2chと炎上。〜全部本当のことだった〜
朝。講義前の学食。
雅紀がスマホを見て青ざめていた。
「……おい。誰だよスレ立てたの」
準が覗いた。
「【悲報】埼玉中央総合大学、自動車サークルがまたやらかすwww」
葵人が顔を覆った。
「うわ、タイトルからして終わってるww」
「これ、五ちゃんねる、なんJスレね!? トレンド入ってるね!?」とマイケル。
「入ってんじゃねぇか!!!」
1:風吹けば名無し
埼玉中央総合大学のS・H・Bとかいう自動車サークル、
キャンパスでドーナツターンしてた黒いRX-8またやらかしてる
7:風吹けば名無し
前もセリカが爆音で構内走ってたぞ
19:風吹けば名無し
"Saitama Hashiriya Boys"とかいう草しか生えんネーミングセンス
34:風吹けば名無し
昨日セリカが空飛んでたんだが
35:風吹けば名無し
>>34 は?
36:風吹けば名無し
>>34 ソースは?
37:風吹けば名無し
>>34 普通に草
42:風吹けば名無し
顧問もラリーアート乗ってて草 先生まで走り屋なの?
51:風吹けば名無し
これ半分大学版イニDやろ
63:風吹けば名無し
アメリカ人留学生が神社の石碑壊して狐が出たって聞いたんだけど
64:風吹けば名無し
>>63 は?
65:風吹けば名無し
>>63 それ創作やろ
66:風吹けば名無し
>>63 これ実際にあったぞ 大学のローカルニュースになってた
67:風吹けば名無し
>>66 マジかよ
88:風吹けば名無し
RX-8がキャンパスで爆発したって聞いた
89:風吹けば名無し
>>88 さすがにそれは盛りすぎ
90:風吹けば名無し
>>88 >>89 これも実際にあった(TEMUのパーツ)
112:風吹けば名無し
マイケルとかいうアメリカ人留学生、CIAの工作員説
113:風吹けば名無し
>>112 草
114:風吹けば名無し
>>112 違う、NASAだぞ
115:風吹けば名無し
>>114 は?なんで?
116:風吹けば名無し
>>114 E塔の地下に潜入してたって聞いた
117:風吹けば名無し
このサークル、もはや都市伝説の域だろ
雅紀が画面を見て言った。
「……"セリカが空飛んでた"は流石に嘘だろ」
加賀が黙った。
「加賀?」
「……峠でアンダー出てジャンプしかけたことはある」
「それ飛んでんじゃん!!!!」
準が「RX-8がキャンパスで爆発した」を読んだ。
「雅紀、これは?」
「……TEMUのパーツじゃない。でも一回、バックファイアが出て煙が——」
「大差ないじゃん!!!!!!」
マイケルが「CIAの工作員説」を読んだ。
「ワタシ、CIAじゃないヨ。NASAだヨ」
「どっちでもない!!!!!!!!!」
Xのタイムラインが動いていた。
@某学生A
S・H・Bまたやらかしたの草
@舞花先輩ファン垢
舞花さんそろそろ制裁入りますか?
@篠原朱音
#S_H_B問題 #大学の治安 #音の暴力
報告書:本日09:17、E塔裏にて爆音アイドリング確認。
前科リスト(第1話〜現在)を添付します。
「朱音まで参戦してんじゃねぇかッ!!!!」と雅紀。
「前科リストって何!?!?」と準。
「PDFで配布してんだけど!!!!!」
葵人がそのPDFを開いた。
32ページあった。
「32ページ!?!? いつ作ったんだ!?!?」
「味方が一番怖いって、こういうことか……」
朱音が棒付き飴を口に入れたまま、部室の隅でノートPCを叩いていた。
「朱音!! なんで参戦してんだ!!!」
「記録者として中立な立場をとっている」
「中立が#S_H_B問題タグ作るか!!!!!!」
「事実を記録しているだけだ」
「事実が俺らに不利すぎる!!!!!!!!」
舞花が前科リストを読んでいた。
「……もう庇いきれないわ。こいつら」
「今回こそはマジで冤罪です!!」と雅紀。
「今回は何をやったって言われてるの?」
「ドーナツターン!! やってない!!」
舞花がPDFの7ページを開いた。
「3ヶ月前、キャンパス駐車場でのRX-8のドーナツターン——これは?」
「……それはやった」
「じゃあ今回もやったと思われても仕方ないんじゃない?」
「今回はやってないんだよ!!!」
「でも前科があるから信用されない」
「それは——」
「自業自得」
「ぐ……!!!!」
準が腕を組んだ。
「……冷静に考えると、スレに書いてある内容——全部、過去にやったことの延長線上にあるな」
