S・H・B総会。テーマ:主人公を誰にするか
サークル棟302号室。
黒板に、デカデカと書かれていた。
「議題:主人公を誰にするか」
「……なんでこんな会議が開かれてるんだ」と加賀。
「俺の出番、明らかにおかしい。舞花姉ばっか活躍してる」と雅紀。
「アニメ化したら俺の声優は杉田智和がいい」と葵人。
「Wait、アニメ化はまだ早いYO。でも海外配信版では俺が主役だよね?」とマイケル。
「「「「「なんで海外仕様前提なんだ」」」」」
加賀が黒板を見た。
「本来は俺が主人公だったはずだが」
「でも非公式視聴者投票では準が人気一位らしいぞ」と雅紀。
「それ絶対ケモナー票だろ」
「ケモナー票でも票は票だ」
「……わかった。俺が主人公をやる。異世界帰り・走り屋・理性の化身、この三本立てで」
「条件を詰め込みすぎだ」と雅紀。
ドアが開いた。
準が入ってきた。
「遅れてすまん」
その後ろから、狭霧と朔夜がぞろぞろ入ってきた。
「……皆々、息災か」と狭霧。
「にゃー」と朔夜。
「(圧がすごい)」と加賀。
「(もう"異種族日常編"じゃないか)」と雅紀。
「このビジュアルで走り屋要素ゼロなの、逆にすごいな」と葵人。
「"埼玉異種族大学物語"にタイトル変えようYO」とマイケル。
準が席に着いた。
「会議を始めよう。主人公は俺でいい気がするんだが——」
「ケモナー票のことは忘れろ」と加賀。
「忘れない」
「忘れろ」
「忘れない」
「ぼくは準にゃんが主役でいいと思うにゃ」と朔夜。
「お前が言うと余計ケモナー票っぽい」と雅紀。
狭霧が静かに言った。
「……この場の凡俗ら、今更何を争うか。物語の主とは、走り続ける者が自然と担うものぞ」
「かっこいいけど具体性がない」と加賀。
「そなたのことぞ」
「それは認める」
その瞬間。
窓が開いた。
風が吹き込んだ。
甘い匂いがした。
狐の匂いだった。
でも狭霧の匂いとは少し違った。
「……誰だ」と加賀。
縁側に、人影が現れた。
金の髪が、風にさらさら揺れていた。
赤紫の目が、室内を見回した。
薄桃色の振袖に、金糸の刺繍。
三本の尾が、優雅に広がっていた。
「のう」
その声は、のんびりとして、しかし上から目線だった。
「妾が来たというのに、誰も驚かぬのか。つまらんのう」
狭霧が立ち上がった。
「……瑞羽」
「おや、一尾よ。久しぶりじゃのう」
「……また来たか」
「また、とは失礼じゃのう。妾は用があって来たのじゃ」
「用とは何だ」
瑞羽が室内を見渡した。
全員を見た。
「……貴様ら、なんかおもしろいことをしておるのう。"主人公"の座を争うておる?」
「見てたのか」と葵人。
「少しな。して——この一尾が主役を張っておるのか」
「我は主役などと言っておらん」と狭霧。
「でも貴様、ここに居座っておるじゃろ。一尾の分際で随分と偉そうじゃのう」
狭霧の目が細くなった。
「……一尾と言うな」
「事実じゃろ。妾は三尾じゃ。格が違う」
「格は尾の数では決まらない」
「ほう、強がりを言うのう。一尾は一尾じゃ。それ以上でも以下でもない」
加賀が瑞羽を見た。
「……お前は誰だ」
瑞羽が加賀を見た。
「貴様が聞くか。まあよい——妾は瑞羽。三尾の妖狐じゃ。この一尾の知り合いというか、昔馴染みというか——まあ、妾の方が格上の関係ぞ」
「格上かどうかは当人が決めることじゃない」と狭霧。
「格は客観的事実じゃ。尾の数を数えれば明白じゃろ」
「尾の数と格は別の話だ」
「同じじゃ」
「別だ」
「同じじゃ」
「別だと言っている」
瑞羽が狭霧の尾を見た。
一本だった。
「……ほれ、一本じゃろ。妾は三本じゃ。どちらが格上か、子供でもわかるのう」
狭霧が少し間を置いた。
「……まあ、よい」
「認めるのか?」
「認めない。ただ——尾の数の話をしても意味がない、と言っている」
「なぜじゃ」
「……それより、今日は何の用で来た」
瑞羽が少し不満そうな顔をした。
「話をすり替えるでない」
「すり替えていない。用件を聞いている」
「……用件は」瑞羽が扇をひらひら動かした。「貴様の様子を見に来ただけじゃ。一尾が人間どもと何をしておるか、気になったのでな」
「監視しに来たのか」
「見物じゃ」
「同じだ」
朱音がメモ帳に書いていた。
準が瑞羽を見ていた。
「……あの、瑞羽さん?」
「なんじゃ、人間」
「狐ですか?」
「妖狐じゃ。三尾の。この一尾より格が——」
