最近出番が少ないヨ!一ノ宮雅紀とマイケルが大暴走
早朝。E塔の屋上。
朝焼けが、埼玉の空を赤く染めていた。
雅紀が屋上の縁に座って、空を見ていた。
「……最近、俺の出番が少ねぇ」
風が吹いた。
枯れ葉が屋上を転がった。
背後から足音がした。
「ワッツアップ、マイ・ブラザー」
マイケルが立っていた。缶コーヒーを二本持っていた。
「お前のセリフ、まるで前シリーズ最終回前のモブ主人公みたいヨ」
「だよな。なんか最近、準とか狐とか猫又とかばっかじゃん」
「ワタシも全然出てないヨ。走りたいヨ。燃えたいヨ」
「……やるか」
「オーケイ。暴走開始ヨ」
何の許可も取っていなかった。
キャンパス前。
黒いRX-8と、紺のレガシィGT-Bが並んだ。
「今日のテーマ:"存在感の奪還"ヨ」とマイケル。
「そのためにまずやることは」と雅紀。
「エンジンをかけるヨ」
バァァァン!!
レガシィのEJ20ターボが目覚めた。
隣でRX-8の13Bロータリーが、独特の高音で応えた。
キュィィィン!!
二台のエンジン音が、朝のキャンパスを震わせた。
E塔の窓が揺れた。
警備員が遠くで泣いていた。
朱音が窓から顔を出して言った。
「……またアホどもが」
「放っとこ」と舞花。「どうせあとで爆発する」
暴走企画その一——YouTube撮影会。
「走り屋魂を見せるんだ! 再生数10万行くぞ!」
「タイトルは"埼玉某所最速伝説"ヨ!」
「それ免許停止コースだろ!!」と葵人(通りすがり)。
「芸術に法律は関係ないヨ!」
「大いに関係ある!!」
マイケルがアクセルを踏んだ。
レガシィのEJ20が吠えた。
タービンの過給音が混ざる、独特のブースト音。
「ドリフト・イズ・アート!!!」
レガシィが、駐車場で横を向いた。
AWDのはずだが、リアが流れた。
「AWDでドリフトすんなっつってんだろ!!!」
「これはカウンターカルチャーヨ!!!」
「カルチャーじゃない、ただの物損事故だ!!!」
暴走企画その二——学内サーキットGP。
「スタート地点:食堂前。ゴール:E塔裏!!」
「もうバカを通り越して警察沙汰だぞ」と葵人。
「Ready…Go!!」
バァァァァァァン!!
3分後。
大宮先生が、職員通路から顔を出した。
「……君たち、職員会議に呼ばれてるから」
マイケルが固まった。
「Oh……マイ・ガッ……」
「"出番が少ない"どころの問題じゃねぇ!!!」と雅紀。
暴走企画その三——呉自動車への直訴。
二台で乗り込んだ。
「呉さん!! 俺たちに走る場所をください!!」
呉がメガネを外して、こめかみを押さえた。
「……お前ら、朝から何をやってたんだ」
「存在感の奪還ヨ!!」
「キャンパスで全開走行した」
呉が全員を見た。
「……職員会議で呼ばれたんだろ」
「なんで知ってるんですか」
「警備員から連絡が来た」
「早い!!!!」
呉が缶コーヒーを一口飲んで言った。
「……お前ら、走りたいなら正式な場所で走れ。来週、呉自動車の知り合いが筑波でフリー走行会をやる。そこに来い」
雅紀が目を見開いた。
「筑波——サーキットですか」
「そうだ。お前らのRX-8とレガシィ、ちゃんと走れるか確認したい。最近走れてないだろ」
雅紀とマイケルが顔を見合わせた。
「……行くヨ」
「行く」
「よし」と呉。「それまでキャンパスで走るな。次やったら謹慎中に車の鍵を預かる」
「ソレダケハ!!!!」
夜。川越街道。
二台が並んでいた。
黒いRX-8と、紺のレガシィ。
信号待ち。
雅紀がステアリングを握ったまま言った。
「……やっぱこうやって走ってると落ち着くな」
「そうヨ。音と振動、そして"エセ走り屋"の誇りヨ」
「エセじゃなくて本物だろ」
「ホンモノとエセの差は、走った距離だけヨ」
雅紀が少し間を置いた。
信号が青になった。
二台が同時に動き出した。
RX-8の13Bが、夜の川越街道に高音を刻んだ。
キュィィィン!!
レガシィのEJ20が、ターボの唸りを重ねた。
ドゥォォォン!!
街灯が流れていく。
二種類のエンジン音が、夜の道路に混ざり合った。
雅紀の目が、前方だけを見ていた。
(これでいい。)
(俺たちはここにいる。)
(走っているから、ここにいる。)
4速、5速。
二台が、夜の川越街道を並んで走った。
翌朝。
「ニュース見たか。"川越街道で謎の二台暴走、音速の埼玉人"だってよ」と葵人。
「もうやだこの大学」と朱音。
「でもまぁ——主役戻ってきたってことで、いいんじゃない」と舞花。
「……きえろ」と凛。
加賀がセリカのキーを回しながら言った。
「来週、筑波だ。ちゃんと走れ」
「おう!!」と雅紀。
「オーケイヨ!!」とマイケル。
「謹慎中だけどな」と呉(通りすがり)。
「「「「あ」」」」
朱音がメモ帳に書いた。
「雅紀とマイケル:存在感奪還を試みた。キャンパス走行→職員会議→呉に叱られる→筑波走行会の約束——一周回ってまともな結末になった。走り屋の話、継続中」
エンディング後。
加賀のナレーション。
「こうして雅紀とマイケルは、再び走り屋として前を向いた。謹慎は2週間。でも次回には普通に復帰している。なぜなら——この物語に常識は存在しない」
「存在させろ!!!!」と雅紀。
「ナレーションに突っ込むな」と加賀。