「「「「「……」」」」」
「"セリカが空飛んでた"は誇張だけど、ジャンプしかけたのは本当」
「「「「「……」」」」」
「"RX-8がキャンパスで爆発した"は違うけど、TEMUで爆発したのは本当」
「「「「「……」」」」」
「"マイケルがNASA"は違うけど、E塔地下に潜入したのは本当」
「「「「「……」」」」」
「"狐が出た"は——」
「本当です(全員)」
静寂。
「……俺らが言えた義理じゃない」と加賀。
「潔白を主張できる立場にない」
「じゃあどうすんだ」
「走る」
「え?」
「今夜、走る。ネットで何言われようと、俺はセリカで走る」
全員が加賀を見た。
「それは問題の解決になってないぞ」と準。
「解決しようとしてない。俺たちが走り屋かどうかは、走ることで示す。ネットじゃない」
朱音がメモ帳に書いた。
「加賀:炎上中に走ると宣言。論理破綻しているが正しいと思う」
舞花が立ち上がった。
「……もう許さん。こっちは何回大学に呼び出されたと思ってんのよ」
「舞花——」
「今回はちゃんと潰す。朱音、協力して」
朱音が棒付き飴を口から外した。
「……方針は?」
「前科リスト32ページ——これを使う」
「どう使う?」
「ページ33を作る。今回の件が冤罪だという証拠を全部並べる。そしてページ1〜32と並べて見せる」
「……意味は?」
「"これだけやらかしてきたこいつらが、今回だけ何もやっていない"——それが一番信憑性がある」
準が目を見開いた。
「……頭いい」
「当然」
朱音がPCを開いた。
「証拠、何がある?」
「昨日の夜——俺ら全員、呉自動車で整備してた」と加賀。
「アリバイか。記録は?」
「呉さんに確認する」
「狭霧も証人になれる?」と準。
「霊体の証言が法廷で通るか?」
「通らない」
「じゃあダメだ」
「通らないのか!!!!」
夜。
川越街道。
加賀がセリカを走らせていた。
一人だった。
ネットはまだ燃えていた。
スマホの通知が来続けていた。
(関係ない。)
ステアリングを握った。
路面の情報が手に伝わってくる。
夜の川越街道は空いていた。
街灯が流れていく。
セリカの2ZZ-GEが、静かに唸っていた。
(俺はここにいる。)
(ネットの中じゃない。ここにいる。)
3速、4速。
信号が赤になった。
止まった。
隣に、バイクが並んだ。
颯馬だった。
ウーバーバッグはなかった。
「……炎上してるな」と颯馬。
「してる」
「お前らが悪いんだろ」
「今回は違う」
「でもどうせ信じてもらえない」
「そうだ」
信号が青になった。
「……走るか?」
加賀が少し間を置いた。
「今夜だけだ」
「今夜だけだ」
二台が、同時に動き出した。
川越街道を、セリカとCB400SFが並んで走った。
今夜だけ。
翌朝。
朱音が33ページ目を完成させた。
Xに投稿した。
@篠原朱音
【訂正と補足】
S・H・Bの前科リスト(添付済)を改訂しました。
今回報告された"ドーナツターン"について:
当該日時のアリバイを確認しました(呉福造氏証言、整備記録添付)。
今回は冤罪です。
なお前科1〜32については全て事実です。
スレが動いた。
447:風吹けば名無し
朱音さん、前科リスト作ってた人が味方に戻ったの草
448:風吹けば名無し
前科32個認めた上で今回だけ冤罪主張するの
逆に信憑性高すぎるだろ
449:風吹けば名無し
これは信じる
450:風吹けば名無し
【朗報】S・H・B、今回だけ潔白だった
451:風吹けば名無し
前科32個は消えないけどな
452:風吹けば名無し
それはそれ
512:風吹けば名無し
埼玉中央大学、治安崩壊してて草
513:風吹けば名無し
でもなんか好きになってきた
514:風吹けば名無し
わかる ちゃんと走り屋してるじゃん
「……潔白認定、された」と雅紀。
「前科32個は消えてないけどな」と朱音。
「それはそれだ」と加賀。
「今回だけ潔白」
「今回だけでいい」
マイケルが手を上げた。
「次のYouTubeチャンネル、"Saitama Car Spirit"始動ヨ!!!」
舞花が目を閉じた。
「……前科33個目の予感しかしない」
朱音がメモ帳に書いた。
「炎上:収束。前科:32個(確定)。信憑性の取り戻し方:前科を全部認めた上で今回だけ冤罪主張——これが一番効いた。加賀:炎上中に走った。理由:走り屋だから。記録:以上」
「付記:颯馬と加賀、昨夜信号で並んだ。今夜だけ。でも走った」




