暁ノ魔装少女(アカツキノマソウショウジョ)〜トイレ行けない魔装少女まで〜
深夜。S・H・B部室。
外は雨だった。
机の上に、黒い羽根があった。
古びた紙があった。
「暁ノ魔装少女〜血契に咲く花は、絶望を照らす〜」と書かれていた。
「……なんだこれ」と準。
「誰だよ"暁ノ魔装少女"って。新入生のサークル勧誘ポスターか」と雅紀。
「違う。フォントがガチだ」と加賀。
「厨二病とガチ宗教の中間みたいな重さがある」と細田。
「量産型魔法少女アニメのタイトルだろこれ」と準。
「タイトルだけで3作品思い浮かんだ」と加賀。
「俺も3作品思い浮かんだ」と雅紀。
「全部同じ3作品だろ」と準。
「多分そうだ」
その瞬間。
窓が割れた。
赤い光が入ってきた。
「契約者——見つけた」
煙の中から、赤いドレスと機械翼を纏った少女が現れた。
「我が名は《暁・ルヴィア》。血契により、世界の夜を裂く者」
全員が黙った。
加賀が言った。
「……その設定、どこかで見た気がする」
「見たな」と雅紀。
「3作品全部に似たキャラがいる」と準。
「4作品目にも似たキャラがいた」と細田。
「量産されてる設定だ」と朱音。
ルヴィアが目を細めた。
「……貴様ら、感動しないのか」
「感動するポイントはどこだ」と加賀。
「世界を救う運命を告げられたのに——」
「俺たちは走り屋だ。世界より川越街道の方が身近だ」
「川越街道を誰が守るんだ」
「川越街道がなくなったら困る。世界が滅んでも川越街道があれば走れる」
「世界が滅んだら川越街道もなくなるぞ」と雅紀。
加賀が少し間を置いた。
「……そうだな。では条件付きで聞こう。世界を救うと川越街道も残るのか」
「残る」とルヴィア。
「では話を聞く」
「論理的だ」と朱音。
ルヴィアが前に出た。
「問おう。貴様らの"燃料"は何だ」
「ガソリンです」とマイケル。「Shell V-Power。ハイオク仕様」
「……」
「2ZZ-GEはハイオク推奨なんデスYO」
「貴様らは愚か者の極みか」
ルヴィアが準を指した。
「汝の魂、熱き焔を秘めている。契約を交わすがよい」
「俺、もう狐と猫又と傲慢な三尾と契約してるから。枠がパンパンだ」
「問答無用」
「クーリングオフはないのか」
「ない」
「約款を読んでいない」
「問答無用だ」
バチィッ。
準の体が光った。
光が収まった。
準が変身スーツを着ていた。スパッツとミニスカートだった。
「……なんだこれ。スパッツかスカートかどっちだ」
「両方だ」と朱音。スクリーンショット済みだった。
「似合ってるわよ」と舞花。棒読みだった。
「似合ってるにゃ」と朔夜。どこからか来ていた。
「……ほほ、人間の雄が女装とは珍しいのう」と瑞羽。窓から覗いていた。
狭霧が廊下から言った。
「……鈴木殿、なにゆえ女装を」
「違う、選ばれた。なぜか俺が選ばれた」
「なぜ準殿が選ばれたのだ」と狭霧。
ルヴィアに向かって言った。
「この者の魂が——」とルヴィア。
「ケモナーの魂が世界を救うのか」
「ケモナーかどうかは関係——」
「ではなぜ選ばれた」
「……熱量だ」
狭霧が少し間を置いた。
「……それは認める。準殿の熱量は本物だ。ただしその熱量の向き先に問題がある」
「走り屋と走り屋の骨格と毛並みにしか向いていない」と朱音。
「そうだ」と狭霧。
加賀が言った。
「走り屋が世界を救えるかどうかは知らない。でも走ることで正気を保てる。正気の人間が増えれば世界は多少マシになる」
「……それも一つの理論だ」とルヴィア。
「でも俺は走り屋だ。魔法少女はできない」
「魔装少年だ」と雅紀。
「どっちでもできない」と加賀。
