準、ショタコンになるかも。〜猫耳ショタ拾ったら、人生変わった件について〜
「代車、貸さないから」
呉がスパナを置きながら言った。
「なんでですか」と準。
「前回、俺のスイフトで夜の峠走ったろ。タイヤ4本丸坊主だ」
「あれは挙動確認で——」
「黙れ。歩いて帰れ」
準がノートNISMOを見た。
違法改造による整備命令による車検中で、ここ3日間は乗れない。
「……歩くしかないか」
「そうだ」
「呉さん、自転車は——」
「貸さない」
「なんでですか」
「お前に貸したら峠で試したくなるから」
「自転車で峠は——」
「お前ならやる」
「……やるかもしれない」
「歩け」
準が肩を落として、夜道を歩き始めた。
秋の夜。
街灯が等間隔に並んでいた。
風が吹くと、枯れ葉が舗道を転がった。
(車がないと、こんなに遠いのか。)
(狭霧の神社まで、歩いたら40分か。)
(……行くか。)
そのとき。
ゴミ捨て場の前を通り過ぎようとして——
準が止まった。
ゴミ捨て場の陰。
何かがいた。
小さかった。
軍帽が、街灯の光に反射していた。
将校マント。
軍服。
その上に——猫耳。
「……さ、むい……にゃ……」
小さな声だった。
準が近づいた。
「……お前、猫……? 人……? どっちだ」
少年が顔を上げた。
白い髪。猫耳。尻尾。
そして——マントの下に、長い何かが見えた。
銃床だった。
(……銃?)
(いや、エアガンか?)
(でも——あのサイズと重量感は——)
少年が言った。
「……ぼく、朔夜にゃ」
「朔夜……」
「……ごみじゃ、ないにゃ」
「拾うとは言ってない」
「……でも、拾うにゃ」
準が止まった。
「なんでわかるんだ」
朔夜が準を見た。
目が——笑っていなかった。
おっとりした顔で、おっとりした口調で。
でも目だけが——何かを計算していた。
「……お前、便利そうにゃ」
「え?」
「……顔が、便利な顔にゃ」
「便利な顔ってなんだ」
「……なんでも引き受けそうな顔にゃ」
準が少し間を置いた。
「……まぁ、今夜だけだ。暖かい場所に連れて行ってやる」
朔夜が立ち上がった。
マントの下から、銃床がはっきりと見えた。
「……それ、何だ」
「……えあがんにゃ」
「エアガンにしては——」
「……えあがんにゃ」
朔夜が繰り返した。
表情は変わらなかった。
準は何も言えなかった。
翌朝。E塔裏の部室。
準が朔夜を連れてドアを開けた。
加賀がコーヒーを飲みながら固まった。
「…………え」
「おはようにゃ」と朔夜。
「(震える)……猫耳……」と雅紀。
「幻覚か?俺、疲れてる?」と細田。
「毛がちゃんと動いてる。リアルだ」と葵人。
舞花がため息をついた。
「……また面倒なもん拾ってきた」
朔夜が部室を見渡した。
無表情だった。
「……ここが、大学にゃ?」
「そうだ」と加賀。「お前、どこから来た?」
「……遠いところにゃ」
「具体的に」
「……遠いところにゃ」
加賀が朔夜のマントを見た。
軍服の襟章が見えた。
将校クラスのそれだった。
「……その格好、どこの軍だ」
朔夜が加賀を見た。
「……知らなくていいにゃ」
「知りたい」
「……知らなくていいにゃ」
加賀が少し間を置いた。
「……わかった」
「加賀、引いたのか」と細田。
「引いてない。聞いても答えないと判断した」
朔夜がわずかに目を細めた。
「……賢いにゃ」
「褒められた?」と加賀。
「……褒めてないにゃ。観察したにゃ」
マイケルが前に出た。
「ワタシ、マイケルにゃ!! アメリカから来たにゃ!!」
