音の正体
マグカップの中の液体を、男はベランダの排水溝にとろとろと流し込んでいた。
「……」
短くなったタバコを片手に、ゆっくりと流れる液体を見詰めている。
二、三回振って中身が無くなったことを確かめると、男は雑巾で排水溝を拭いた。
念入りに、何度も何度も。
これで前回の分は終わった。
そう男は思った。
ベランダから居間へ上がり、防音布を張ったガラス戸を閉める。
部屋の中には何台ものミキサーが汚れたまま放置してあった。
何かが暴れる音がして、机の上のミキサーがカタカタと揺れる。
男は濁った目で押入れを見ると、何も言わずにマグカップを洗いはじめた。
水音を上回る大きな音が押入れから聞こえている。
マグカップを洗い終え、男は押入れに向かった。
途中、通り過ぎた机の上にパソコンがある。
チャットツールが開きっぱなしになっていて、今も会話が続いていた。
会話のログが流れるウィンドウの横には、フレンドリストらしき一覧が開かれている。
ログインしている人の名前は青、ログアウトしている人のは赤で表示されているようだ。
赤い名前の中に、*light04*という名前があった。その横には、26と数字が表示されている。
静かになった押入れから体を出すと、男は切り取った何かをミキサーの中に入れた。
ソファに座り、スープだけ残したラーメンの器を手に取る。
スープをミキサーの中に半分注ぐと、電源を入れた。
勢いよく回転する刃が中の物を切り刻み、どろどろの液体へと変えていく。
それを見届けると、男は木板でできた箱を組み立て始めた。
ゴム製のハンマーが釘を打ち込み、低い振動が床を伝わる。
それに抵抗するかのように、押入れが小さく揺れた。
カタカタ、カタカタ、と。