あとのまつり
色とりどりの光が踊るテレビをぼんやりと眺め。
テレビ上部に流れるテロップを見て、わたしは凍りついた。
「……」
速報、と頭についた文字列が、ゆっくりと画面を横切っていく。
そこには女子大生殺人事件の新たな、それも急な展開が伝えられていた。
『【ニュース速報】E県T市にて二十代男、死体遺棄現行犯逮捕。×大女子学生殺害を自白。……』
どういうこと?
頭の中が真白になった。
テレビに流れていることは多分本当だ。
だったら、聡子ちゃんが押入れに閉じ込めようとしていたものは何?
聡子ちゃんは人殺しじゃない?
カタ、と背後で物音がした。
押入れの、中から。
振り向くわたしの目の前で、ぴったり閉じていた押入れが少しだけ開く。
そう、指一本分。
細くて白い、聡子ちゃんの。
カタカタと、自分が震えているのがわかった。
どうしよう。
生臭い液体で汚れた両手を見詰め、生唾を飲む。
押入れが鳴っている。
わたしを呼ぶ声が聞こえる。
聡子ちゃんの、声。
「いや……やめて……」
耳を塞いでも聞こえてくる、『ここから出して』という叫び声。
「違う、わたしが悪いんじゃない――」
聡子ちゃんが紛らわしいことするから。
けれど、そんな言い訳で音が鳴り止むはずもなく。
少しずつ、少しずつ、押入れは開いていく。
暗闇の中から、わたしに向けられる視線を感じる。
「……っ」
いつのまにか、わたしは近くのバッグに荷物を詰めていた。
はやく、ここから出ないと。
押入れのないところへ逃げないと。
あと数時間したらお父さんが来る。
でも、実家は押入れだらけだ。
携帯電話を握り締め、わたしは玄関から走り出た。
背中で押さえた玄関扉を、何かがドンドンと叩く音がする。
振動が体に伝わる。
家に、帰れない。
気のせいか赤い廊下に座り込み、わたしは空を仰いだ。
逃げ続けなくては。
どこか、押入れの無いところに。
誰か、泊めてくれるところに。
実家は駄目。晴香の家にも行けない。
わたしの脳裏に、一人暮らしの知り合いの名前が浮かんだ。
そうだ、あの子なら。
震える手で携帯電話を開き、アドレス帳でま行を探す。
確かワンルームに住んでいると言った。
白いフローリングだと自慢げに話していた。
友達じゃない。
友達の友達。
だから。
「……ちょっとぐらい巻き込んだっていいじゃない」
アドレス帳の中に見つけた、彼女の名前は――