「……語尾真似しないでにゃ」
「ソーリーにゃ!!」
「……やめてにゃ」
午後。
部室の外で、朔夜がマントを脱いだ。
軍服のフルセット。
肩からスリングで、ライフルが下がっていた。
加賀が目を細めた。
AK47系統のプラットフォーム。
ポリマーストック——ガラス繊維強化ポリマー製、従来の木製より約400g軽量。
M-LOKハンドガード——レイル規格、アクセサリー取り付け対応。
フォアグリップ——垂直型、左手の制御点を前方に移動させる。
QDフラッシュハイダー——クイックデタッチ機構、サプレッサーへの換装が工具なしで可能。
サプレッサー本体——30cmほどの金属筒、QDマウントで接続。
スコープ:PSO-1系——SVDドラグノフ系狙撃ライフルに使われるソビエト系光学照準器。4倍固定、BDCレティクル。AKシリーズへの搭載は換装が必要。
Tapco G2トリガー——ダブルフックトリガーをシングルフックに変更、トリガープルを約4.5lbsから約3.5lbsへ軽量化。引き心地が明確に改善される。
(これは——)
(エアガンじゃない。)
加賀が静かに言った。
「……それ、エアガンか」
「……えあがんにゃ」と朔夜。
「エアガンにTapcoのトリガーは付けないだろ」
「……えあがんにゃ」
「PSO-1系のスコープは実銃用だ。エアガンに乗せるにはマウントが——」
「……えあがんにゃ」
「QDフラッシュハイダーのネジ規格は——」
「……えあがんにゃ」
朔夜が準を見た。
「……準にゃん、この人うるさいにゃ」
「加賀は高校生の時にサバゲーやってたから妙に詳しいんだよ」と準。
「……詳しい人間は、面倒にゃ」
「お前が面倒だ」と加賀。
朔夜が加賀を見た。
3秒間、無表情で見た。
「……加賀にゃん、ちゃんと生きてるにゃ」
「当たり前だ」
「……それはわからないにゃ」
加賀が少し眉を上げた。
朱音がメモ帳に書いた。
「朔夜:AK47改造品所持。本人は"えあがん"と主張。加賀が7回確認したが全て"えあがん"で押し切られた。Tapco G2トリガー・PSO-1系スコープ・QDフラッシュハイダーはいずれも実銃用スペック。エアガンではないと思われる。記録しておく」
翌日。
E塔裏に、狭霧が来た。
部室のドアを開けた瞬間——
狭霧が止まった。
朔夜が、床に座ってライフルの清掃をしていた。
クリーニングロッドで、バレル内を丁寧に拭いていた。
おっとりした動作で。
「……」
朔夜が顔を上げた。
「……さぎりおねえちゃん」
狭霧の表情が、少し変わった。
「……朔夜。まだ生きておったか」
「……うんにゃ」
「どこにいた」
「……遠いところにゃ」
「具体的に」
「……遠いところにゃ」
準が叫んだ。
「おねえちゃん!?!? 狭霧とおねえちゃんなのか!?!?」
「……うん」と朔夜。
「!!!!!!」
「準、落ち着け」と加賀。
「落ち着けない!! 俺が拾った猫耳ショタが狭霧のおねえちゃんだった!!」
舞花が言った。
「準、今"拾った"って言ったな」
「言ってない」
「言った」
「……言ったかもしれない」
朔夜が狭霧を見た。
「……ねえちゃんも、ここにいるにゃ?」
「……時々な」
「……便利にゃ」
狭霧が少し眉を動かした。
「便利とはどういう意味だ」
「……ここに来れば、ねえちゃんにも会えるにゃ。準にゃんも便利にゃ。一石二鳥にゃ」
「……汝、昔からそういう計算が速かったな」
「……褒めてるにゃ?」
「褒めてない」
「……褒めてるにゃ」
狭霧が何も言えなかった。
