終章:永遠の凪
凪が逝ってから、四十九日が過ぎた。
都会の喧騒は相変わらずで、ファッション誌の表紙は新しいモデルの笑顔に取って代わられていた。
写真家の蓮は、かつて凪と歩いた代々木公園のベンチに座っていた。
手元には、一通の封筒がある。凪の四十九日を終えたお父さんから送られてきたものだ。
中には、凪が最後に常用していた「紫色の錠剤」の空き瓶が一つと、一枚のメモが入っていた。
『蓮さん。凪がこれを、あんたに渡してくれと言い遺した。
「私の命を繋いでくれた、一番苦くて一番綺麗な宝石なの」だとさ。
あいつは最期まで、あんたに見せたあの醜い自分を、誇りに思っていたんだと思う』
蓮は、空の瓶を透かして太陽を見た。
あんなに凪を苦しめたはずの薬瓶は、光を浴びて、確かに紫色の宝石のように美しく輝いた。
「……バカ野郎。本当に、最後までプライドの塊だな」
蓮はレンズを覗く。
ファインダー越しに見える世界は、凪がいないことで少しだけ色を失ったように見えたが、彼は確信していた。
自分がこれから撮るすべての「生」の中に、あの藻掻き、叫んだ凪の姿が生き続けることを。
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同じ頃、故郷の漁師町では、お父さんが独り、船の上にいた。
春の海は穏やかで、名前の通りの「凪」が広がっている。
お父さんは、船のキャビンに一枚の写真を飾っていた。
それはモデルとしての凪ではなく、病室で蓮が撮った、死を恐れ、それでも生きたいと瞳を剥き出しにした「人間・凪」の写真だった。
蓮が、お父さんにだけ贈った一枚だ。
「……凪。見てるか。今日も海は静かだぞ」
お父さんは、凪が好きだったホッケの干物を一切れ、海に投げ入れた。
波紋が静かに広がり、深い青に溶けていく。
お父さんの心には、もう悲しみだけは残っていなかった。
凪が最期に流した涙と、握り締めた手の温もり。
そして、「大好きだ」と言い合えたあの数日間が、お父さんのこれからの孤独を埋めてくれる。
「お父さん、また明日ね」
空耳だろうか。潮騒の向こうから、いつもの嘘ではない、凪の本当の声が聞こえた気がした。
お父さんは大きく深呼吸をし、網を引き上げた。
空には、彼女の瞳のような澄んだ青がどこまでも続いていた。
凪という名の海は、今も、そしてこれからも、お父さんの心の中で永遠に凪いでいる。
(完)
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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