一ノ宮雅紀、特級呪物を見つける〜拾ったのは、世界を終わらせる"マフラー"でした〜
大学裏のゴミ置き場。
雅紀が目を輝かせていた。
「今日もいいブツが落ちてないかな」
「お前、完全に不審者だぞ」と細田。
「リサイクルの精神だ。地球に優しい鉄クズハンター」
「鉄クズを拾うのに地球への優しさは関係ない」
「ある。捨てられた鉄に第二の命を与えることが——」
カラン。
雅紀が止まった。
「……ん」
灰色の長い布が落ちていた。
先端に焦げ跡があった。
刺繍で「呪」と書かれていた。
「これ絶対なんかあるやつだ」
「拾うな」と細田。
「拾う」
「やめろ」
「拾う」
死亡フラグが立った。
夜。雅紀のアパート。
「……なんか暖かいなこのマフラー。風呂上がりにちょうどいいじゃん」
巻いた。
「——見つけた」
声がした。
「ん?」
鏡を見た。
自分がもう一人いた。
「返せ……それは、"魂を喰う布"だ……」
「え、俺が喋ってる? 待って、どっちが俺?」
部屋の電気がバチバチッ。
翌日。大学。
「お前、顔が青いぞ。大丈夫か」と準。
「マジで昨日鏡から俺が出てきて、勝手にカップラーメンを食べて寝てた」
「何味?」と細田。
「醤油。俺の好きな味だったから余計怖い」
「自分が食べるから自分の好みを知ってるのか」と準。
「そうなんだよ。自分の分身に自分の好みを把握されてる」
「自己分裂系呪いきた」と細田。
「呪いのくせに飯を食うな」と加賀。
「腹が減ったんだろ、向こうの俺も」
「向こうの俺が腹を減らすのか」
「減らすんだよ。俺の分まで食べてた」
「二人分食われてるのか」
「食われてる。それで今朝カップラーメンが一個なかった」
狭霧が来た。
「……貴様、何を巻いておる」
「マフラーっすけど」
狭霧が布を見た。
「……"灰染ノ咎布"——数百年前、呪殺百人を成した特級呪物じゃ」
「アニメみたいな名前デスネ」とマイケル。
「実際アニメよりタチが悪い」
「走り屋的に聞いていいか」と加賀。
「何だ」
「マフラーという名前だが、車のマフラーとは関係があるか」
「ない」
「全くないのか」
「全くない。ただの布だ」
「……そうか」
「なぜ聞いた」
「車のマフラーが呪物だったら面白いと思った」
「面白くない」と狭霧。
「そうか」
「でも少し面白い」と瑞羽(どこからか来ていた)。
「来るな」と狭霧。
「もう来ておるぞ。して——また一尾が儀式をするのか」
「そうだ」
「妾が加勢すれば——」
「要らない」
「でも今回は前回より呪いが強いのう。一尾の力で——」
「足りる」
「足りるかのう」
「足りる」
「でも——」
「足りると言っている」
瑞羽が扇を広げた。
「……まあ、見ておくかのう。一尾が格上の呪物に挑む様子、面白そうじゃ」
「面白がるな」
「面白いから面白がるのじゃ」
「……いつもと同じ言い方だな」
「いつも本当のことしか言わんからのう」
「外せ。さもなくば貴様の魂は布に喰われる」と狭霧。
「え、でもこれ結構似合ってて——」と雅紀。
「外せ」
「でも暖かくて——」
「外せ」
「RX-8のカラーリングに合う気がして——」
「外せ」
「……わかった」
雅紀が布に手をかけた。
バチィッ。
「うわああ」
床に黒い文様が浮かんだ。
空間が歪んだ。
マフラーが蛇のように動いた。
「また異常現象か。今月だけで四回目だぞ」と朱音。
「弟がまたバカなことをしたわね」と舞花。
「拾ったの俺じゃないんですけど」と細田。
「拾ったのは雅紀だ」と加賀。
「俺が拾ったのか」と雅紀(布に絡まれながら)。
「拾った」
「ゴミ置き場で拾った」
「「「「なぜ拾った」」」」
「なんかあるやつだと思って——」
「呪と書いてあったぞ」と加賀。
「呪と書いてあるから面白そうで——」
「走り屋がゴミ置き場で特級呪物を拾う理由がない」
「ロマンがあるかと——」
「ない」
狭霧が結界を展開した。
「——封印、発動」
光と風が爆ぜた。
狐火が舞った。
瑞羽が木の影から見ていた。
「……なるほどのう。一尾の封印術、前回より安定してるのう」
「黙っていろ」と狭霧(作業中)。
「褒めておるのじゃが」
「今は集中する」
「集中している一尾、良い顔をしておるのう」
「……うるさい」
静寂。
「……俺、生きてるか」と雅紀。
「命は拾った。だが——」
「だが?」
狭霧が布を見た。
「そのマフラーは、貴様に懐いたようじゃ」
「懐いたのか」
「呪物が宿主を認めた場合、封印しても離れなくなることがある」
「じゃあ俺、呪物と一緒に暮らす系男子か」
「そうなる」
「Newタイプの同居生活デスネ」とマイケル。
「ケモも呪物も攻略しようとする大学生、倫理観はどこにいった」と準。
「もう走り屋要素が欠片もない」と細田。
雅紀が布を見た。
灰色の布が、雅紀の手首に巻かれていた。
おとなしかった。
「……お前、RX-8のカラーリングに本当に合うな」
「懐いた宿主に語りかけるな」と狭霧。
「でも——なんかもう、こいつも家族みたいな気がする」
「気がするだけだ」
「RX-8も呪われたりしないか」
「しない。呪物は一人の宿主しか認めない」
「俺専属か」
「そういうことだ」
「……じゃあよろしく、咎布」
「名前をつけるな」と狭霧。
「もうついてる。灰染ノ咎布だろ」
「略称をつけるな」
「咎布、かわいい名前だと思う」
「思うな」
布が、雅紀の手首で一度だけ動いた。
肯定するように。
瑞羽が言った。
「……面白い人間じゃのう、この一尾の知り合いは」
「面白がるな」と狭霧。
「面白いから面白がるのじゃ」
「……いい加減別の言い方をしろ」
「これが妾のスタイルじゃ」
「スタイルを変えろ」
「変えん」
翌朝。
「走り屋が特級呪物を拾って同居する話をどう記録すればいいんだ」と朱音。
「そのまま記録しろ」と加賀。
「"一ノ宮雅紀、ゴミ置き場で特級呪物を拾って同居開始"でいいか」
「それでいい」
「走り屋要素はどこにある」
「RX-8のカラーリングに合うと言っていた。それが走り屋要素だ」
朱音が少し間を置いた。
「……それは走り屋要素とは言わないと思う」
「言う。走り屋は車のカラーリングを基準に全てを判断する」
「そういうものか」
「そういうものだ」
加賀がセリカのエンジンをかけた。
ヴォォォン。
「走ってくる」
「呪物の話が終わってないぞ」と準。
「終わってる。雅紀と咎布が仲良くなった。それだけだ」
「それだけなのか」
「それだけだ。走り屋の話に戻る」
セリカが駐車場を出た。
朱音がメモ帳に書いた。
「一ノ宮雅紀:ゴミ置き場で灰染ノ咎布を拾い同居開始。呪物に"咎布"と略称をつけた。狭霧に怒られた。RX-8のカラーリングに合うと言っていた——走り屋要素の有無について加賀と議論した。結論:走り屋は車のカラーリングを基準に全てを判断する——記録しておく」




