加賀、陰謀論にハマる。〜E塔の地下にはNASAがいる!?〜
深夜。S・H・B部室。
モニターの前に加賀が座っていた。
ホワイトボードに、謎の図が書かれていた。
E塔 地下2階
↓
大学図面に存在しない
↓
夜間:電力消費あり(計測済み)
↓
ブースト音(?)
↓
結論:NASA埼玉支部
「……なぁ」
加賀が振り返った。
「おかしいと思わないか」
「また始まった」と雅紀。ポテチを食べながら。
「E塔の構造だ。地下2階が、大学の図面に存在しない」
「……は?」と葵人。
「存在しないはずなのに、夜になると電力が流れてる。俺、先週から計測してた」
加賀がデータを出した。
手書きのグラフだった。
「午後11時から午前3時の間、E塔の電力消費が通常の1.4倍になる。サーバールームの消費量と合わない。何かがある」
全員が黙った。
「……NASAの埼玉支部が隠れてるんだ」
「いやそれサーバールームじゃね?」と雅紀。
「違う。あそこから夜な夜な"ブースト音"が聞こえる」
「ブースト音?」
「ターボの過給音に似た低周波音だ。俺の耳は狂ってない」
マイケルが前に出た。
「NASAがターボ開発してるヨ!? ワンダホー!!」
「お前は黙ってろ」
「準のノートのアイドリング音じゃない?」と準。
「黙れ準。お前はもうこの陰謀の一部だ」
「なんで俺が陰謀の一部なんだ!!」
翌日。呉自動車。
「……NASA? 埼玉に?」と呉。
「E塔の地下で"重力制御VTEC"の実験をしている」
呉が真顔で言った。
「……それホンダじゃねぇ?」
「ホンダとNASAは繋がってる。VTECの可変バルブタイミング機構——あの精度は地球の技術じゃない」
「あれは本田宗一郎の執念だよ」と葵人。
「その執念を宇宙人が後押ししたんだ」
「誰も後押ししてない!!!!」
葵人が少し考えた。
「……でも、E塔の地下に存在しない階があるのは本当か?」
「本当だ。図面と実測が合わない」
「じゃあ——」
「乗るな!!!!」と雅紀。
「でも気になるな」と葵人。
「お前まで陰謀論に染まるな!!!!」
朱音が棒付き飴を口から外した。
「……全員頭おかしいだろ」
夜。E塔前。
「本当に行くの?」と舞花。
「ああ。真実を確かめる」と加賀。
「潜入BGM持ってきたヨ!!」とマイケル。
スマホから「地上の星」が流れ始めた。
「雰囲気が出るヨ!!」
「雰囲気がいらない!!!!」と雅紀。
「NASAのロゴ見つけたらサインもらうヨ!!」
「観光客か!!!!」と葵人。
「前に地下入ったやつ全員次の話で消えてたぞ」と雅紀。
「それが証拠だ」と加賀。
「証拠じゃない!! 単純に出番がなかっただけだ!!!!」
E塔地下通路。
非常灯だけが点いていた。
赤い光が、コンクリートの壁を染めていた。
「……電力、流れてる」
加賀が壁の配電盤を確認した。
「通常の系統じゃない配線が来てる。どこから引いてるんだ」
「本当にある……」と葵人(小声)。
「E-02ドア」
暗い廊下の奥に、重いドアがあった。
「EXPERIMENTAL ROOM」と書かれていた。
「NASAだ。間違いない」
「英語読めるんだな」と葵人。
「当たり前だろ」
加賀がドアを開けた。
中に、人がいた。
「……またおぬしたちか」
狭霧だった。
白い和装。一本の尾。
部屋の中央に、古い石の台座があった。
何かを観測するような、不思議な装置——いや、装置ではなく。
石に刻まれた、古い文字だった。
「……ここは何だ」と加賀。
「地脈観測室じゃ」と狭霧。
「NASAじゃないのか」
「NASA? 知らん」
加賀が部屋を見回した。
電力が流れていた。
でもそれは配線からではなく——石の台座から、微かな光が漏れていた。
「……地脈、とは何だ」
狭霧が静かに答えた。
「この土地の下を流れる、龍脈じゃ。水脈が地を潤すように——走り屋の怨念が、この地を走っておる」
「走り屋の怨念」
「そうじゃ。速さを求めた者たちの残留思念が、地の下に積み重なっておる。埼玉はその密度が特に高い」
全員が黙った。
「……だから俺たちは走りたいのか」
「お前たちが速さに執着するのも、地脈の影響があるやもしれぬ」
加賀が台座を見た。
石の光が、微かに脈打っていた。
「……NASAじゃなかった」
「NASAなど知らん」
「重力制御VTECもなかった」
「VTECも知らん」
マイケルが叫んだ。
「夢がァァァ!!!!!!」
「うるさい」と狭霧。
「でも——」と加賀。
全員が加賀を見た。
「走り屋の怨念が地脈に流れてるなら——俺たちが走ることは、その流れを繋ぐことでもある」
狭霧が少し間を置いた。
「……なかなか詩的な解釈じゃ」
「陰謀論じゃなくて走り屋の話になった」と準。
「最初から走り屋の話だ」と加賀。
「NASAを探しに来たのに!!!!」とマイケル。
「諦めろ」
翌朝。キャンパス前。
「結局、何もなかったな」と雅紀。
「何も"なかった"ことが陰謀の証拠だ」と加賀。
「やっぱ治らねぇわ」と葵人。
「"加賀の陰謀編"でスピンオフ作れ」と朱音。
「売れそうでムカつく」と舞花。
加賀がセリカのキーを出した。
「……とにかく、地脈に走り屋の怨念が流れてるなら」
「流れてるとして?」と雅紀。
「俺たちが走るたびに、その怨念に新しいものが加わる」
「……それ、いいことなのか悪いことなのか」
加賀がエンジンをかけた。
ヴォォォン。
2ZZ-GEが、朝の空気の中で静かに唸った。
「どっちでもいい。走るから走る。それだけだ」
セリカが、キャンパスの駐車場を出て行った。
朱音がメモ帳に書いた。
「加賀:陰謀論を展開したが、結論は"走るから走る"だった。一周回って走り屋の話になった——これが正常」
「E塔地下:地脈観測室が存在した。走り屋の怨念が地下に流れているらしい。NASAはいなかった」
「マイケル:夢が砕けた。しかし翌日には復活している——記録しておく」




