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エピソード11 夢の中の少女

Episode11

登場人物

濱平 万里:主人公

難波 優美 & シロ:電波な喋り方の妖怪

源 香澄 & お竜:悪魔の手下

舘野 涼子 & クロ子:口の悪い小娘

加地 伊織:エロ悪魔大王


窓から見える夜景がゆっくりと変わって行く。 波を切る音、上下の揺れから察して、結構なスピードで港の方に向かって進んでいる様だった。


万里:「船が、動いている?」


シロ:「最近覚えたのだ。 コンピュータは良い子だから、お願いすれば大体なんでも言う事聞いてくれるのだ。 便利な世の中なのだ。」


万里:「コンピュータにお願いする?」

万里:「あなたは一体何者なの?  白虎って何?」


シロ:「五行の聖獣なのだ。」


聖獣、…聞いた事が有る。 麒麟とか、鳳凰とか、空想上の聖なる生き物。 神の使い。 


でも、この子見た目は人間の女の子じゃない。…超美人だけど。 しかも夢の中の囚われの少女とそっくりだ。 やはり、変なものを食べさせられて自分は幻覚を見ているのだろうか。 それとも、本当に妖怪変化だというの?


悩む、しかし…

此処迄来たらもはやなんでもありそうな気がする。 これ迄常識・現実だと思っていた世界はとっくに崩壊して、大量の排泄物と一緒に流されてしまっていた。



万里:「聖獣の貴方が、私をどうしようって言うの?」

シロ:「君を助けに来たのだ。」


万里:「助ける?  どうして私を助けるの?」

シロ:「ミジンコの命令だからなのだ。」

万里:「ミジンコ?」

シロ:「僕らのトモガラなのだ。」

万里:「トモガラ?」


万里:微生物に命令されている聖獣って何なの? それにトモガラって何?


言っている事は意味不明。 

しかし、映画や話に聞く悪魔悪霊の類いならば、私の夢の中の少女そっくりに化けて、手も触れずにクルーザーを操縦するなんて事も可能なのかも知れない。



万里:「…あっ!」



いきなり鈍い音がして衝撃が伝わる。 思わずよろけてその場に転んでしまった。 


着岸はかなり荒っぽかった。

外壁を削りながら埠頭に衝突している。 


シロ:「着いたのだ。」


少女に連れられてデッキに上がる。 波打ち際で船は大きく揺れ続けていた。


次の瞬間 、少女がデッキの手すりに手を触れると、驚いた事に手すりが変形して梯子になり、 岸壁に食い込んだ。


万里:「これって魔法…よね、」

シロ:「さあ、降りるのだ。」


上下にきしむ梯子を伝って なんとか地面に足を着ける。



振り返ると其処には源香澄と、男の子が居た。


万里:カイト??


いや、背丈はもう少し高くてずいぶんぽっちゃりした体型、ヒラメ顔の男子。



伊織:「ご苦労様。」

シロ:「船には他に誰も乗っていなかったのだ。」



’あの’ 源が寄り添う、その男子をしげしげと眺める。 見た目はぱっとしない、何処にでも居て目立たなさそうな男子。 しかし山猫は源香澄を「人外の先兵」、「人類の敵」と言っていた。 山猫の言っている事が100%本当では無い事は頭では判っているが、山猫を否定すればまたあの恐怖の仕打ちが待っている。 身体に染み付いた恐怖が、源香澄とその仲間に近づく事を拒ませていた。



万里:「もしかして、あなたが…ミジンコ?」

伊織:「ああ、シロがそう言ったんですか。 俺は…加地伊織と言います。」


万里:「あなたも…聖獣なの?」

伊織:「俺は、人間ですよ…多分。」


万里:「多分?」


レイプまがいの身体検査をする山猫だが、おとなしく服従さえしていれば命迄とる事は無さそうだった。 しかしこのモノ達は人間ではない、どれ程の慈悲を期待できると言うのだろう。 何を信用して良いのだろう。


そもそも、このモノ達の狙いは一体何なのだろう? 彼らにとって邪魔な存在の私を殺す事? だったらとっくにそうしてるはず? 


それじゃあ又私を「餌」にして、他の誰かを捕まえる気なのだろうか?




万里:「…私をどうするつもりなの?」


問わずにはいられなかった、

人外のモノ達の談笑が止み、一斉に視線が私に突き刺さる。



伊織:「俺は、香澄に頼まれて貴女を助けに来ただけです。 別に貴女をドウコウしようって考えてないですよ。 何なら元の場所に戻しましょうか?」


源:「何か色々混乱してますね、彼女。」


源も何だか前と雰囲気が違う。 前はもっと傲慢?そうに見えた。 今はどちらかと言えば卑屈?そうに男子に取り入っている…。 その違和感がますます警戒心を駆り立てる。 この人当たりの良さそうな男子が悪魔で源はその手下?そんな風に見えなくもない。



万里:「源さん、一体これはどういう事なの。」


源:「すみません、私 香澄さんじゃありません。 一応 お竜って呼ばれてます。 まあ不本意なんですけどね。」


万里:源じゃない?

さらに混乱する。 


万里:だって、どう見たって源香澄じゃないの。 今迄…騙していたと言う事?



伊織:「こいつら聖獣は、香澄達人間と一つの身体を共有しているんです。 ちなみに今は聖獣です…だから香澄じゃなくってお竜。 一寸紛らわしいですけど。」


万里:やはり怪しい…もしかして化かされてる? いや馬鹿にされているの?