「準、この者に関わるな」と狭霧。
「なんで」
「ろくなことにならない」
「酷い言われようじゃのう、一尾よ」と瑞羽。
「事実だ」
「妾はいつだって正直じゃ」
「正直と傲慢は違う」
「同じじゃ」
「違う」
「同じじゃ」
加賀が額に手を当てた。
「……この二人、話が終わらないな」
「ずっとこうじゃ」と朔夜(おっとりした顔で)。
「知ってるのか」
「……昔からにゃ」
二輪車同好会が乱入してきた。
バン、とドアが開いた。
「お前ら、主人公の座を俺らに譲れや」と颯馬。
「四輪は甘えだ。風を感じろ」と近藤。
小林が遅れて入ってきた。
「ZZ-Rがまた——」
「またか」と葵人。
瑞羽が二輪会を見た。
「……なんじゃ、また人間が増えた。賑やかなことじゃのう」
「お前も増えた一人だろ」と加賀。
「妾は格が違う」
「格の話をするな」
「するぞ」
「するな」
舞花と朱音と凛が、部屋の後ろから見ていた。
「……また治安が終わった」と舞花。
「金髪三尾の妖狐が新登場しました」と朱音(メモ取りながら)。
「……爆破」と凛。
「それが最終手段だと何度言えば」と舞花。
瑞羽が凛を見た。
「おや、あの人間——目つきが鋭いのう」
「……うるさい」と凛。
「ほほ、気に入ったのう」
「……きえろ」
「灰島構文が炸裂しました」と朱音(記録)。
混乱の中、大宮先生が入ってきた。
「諸君、文学的に見て——これは群像劇の極地だ!! 主人公が乱立する構造、これぞ現代の枕草子!!」
「先生、授業してください」と全員。
「授業より現場だ!!」
瑞羽が大宮先生を見た。
「……面白い人間じゃのう」
「先生、あの妖狐に話しかけないでください」と準。
「なぜかね鈴木くん!! 妖狐との対話、これ以上の文学的体験があるか!!」
「あります。日常の全部が文学的体験です」
「素晴らしい!! 君も詩人だ!!」
加賀がため息をついた。
「……主人公会議の結論は」
「出ない」と全員。
「そうだな」
「でもこういう混乱の中心にいる人間が主人公じゃないのか」と雅紀。
「それが俺だ」と加賀。
「なんで」
「走り続けてるから」
狭霧がその言葉を聞いた。
「……うむ。加賀の言う通りぞ」
瑞羽が狭霧を見た。
「……一尾が珍しく正しいことを言うのう」
「珍しくとはなんだ」
「いつもは的外れなことを言うておるじゃろ」
「言っていない」
「言っておる」
「言っていない」
「言っておる」
加賀がセリカのキーを取り出した。
「……走ってくる」
「逃げるのか」と雅紀。
「現実から逃げない。混乱から距離を置くだけだ」
「同じじゃないか」
「違う」
加賀が出て行った。
セリカのエンジン音が、窓の外から聞こえてきた。
ヴォォォン。
瑞羽がその音を聞いた。
「……なんじゃ、あの音は」
「セリカのエンジン音だ」と準。
「鉄の塊が鳴くのか」
「鳴く」
「……ほう」
瑞羽が窓の外を見た。
赤いセリカが、駐車場を出て行くところだった。
「……面白いのう」
「何が」
「あの人間——妾の話に全然興味を持たなかった」
「加賀はそういうやつだ」と準。
「妾に興味を持たない人間は珍しい」
「ここには多い」と朱音(メモ帳から顔を上げずに)。
瑞羽が少し黙った。
尾が、ゆっくり揺れた。
「……また来るかもしれんのう」
「来るな」と狭霧。
「来るぞ」
「来るな」
「来る」
朱音がメモ帳に書いた。
「瑞羽:三尾の妖狐、本日初登場。目的は狭霧の邪魔。一尾であることを繰り返し指摘するが狭霧に全部受け流される。準には興味なし。加賀に興味を持った(エンジン音を聞いたため)——要観察」
「狭霧の一尾問題:瑞羽が繰り返し指摘するが狭霧は動じない。なぜ動じないのか——理由は不明。記録しておく」
ナレーション(大宮先生)。
「こうして"誰が主人公か"という会議は、もはや"誰が一番カオスか"を競う選手権となったのであった。そして——新たな混乱の種が、三本の尾を携えてやってきた。次回も、理性の走行ラインは見えない」
次回予告。
「主人公、ついに6人に分裂する」
加賀「理性担当」
準「ケモナー担当」
雅紀「ギャグ担当」
葵人「オタク担当」
マイケル「外交担当」
狭霧「メインヒロイン(自称)」
「……誰か、ちゃんと車を運転しろ」と舞花。
「瑞羽の担当は何ですか」と朱音。
「……邪魔担当じゃ」と瑞羽(窓の外から)。
「まだいたのか」と全員。




