平穏を壊すのは突然のBL(本人たちは嫌がっている)
朝。E塔裏。
「昨日、何も起きなかったな」と加賀。
「逆に怖い。何か来るぞ」と雅紀。
「俺は平和が続けばそれで——」と準。
ドン。
「おおっ、すまんYO、ぶつかったデース」とマイケル。
準が転倒した。
マイケルが抱きかかえる形になった。
1秒間、静寂があった。
「……なにこのBL導入」と葵人。
「作者」と加賀(低い声で)。
「やめろ。俺はケモナーだ。人間は守備範囲外だ」と準。
「誤解デース。純粋な事故デース」とマイケル。
周囲の女子学生がざわついた。
「……今の、抱き合ってなかった?」
「準くん、顔赤くない?」
「外国人×文学部男子……ありかも」
「待て」と準。
「待て待て」
「待ってくれ」
立ち上がった。
「俺はケモナーだ。人間には興味がない。これは事故だ。以上」
「でも顔が赤いよ」と葵人。
「転んだからだ」
「転んだだけで赤くなるか?」
「なる」
「本当に?」
「なる」
数時間後。大学の掲示板アプリ。
【速報】S・H・Bに新カップル誕生【国際的】
スレ主:軽音部の誰か
「ネットにまで広がってるぞ」と葵人。
「"マイケル×準(攻守逆転議論あり)"ってタグついてるんだけど」と雅紀。
「誰が受けだ」と準。
「俺の出番はどこいった」と加賀(関係ない発言)。
「今それじゃない」
「俺が主人公のはずだが、こういう回に限って出番が少ない」
「今それじゃないだろ」
舞花が来た。
「またあんたたち、大学の評判落としてるわよ」
「事故です」と準。
「事故でも結果が全てだ」
朱音が来た。
「"ホモ騒動"がトレンド入りしてるけど、これ処理案件?」
「処理してくれ」と準。
「マイケルが転んだ経緯を説明できるか?」
「できる。廊下で走ってぶつかった」
「その結果が抱き合う形になった理由は?」
「……反射的に支えようとした」
「支えた側がマイケルで、支えられた側が準だったということで合ってるか?」
「合ってる」
朱音がメモ帳に書いた。
「……事故だったと記録する。ただし傍目には判断が難しい構図だったことも記録する」
「後半を書くな」と準。
「記録者は事実を書く」
「事実として判断が難しい構図だったと書かれたくない」
「書いた」
「消せ」
「消さない」
鉄研の高坂が来た。
「我々も"友情の形"を研究しようではないか」
「来るな」と葵人。
「なぜだ。友情は学術的対象として——」
「来るな」
「……」
高坂が離れた場所から見ていた。
「お前まだいるじゃないか」と葵人。
佐野がカメラを構えていた。
「いいシャッターチャンスで——」
「撮るな」と加賀(一言)。
佐野が帰った。
軽音の阿部が来た。
「腐の血が騒ぐ」
「騒がせるな」と舞花。
「でも需要があるんですよこういうの」
「需要があっても供給するな」
「えー」
上村澪が来た。
「愛と憎しみは紙一重……」
「厨二ポエムを言うな」と葵人。
「でも真理だよ?」
「真理でも今じゃない」
狭霧と朔夜が来た。
狭霧が状況を見た。
「……鈴木殿、これは一体何だ」
「違うんだ。俺はお前たちケモ組しか見ていない」と準。
「……我は知っておる。しかし——」
「しかし?」
「……その顔の赤さは、事故だけで説明がつくか?」
「つく」
「……そうか」
狭霧が尾を一度揺らした。
朔夜がおっとりした顔で言った。
「……でも"抱き合ってた"って、みんな言ってたにゃ」
「事故だ」
「……ぼく、准にゃんの顔が赤かったのは見たにゃ」
「転んだからだ」
「……転んだだけで赤くなるにゃ?」
「なる」
「……本当にゃ?」
「なる」
「……そうにゃ」
朔夜が少し間を置いた。
「……ぼく、人間の感情はよくわからないにゃ」
「わからなくていい」
「……でも——準にゃんの顔が赤いのは——悪い気がしないにゃ」
「なんで」
「……わからないにゃ。でも悪い気がしないにゃ」
そこへ、窓から金の髪が覗いた。
瑞羽だった。
「のう、何やら騒がしいのう」と瑞羽。
「来るな」と狭霧。
「もう来ておるぞ。して——準とやら、貴様まさか人間の雄が好みなのか?」
「違う」と準。
「顔が赤いではないか」
「事故で転んだからだ」
「ほほ、事故で顔が赤くなるとは、人間は繊細なのう」
「お前にも言われたくない」
「妾は事実を言っておるだけぞ」
狭霧が瑞羽を見た。
「……瑞羽、余計なことを言うな」
「何が余計じゃ。一尾よ、貴様、まさかこの人間に焼き餅でも——」
「焼いていない」
「顔が少し赤いのう」
「……赤くない」
「赤いぞ」
「……うるさい」
「一尾が人間に焼き餅とは、なかなか面白いのう」
「焼いていないと言っている」
「でも顔が——」
「うるさい」
朱音がメモ帳に書いた。
「本日の顔が赤かった人:準、狭霧——記録しておく。瑞羽の指摘により判明」
「記録するな」と準と狭霧(同時)。
「した」
「消せ」
「消さない」
「処理方法を提案する」と朱音。
「聞く」と舞花。
「マイケルと準に、今夜走らせる。恋愛じゃなく走り屋としての絆を証明させる」
「その方法で証明になるか?」と雅紀。
「走り屋がエンジン音で語るのがこのサークルの流儀だ。ネットの憶測より実際の走行の方が説得力がある」
マイケルが前に出た。
「OKデス。埼玉に友情の火花、散らせるYO」
準が立ち上がった。
「この恥さらしを終わらせる」
その夜。
峠に、二台のエンジン音が響いた。
レガシィのEJ20ターボと、ノートのHR16DEが並んで走った。
ドゥォォン。ヴィィン。
二種類の音が、夜の山道に混ざり合った。
「……BLでも走り屋は走り屋だな」とマイケル(無線)。
「BLじゃない」と準(無線)。
「でも今夜の走りは熱いYO」
「それは認める」
「友情だYO」
「……友情だ」
二台が、夜の峠を並んで走った。
翌朝。校内放送。
「昨夜、峠で"友情走行"をした二人組の男性が目撃され——」
「もうやめてくれ」と準。
「やっぱり平和は長続きしないな」と加賀。
「この大学、本当に地獄だな」と雅紀。
「でも走れただろ」と加賀。
「走れた」と準。
「それでいい」
瑞羽が窓から言った。
「のう一尾よ、貴様の人間への感情、妾にはよく見えるぞ」
「……帰れ」と狭霧。
「嫌じゃ」
「帰れ」
「嫌じゃ」
朱音がメモ帳に書いた。
「平和は1日で終わった。原因:マイケルと準の接触事故。余波:狭霧の顔が赤くなった。瑞羽がそれを指摘した。加賀は走ることで全部解決しようとした——記録しておく」