朱音が棒付き飴を口から外した。
「……狭霧が言い負かされてる。初めて見た」
「……否定はせぬ」と狭霧。
夜。準の部屋。
朔夜がライフルのサプレッサーを外して、ケースに収めていた。
工具なしで外れた。QDマウントの機構が正常に動いていた。
「……お前、本当に何者だ」と準。
「……朔夜にゃ」
「それはわかってる。どこから来た」
「……遠いところにゃ」
「また同じ答えか」
「……同じ答えしかないにゃ」
準が床に座った。
「……俺のこと、便利な人間だと思ってるだろ」
朔夜が手を止めた。
「……そーだにゃ」
迷わなかった。
「隠さないんだな」
「……隠す理由がないにゃ」
「俺が傷つくかもしれないだろ」
「……傷つくにゃ?」
朔夜が準を見た。
「……なんで傷つくにゃ? 便利な人間って、いい意味にゃ」
「いい意味なのか」
「……役に立つ人間は、貴重にゃ。ぼくは役に立たない人間には近づかないにゃ」
「……つまり、俺が役に立つから近くにいるのか」
「……うんにゃ」
準が少し間を置いた。
「……正直すぎる」
「……嘘をつくのは、面倒にゃ」
「サイコパスだな」
「……サイコパスって何にゃ?」
「感情で動かない人間のことだ」
朔夜が少し考えた。
「……ぼく、感情あるにゃ」
「あるのか」
「……ある。ただ——人と、少し違うにゃ」
「どう違う」
「……人が死んでも、悲しくないにゃ。でも——」
朔夜がライフルケースを閉めた。
「……準にゃんが死んだら、不便にゃ」
「それが感情か?」
「……ぼくの感情にゃ」
準が天井を見上げた。
「……変な奴だ」
「……うんにゃ」
「でも——」
準が朔夜を見た。
「俺は、お前のこと嫌いじゃない」
朔夜が少し間を置いた。
「……知ってるにゃ」
「なんで知ってる」
「……顔に書いてあるにゃ」
「読めるのか」
「……便利な人間の顔は、読みやすいにゃ」
準が笑った。
「……お前、本当に変な奴だ」
朔夜が窓の外を見た。
「……ぼくも、準にゃんのこと——」
止まった。
「——なんでもないにゃ」
準が待った。
続かなかった。
でも——朔夜の尻尾が、わずかに揺れていた。
翌朝。
「で、あの子——どこ泊まってんだ」と加賀。
「俺の部屋に」と準。
「……それ、大丈夫か」
「何が」
「銃が部屋にある状態で泊まってるんだが」
「エアガンだから」
加賀が少し間を置いた。
「……お前もそれで通すのか」
「通す」
「……なんで」
「朔夜がそう言ってるから」
「お前、完全に手なずけられてるな」
「違う。俺が手なずけてる」
「どっちだ」
準が少し考えた。
「……わからなくなってきた」
「正直に言えた」
細田が言った。
「にしても、あの軍服——どこの国のやつだろ。ソビエト系のデザインだったが——」
「知らん方がいい気がする」と雅紀。
「なんで」
「知ったら関わることになる」
「もう関わってるだろ」
「……それもそうだな」
朔夜が部室のドアを開けた。
将校マント。軍帽。
マントの下に、ライフルのスリングが見えた。
「……おはようにゃ」
全員が「おはよう」と言った。
自然に。
舞花が缶コーヒーを飲みながら言った。
「……なんでみんな普通に受け入れてるんだろ、うちのサークル」
朱音がメモ帳に書いた。
「朔夜:準の部屋に宿泊中。AKは"えあがん"で通している。準を"便利な人間"と明言。感情はあるが人と違うと自称。尻尾が揺れた——これは記録しておく」
「付記:S・H・B全員が翌朝普通に挨拶した。狐・猫又・異世界を経た集団の適応能力、異常に高い」




