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自動車サークル、NACK5電波ジャック

朝。S・H・B部室。

雅紀がラジオを持ってきた。

ジャンクで修理した自作品だった。

「今日も出るぞ。俺の修理完了ラジオでNACK5を聴くんだ」

「お前の修理したラジオって、ノイズと雑音しか流れないやつじゃないか」と準。

「"Good Luck"が"グヱラック"になるやつだろ」と加賀。

「電波の暴力だYO」とマイケル。

細田がニヤリとした。

「……逆に俺らの声を電波に乗せたらどうなると思う」

「お前、今なんつった」と準。

「NACK5をジャックするって言ったんだよ」

全員が沈黙した。

「……やるか」と雅紀。

「やろう」と準。

「違法じゃないのか」と加賀。

「FMトランスミッターは違法じゃない」と細田。

「出力を上げたら違法だ」

「……出力を上げたFMトランスミッターを作った、とは言っていない」

「作ったんだろ」

細田が黙った。

「……作った」

「違法だ」

「でもロマンがある」

加賀が少し間を置いた。

「……送信出力はいくつだ」

「自作で120倍」

「完全に違法改造だな」

「でもロマンがある」

「ロマンと法律は別の話だ」

「別だが——」

「やるか」と加賀。

「やる」と全員。

「加賀も乗るのか」と準。

「電波で走り屋の話をするのは一度やってみたかった」

「正直だ」


深夜。加賀のセリカのボンネットが開いた。

怪しいアンテナが伸びた。

「FMトランスミッター・フルチューン仕様、完成した」と細田。

「……本当に120倍か」と加賀。

「数値上はそうなってる」

「根拠は」

「気合と半田ごて」

「根拠がない」

「気合は根拠だ」

「そういうことにしておく」

準がマイクを持った。

「では——行くか」

スイッチを入れた。

ピッ。


NACK5のモーニング番組が流れていた。

「おはようございます、NACK5 Morning Line、担当の——」

突然、電波が乱れた。

「——えー、こちら埼玉中央総合大学より、謎の自動車サークルS・H・Bがお送りします」

準の声だった。

埼玉全域に届いていた。

「今週のテーマは"お前の愛車のどこが好きか"。加賀から行こう」

加賀がマイクを持った。

「セリカZZT231。2ZZ-GE、1794cc、DOHC、VVT-iL。エンジンをかけた瞬間に全部わかる。調子がいいときの音と、悪いときの音が違う。25年間、その音が変わらない。それだけだ」

「感動的だYO」とマイケル。

「次、雅紀」と準。

「俺のRX-8——もう好きとかそういう感情通り越して修羅だ。壊れるたびに直して、直すたびに愛着が増す。ロータリーは壊れるから愛せる。壊れない機械は愛せない」

「哲学だな」と準。

「マイケル」

「ミーのレガシィGT-B、EJ20ターボ。雪山でもドリフトできるYO。AWDの全輪が地面を掴む感覚、これぞ日本の技術の結晶デース」

「細田」

「俺のフィット——L15A、SOHC VTEC。バカにする奴は多いが、限界まで回したときのVTECの覚醒を知らないから言える。あと今はらき☆すた痛車仕様なので文化的価値もある」

「痛車は別の話だろ」と準。

「文化だ」

「俺は」と準。「ノートNISMO、HR16DE。速くはないかもしれない。でも——このエンジン音を聞くと、走り屋として生きてきた全部が戻ってくる気がする」

全員が少し黙った。

「……詩的だYO」とマイケル。

「走り屋の話をしてるだけだ」


埼玉のどこかで、ラジオを聴いていた人間が止まった。

「え、なにこれ。本物の放送止まった」

「NACK5乗っ取られてるぞ」

「なんか自動車サークルが喋ってる」

「愛車の話してる……なんか、いい話じゃないか」


「リスナーからのお便りが届いています」と準(読み上げ)。

「"彼氏が走り屋で困ってます"」

「それ俺じゃないよな」と準。

「お前しかいない」と加賀。

「"S・H・Bの皆さん、次の峠バトルはどこですか"」

「NACK峠で待ってるぞ」と細田。

「NACK峠は存在しないだろ」と加賀。

「"走り屋って楽しいんですか"というお便りです」と準。

加賀がマイクを持った。

「楽しいかどうかは走ってみないとわからない。でも俺はセリカに乗り続けている。それが答えだ」

「"加賀さん、かっこいい"というお便りです」と準。

「記録に残すな」と加賀。

「届いたお便りだ。記録する」と朱音(いつの間にかいた)。

「朱音はいつから来てたんだ」

「最初から」

「なぜ止めなかった」

「面白かったから」

「お前も共犯だ」

「記録しておく」


朱音がイヤホンを外した。

「……またこいつら電波使って暴れてる」

舞花が言った。

「治安維持部隊、出動」

浦和のNACK5スタジオ前。

警備員が青い顔をしていた。

「今、謎の大学生グループが電波に混信してるんです」

「止めてくる」と舞花。「朱音、EMP装置」

「……了解」

バチッ。

アンテナがショートした。

放送が終わった。


「……で、なんでウチの工具使ったんだ」と呉(翌日)。

「……すみません」と加賀。

「でも一瞬だけ俺らが"埼玉の声"になったんだぞ」と細田。

「埼玉の恥だろ」と準。

「恥でも声だ」と細田。

「それは認める」と加賀。

「認めるのか」と細田。

「電波で走り屋の話をした。誰かに届いたかもしれない。それだけで十分だ」

呉がメガネを外した。

「……お便りの話、聞こえてたぞ。修理してるこっちのラジオにも混信してきた」

「聞いてたんですか」

「聞こえた。愛車のどこが好きかという話——まあ、悪くなかった」

「褒めてますか」

「褒めてない。でも——悪くなかった」

それだけだった。

加賀がセリカのエンジンをかけた。

ヴォォォン。

2ZZ-GEが、夕方の空気の中で目を覚ました。

「これが答えだ」と加賀。

「何の答えだ」と準。

「走り屋が走り屋である理由の答えだ」

セリカが駐車場を出た。

朱音がメモ帳に書いた。

「NACK5電波ジャック:送信出力120倍のFMトランスミッターで約3分間放送した。内容は各自の愛車への想い。加賀のセリカ、雅紀のRX-8、マイケルのレガシィ、細田のフィット、準のノート——全員、愛車への言葉を持っていた」

「呉:"悪くなかった"と言った——記録しておく」

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