翌朝。
準はスーツが脱げなかった。
「……チャックがない。どこにもない」
マントで隠して部室に来た。
「なんだその格好」と加賀。
「脱げないんだよ服が」
「魔法少女あるあるだな」と細田。
「あるあるじゃない。現実の問題だ。トイレに行けない」
「それは困る」と加賀。真剣だった。
「困ってる」
「魔法少女ってそういう実用的な問題があるのか」と細田。
「量産型の作品では誰も指摘しない部分だ」と準。
「現実に落とすとこうなる」と朱音。
「記録するな」
「した」
狭霧が術式を展開した。
「……破呪・蒼狐陣」
光が弾けた。
スーツが消えた。
「消えたYO」とマイケル。
「一緒にパンツも消えたYO」と雅紀。
「これ深夜枠でもギリだぞ」と細田。
朱音がスマホを構えた。
「記録——」
「するな」
「した」
「消せ」
「消さない」
瑞羽が窓から覗いた。
「……ほほ、一尾の術式は精度が低いのう」
「低くない」と狭霧。
「パンツまで消えたぞ」
「……副作用だ」
「副作用が激しすぎるのう。三尾の妾が術式をかければ——」
「かけなくていい」
「かけてやろうか」
「かけるな」
準が毛布にくるまりながら言った。
「誰でもいいから服を持ってきてくれ」
着替えた後。
「……量産型魔法少女作品への皮肉がここに完結した気がする」と準。
「何が」と加賀。
「世界の運命を背負った契約者が、翌朝トイレに行けなくて困る——そういう現実を誰も書かない」
「変身解除不能というシステム上の欠陥だ」と加賀。
「欠陥だよ。でも作品中では誰も気にしない」
「走り屋的に言えば——ブレーキの設計ミスで走り出したようなものだ」
準が少し間を置いた。
「……それは的確な比喩だ」
「比喩じゃない。設計の話だ」
ルヴィアが再び現れた。
空気が歪んで、赤い光が入ってきた。
「……解除したな。だが契約は終わっていない」
「クーリングオフしてくれ。本当に」
「ならば新たな契約を。"新システム"を授けよう」
加賀が言った。
「それただの改良パッチじゃないか」
「……パッチ?」
「前のシステムに欠陥があったから修正版を出す。量産型作品の続編と同じ構造だ」
ルヴィアが黙った。
「……貴様、なぜそんなに冷静なんだ」
「走り屋だから」
「走ることと冷静さに関係があるのか」
「ある。エンジンの状態を正確に把握するには冷静でないといけない。感情で走ると死ぬ」
ルヴィアがまた黙った。
「……興味深い人間だ」
「俺は走るだけだ。魔装も契約も要らない」
ルヴィアが消えた。
また来るかどうかはわからなかった。
「普通の服に戻ったな」と細田。
「もう魔法少女はごりごりだ」と準。
「"魔装男子"という新ジャンルを開拓した。誇っていいと思う」と朱音。
「誇らない」
「同人誌のネタになる」
「絶対にするな」
「マイ準本の続編に使えるYO」とマイケル。
「使うな」
加賀がセリカのキーを回した。
「走ってくる」
「魔装少年が走るのか」と雅紀。
「走り屋が走る。それだけだ」
ヴォォォン。
2ZZ-GEが、朝の空気の中で目を覚ました。
準がその音を聞いた。
「……やっぱりこれだ」
「何が」と細田。
「エンジンの音。これを聞くと、世界の運命とか契約とか全部どうでもよくなる」
「走り屋療法か」
「療法じゃない。生活だ」
セリカが、キャンパスの駐車場を出た。
朱音がメモ帳に書いた。
「暁ノ魔装少女事件:準が変身スーツを着せられた。狭霧の術式でスーツが消えたがパンツも一緒に消えた。加賀がルヴィアを"改良パッチ"と称して追い返した。走り屋は量産型魔法少女作品より現実的だった——記録しておく」




