王太子の取り巻きを辞めたら
「これでよし、と」
1枚の手紙を認めた俺レイナル・ハンクードは家を出てポストに投函した。
「今の俺にはこれしか出来ないからな……」
1ヶ月前に領地内のこの寂れた村にやって来た。
その前は貴族学院で王太子の取り巻きをやっていた。
それも侯爵である父親からの命令だったんだけど、この王太子が問題のある人物だった。
所謂プライドだけがやたらデカくて気に入らない事があればすぐキレる、絶対に人の上に立ってはいけない奴だ。
こう本音を言えるのも取り巻きを辞めたからだけど側にいる時は常に顔色を窺っていた。
そんな王太子だけど婚約者がいる、公爵家のミネルバ・ラールナイト様だ。
あんな王太子には勿体無いぐらいのよく出来た方だ。
まぁあの王太子はそのありがたみをわかってなくて常日頃から『面白くない女』とか『真面目だけが取り柄』とか悪口を言っていて内心ぶん殴ってやろうか、と思っていた。
そんなストレスで胃が痛くなる日々を過ごしていた時、問題が起こった。
王太子が平民上がりの男爵令嬢と恋仲になったのだ。
まぁ一時的な恋とかだったらちょっとは傍観していたけど、婚約破棄を計画している事がわかった、ていうか堂々と宣言した。
しかも公の場でやろうとしているから俺は勇気を出して言葉を選んで苦言を呈した。
『殿下、流石にそれはマズいと思います。 婚約を解消するならばミネルバ様や公爵家と話し合いをしてお互い納得した上の方がよろしいか、と』
……言葉を選んだつもりだったんだけどそれでも王太子は気に入らなかったらしい。
その日以降、俺は取り巻きから外され、しかも実家に抗議の手紙を送って来やがった。
父親に呼び出された俺は勿論正直に話した。
でも、父親にとっては王家に睨まれた事が重大だったみたいで俺は貴族学院を自主退学させられこの田舎に送られてしまった。
俺は理不尽さを恨んだよ、たったの一言でこんな事になるなんて、って恨んだよ。
だからせめてもの抵抗で俺はミネルバ様に手紙を書いた。
『貴女の婚約者、浮気してしかも公の場で婚約破棄をやろうとしていますよ』と。
この手紙をどう取られるかはわからない。
だが、あの王太子に一矢報いたい、そんな思いで書いた。
その1週間後になんと返事が届いた。
『貴方の手紙を読ませていただきました。 報告していただき感謝しています。 今お父様と相談してどう対応するかを話し合っています』
「よかった……、ちゃんと伝わったんだ」
それだけで俺は報われた気分になった。
更に1週間後、また手紙が届いた。
『こちらでも調査をした結果、例の男爵令嬢は隣国の諜報員の疑いが出てきました。 ただいま各大臣と話し合いをしています』
「あれ? 事が大きくなってる……?」
更に1週間後、また手紙が届いた。
『諜報員である事が確定になりました。 王太子様も機密情報を言っていたそうで関係者全員が捕縛されるそうです』
え、捕縛?
捕まる、って事?
あの取り巻きだったメンバーも全員?
もしかして俺も?
そして、1週間後俺は公爵家に呼び出された。
「こうして直接お話しするのは初めてでしたね、レイナル様」
「は、はいっ!」
俺は緊張でガチガチになっている。
だってミネルバ様だけでなく公爵様もいるんだから。
「君のおかげで国に潜んでいた虫どもを炙り出す事が出来た。 感謝してるぞっ!」
「はい? 俺はただ王太子の浮気を報告しただけなんですが」
「それが調査の結果、隣国と繋がっている貴族が多数いた事が発覚したんです」
「えぇっ!?」
「例の男爵令嬢が王太子以外にも手を出していたみたいでな、早めに発覚していなかったら我が国は乗っ取られていたかもしれん」
そんな大事になっていたのか……。
「でも、国王様が早めに動いてくれたおかげで証拠も取れて関係者は捕縛され私も自由の身になりました」
「元々、あの王太子との婚約は反対していたんだ。今回の事で国王を問い詰めて慰謝料をガッポリ取ってやったわいっ!」
ガハハと豪快に笑う公爵様、それをクスクスと微笑むミネルバ様。
……俺が手紙出さなくてもこの親子だったら対応出来たんじゃないか?
その後も俺はミネルバ様と交流を深めていった結果、ミネルバ様と婚約する事になった。
既に公爵家はミネルバ様の兄がいるので俺の家にミネルバ様が嫁入りする事になった。
あんなに俺を罵って追い出した親父は土下座して謝ってくれたよ。
俺を追い出した後、母さんや親戚にガッチリと締められたらしい。
最初は絶望していたけどこんな逆転があるなんて思わなかった。




