誰だ大学を共産主義にしたのは
朝。埼玉中央総合大学。
正門に、横断幕が貼られていた。
「プロレタリアートよ、立ち上がれ!!」
「教員も労働者! 学生も労働者! 資本家=学食のおばちゃん!!」
加賀が立ち止まった。
「……おい、なんだこれ」
「学生証の提示が"同志証"になってるんだが」と雅紀。
「廊下でインターナショナルが流れてる」と準。
「共産主義ごっこが始まってる」と細田。
全員が顔を見合わせた。
「……誰だ」と加賀。
「俺たちじゃない」と全員(即答)。
「即答しすぎだ。信用されない」と朱音(通りすがり)。
「でも本当に違う」
「本当に違うときほど疑われる。この大学においては」
「……それは正しい」と加賀。
舞花が来た。
「またお前らでしょ」
「違う。今回はマジで無関係だ」と加賀。
「"また"と言った時点で信用度ゼロよ」と朱音。
「今回だけは本当に違う」
「今回だけは、という限定が逆に怪しい」
「……証明する方法がない」
「ない。この大学でお前らが無実を証明する手段は存在しない」
「理不尽だ」
「事実だ」
マイケルが前に出た。
「Wait、俺たち資本主義大好きデスYO。JDMイズフリーダム。セリカも、レガシィも、資本主義があるから存在できるんデス」
「お前が言うと胡散臭い」と舞花。
「なぜデスカ」
「TEMUで部品を買って車を爆発させた人間が資本主義の恩恵を語るな」
「……それは別の話デス」
「同じ話だ」
加賀が言った。
「JDMはフリーダムだ。資本主義があるからセリカが走れる。エンジンも、タイヤも、ガソリンも、全部資本主義の産物だ。俺は共産主義に賛成しない」
「珍しくはっきり言ったな」と雅紀。
「はっきり言わないといけない場面だ」
「加賀の発言、記録した」と朱音。
「記録しなくていい」
「した」
学長室前。
学長がマイクを持っていた。
「よって本学は"埼玉中央人民大学"に改称する」
「おおおおお、同志ーッ」と学生たち。
大宮先生が手を挙げた。
「あの、授業料無料というのは——でも研究費は——」
「そんなものは人民が分配します」と学生A。
「分配するとしても、誰が管理するんですか」と学生B。
「委員会が」と学生C。
「委員会は誰が選ぶんですか」
「委員会が」
「委員会が委員会を選ぶんですか」
「委員会が」
「それは永遠に終わりませんが」
「委員会が」
「……」
大宮先生が黙った。
「……文学的には、これは"不条理劇"の構造だ」
「同志!!!!」
「同志じゃないですが、面白い実験ではあります」
「先生が容認してる!!!!」と加賀(廊下から)。
「容認してないが観察してる」と大宮先生。
「同じだろ」
「文学的観点から言えば——」
「先生、授業してください」
「授業より革命だ!!!!」
「「「「「してください」」」」」
鉄研が理論武装した。
「鉄道は国家の血脈である。ゆえに社会主義に最も適している」と高坂。
「電車は皆で乗る。すなわち共同体の象徴だ」と佐野。
「俺たち、革命鉄道員になるわ」と三輪。
加賀が鉄研の前に立った。
「お前ら、それで満足か」
「満足してます」と高坂。
「革命鉄道員になって何をするんだ」
「鉄道の国有化を推進します」
「鉄道はもう国有化されてない」
「ならば再国有化を——」
「JR東日本は民間企業だ。お前らが動いても変わらない」
「でも理念として——」
「理念で電車は走らない。ガソリンで走るものもある」
「電車は電気で走ります」
「それも資本主義のインフラだ」
高坂が黙った。
「……反論できません」
「満足したか」
「……満足してます」
「満足するな」
佐野がカメラを構えた。
「この歴史的瞬間を撮影して——」
「撮るな」と加賀。
佐野が帰った。
三輪が小声で言った。
「……やっぱりS・H・Bに移籍したい」
「まだ言ってるのか」と高坂。
「言い続けます」
「黙れ三輪」
「言い続けます」
「……黙れ三輪」
「言い続けます」
軽音サークルが革命歌に転向した。
「次のライブ、題名は"赤きメロディ〜同志よ鳴らせベースを〜"」と麻衣。
「歌詞が全部"打倒ブルジョワ"なんですが」と奈々。
「音圧で体制ぶっ壊すノリ好き」と阿部。
「このギターが革命を奏でる……」と澪(厨二)。
「澪、それは別の意味で厨二だ」と奈々。
「いつもと変わらない」
「いつもと変わらない」
「……それもそうだ」
「犯人を特定した」と朱音。
「誰だ」と舞花。
「近藤駿佑のバイクに"共産党宣言"が貼ってあった」
「二輪会か」
「二輪会だ」
近藤が呼ばれた。
「違う違う違う。ネタで貼っただけだ」
「ネタが本物の革命になったぞ」と加賀。
「知らない間に広がってた」と小林。
「"バイクは人民の足"とか言って遊んでただけだよ」と松本。
「でも"資本主義が俺のガソリン代を苦しめてる"って話が——」
「どうなった」と加賀。
「いつの間にか革命になってた」
「ガソリン代の愚痴から革命になるのか」と雅紀。
「……なった」
「論理の飛躍がすごい」と朱音。
「俺も気づいたら革命側にいた」と近藤。
「ガソリン代が高いのは俺も困る」と加賀。
「同志!!!!!!」
「違う。でもガソリン代が高いのは困る。それだけだ」
「加賀も資本主義に苦しめられてる!!!!!!」
「苦しめられてない。でもガソリン代は高い。それだけだ」
「それだけでも革命の理由になる!!!!!!」
「ならない」
「なる!!!!!!!!!!!」
「ならない」
加賀が歩き始めた。
「……セリカのガソリン、補充してくる」
「今それか!!!!!!!!!!」
「今それだ」
夕方。E塔前。
横断幕が撤去されていた。
「元に戻ったな」と加賀。
「まあね」と舞花。「次に大学を宗教国家にしたやつが出たら全員停学にする」
「宗教国家」
準が視線を逸らした。
「……その候補に俺が入ってるな」
「入ってる」と朱音。
「なんで」
「狐と猫又と妖狐を連れてるから」
廊下の奥に、狭霧・朔夜・瑞羽が正座していた。
「……なぜ正座してるんだ」と加賀。
「瑞羽が来たので座らせた」と舞花。
「妾は何もしておらんぞ」と瑞羽(正座しながら)。
「でも正座してる」
「……それはまあ、一尾が座れと言ったので」
「座れと言ったのか」と加賀(狭霧に)。
「……言った」と狭霧。
「なんで」
「……瑞羽が来ると騒がしいから、まず座らせると静かになる」
「……なるほど」
瑞羽が少し不満そうだった。
「妾を扱う方法を心得ておるのう、一尾よ」
「数百年の付き合いだ」
「……それはそうじゃな」
朱音が全員を見た。
「……次の異変、絶対お前らだよね」
「違う」と全員(正座組含む)。
「全員で否定するのが一番怪しい」
「だって本当に違うんです」と準。
「本当に違うときほど——」
「疑われる。わかってる」
朱音がメモ帳に書いた。
「共産主義騒動:犯人は近藤。ガソリン代の愚痴から発生。加賀:"JDMはフリーダム、資本主義があるからセリカが走れる"と発言——走り屋として明確な立場を示した——記録しておく」
「瑞羽:狭霧に正座させられた。"座れと言ったから座った"と言っていた。狭霧が瑞羽を制御できる数少ない方法——記録しておく」




