にはカイトが眠っている。 綺麗な男の子。
この子とももうすぐお別れ。
突然空から降って来た時、何か運命を感じたのは事実だ。 …でも私とは住む世界が違う。
最後に、…眠っている間に、そっとキスしたら駄目かな。
目を閉じて、唇を重n…
山猫:「駄目です。」
心臓が止まるかと思った!
あの、山猫の声が…確かに聞こえた。
源達は一つ上の階、直ぐには知らせに行けない。
万里:「山猫…、貴方なの? 何処に居るの?」
ベッドの脇のサイドボードの上に、何かがのそのそと這い上がって来る。
それは、…カブトムシ程の大きさも有る、カメムシ?
山猫:「幾ら可愛いからと言って無闇に口付けしないで下さい。 危険です…」
万里:「何なの、あんた。 …虫型宇宙人かなんか?」
ちょっと赤面しているのを誤魔化す。
山猫:「いや、これはカメムシ型ロボットです。 私は離れた場所からこのロボットを使って貴方達を監視している訳です。」
万里:こいつ、踏みつぶしてやろうか…
万里:「さっき酷い目に有ったばかりなのに、懲りないのね。」
山猫:「痛みを意に介している余裕はありませんから。」
万里:「一体、何しに来たのよ?」
山猫:「貴方と、カイト君にお願いが有ります。」
万里:「いやよ。 とりあえず内容聞く迄もなく、嫌よ。」
グロテスクな緑色の巨大カメムシは、人の言う事を一切無視して話し始める。
山猫:「もうすぐ、第一の封印が解かれようとしているのです。」