改めて夢の中の少女そっくりな少女を見る。 自分の夢の中の人物が実在していただなんて何だか不思議な感覚だ。 正夢的なハッピーな解釈よりも、悪魔が私の夢を利用して私をだまそうとしているリスクを考えた方が良いのではないだろうか。


万里:「そっちの子は、 本当に実在してるの?」

シロ:「失礼なのだ。 僕は実在の人物・団体等なのだ。」(作者注、あくまでも劇中です…)


万里:「ごめんなさい。 貴方、私の夢に出てくる女の子とまったく同じ姿だったから、 ちょっと驚いちゃった。」


万里:怖い、…怒らせちゃったかな? 酷い事されたりしないかな…


すっかり臆病になっている自分に気付く、しかしそれも致し方ない事だ。 それに警戒するにこした事は無い。



伊織:「どういう意味ですか?」


万里:「私、小さい頃から決まった夢を見るの、塔に閉じ込められている女の子が居て、私が会いに行くといつも優しく微笑んでくれる。 その私の夢の中の少女、その子と全く同じ顔、姿をしているの。」


伊織:「何か面白いですけど、こいつは17歳ですよ。 貴女が子供の頃にはもっと小さかったと思うし、他人のそら似じゃ無いですか?」



多分、この連中を信用できるかどうかはこの夢の中の少女にかかっている。

悪魔が私を騙そうとして化けているのか。 それとも、これまで私が待ち続けた私の「現実」トゥルー・ルートへのフラグなのか。


そして、私は一つだけその鍵を持っている。



万里:「その女の子の名前は シロ だって聞きました。 でも、もう一つ人間の名前が有るんですよね。 よかったら教えてもらえませんか。」


ヒラメ顔の男子は不審そうな眼で万里を窺っている。 やはり、分岐が此処にある。



伊織:「こいつの名前は 難波優美 です。 それが何か。」


万里:違った。 私の知っている夢の少女の名前とは違う。 私の夢の中の少女の名前は「さりな」。 こいつらは…


お竜:「伊織さん、このこ「さりな」を知っている様です。」


万里:「えっ?」


万里:心を読まれた?



伊織:「「さりな」を知っているって? どうしてそんな事が判るんだ?」

お竜:「このこ「さにわ」ですよ。 私達とビンビン交信してます。 今は尸童の肉体使って音声で意思伝達してますけど。 考えている事も直接伝わってきてます。 このこ、私達の事を悪魔だと思っている様です。」


万里:やはり…

伊織:「悪魔か、まあ似た様なモノかも知れないけど…ちょっと心外だな。」



伊織:「心配しなくても、私達は貴女に危害を加えたりしないですよ。」

伊織:「それと…「さりな」は優美の母親の名前です。 貴女はどうして「さりな」を知っているんですか?」


万里:「それは、夢の中で…何故だかその少女の名前だけは判っていたの。 聞いたんじゃなくて、最初から判っていた…みたいな。」

お竜:「「さりな」も「さにわ」なので、「さにわ」同士精神感応があっても不思議は無いです。 でも、こんな近くに「さにわ」が二体も居るなんて普通あり得なさそうですが。」


クロ子:「伊織お兄ちゃん、さりなはさにわ…だって。 ぷっ!…だね。」


男子の後ろから、もう一人別の女の子が出て来た。


小柄で華奢な体つき。 肩にかかるかかからないかの髪を両サイドでツインテール風に束ねている。



伊織:「お竜、お前達 さにわ と交信できるのなら、「さりな」とも交信できるのか?」

お竜:「勿論…と言いたい所ですが、「さりな」は私達を尸童に導いた後 交信不能になっています。 てっきり死んだかと思ってました。」


伊織:「貴女、今でもその夢を見るんですか?」

万里:「ええ、最近も見たわ。」


万里:何言ってんのか、まるっきりついて行けない…。

「さりな」はその子の母親だって? だってどう見たって「さりな」は少女だった。 17歳の子持ちには見えない。 それに交信って何? 霊界交信? テレパシー? 今こうして私が考えてる事もモロバレって事?


クロ子:「そうよ、全部バレバレなんだから。 貴女の方がよっぽど不安定で信用できないわ。 この現実逃避の中二病おんな!」

万里:「ぐっ、」


万里:何、この子…嫌い

クロ子:「こっちだってお断りよ、あんたなんか嫌い。」


伊織:「こら、クロ子。 無闇に人を傷つける様な事言わない。」

クロ子:「ごめんなさい伊織お兄ちゃん。 だってこいつお兄ちゃんの事、エロ悪魔大王だって言うんだもん。」


万里:いや、其処までは言ってない…



クロ子:「涼子のこと嫌いにならないでぇ。」


口の悪い小娘、ヒラメ顔にすり寄って媚びる。


伊織:「お前はクロ子。 涼子じゃないだろ。」

クロ子:「やだ、クロ子ってなんか可愛くない。 それにお兄ちゃんだって涼子がエッチな事喋った方が嬉しいでしょ?」


伊織、スルー



伊織:「でも何で山猫が今更 さにわ なんか誘拐するんだ? あいつは聖獣を敵対視してんだろ?」

お竜:「人間の考えてる事は分かりませんが、…この後どうします?」


伊織、少々考える…フリ。


伊織:「計画通り、もう一人の方を探ってみるか。」




万里:「もう一人って?…もしかして、カイト!」


忌まわしい記憶が蘇る。 カイトは数字女に顔面に何十本もの釘を撃ち込まれ、手を切り落とされていた。 あれは現実に起きた事だったのだろうか?


万里:カイトに会いたい。


カイトが何者だって構わない。 カイトが全ての元凶だったとしても構わない。 カイトの無事を確認したい。 もう一度抱きしめたい。 もう一度匂いを嗅ぎたい。 


万里:「カイトの所にいくのなら、私も一緒に連れて行って!」



伊織、頷く

伊織:「判りました。 一緒に行きましょう。」

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