第六章:終わりの凪
故郷へ戻った後の数日間。
凪の意識は、半分は現実の潮騒の中にあり、半分は深い眠りの底にあった。
お父さんは漁を休み、一日中、凪のそばを離れなかった。
「……お父さん。私、わがままだね。お父さんの仕事、邪魔しちゃって」
お父さんは、凪の痩せこけた足を、温かい蒸しタオルで丁寧に拭きながら答えた。
「何を言う。俺の人生で、今が一番大事な仕事をしてるんだ。お前を、最高の凪で送り出すっていう、な」
お父さんは、時折、古い写真アルバムを広げて凪に見せた。
そこには、潮風に吹かれて笑う幼い頃の凪がいた。
「お父さん、私……。モデルになんてならなきゃよかったかな。東京に行かなければ、もっとお父さんと一緒にいられたのに」
お父さんは、凪の頭をやさしく撫でた。
「いいや。お前が東京のビルに飾られて、日本中で一番輝いてるのを見るのが、俺の誇りだった。……でもな、凪」
「……なあに?」
「どんなに有名なモデルになっても、お前は俺の『凪』だ。海が荒れて、何も見えなくなった時、俺の心の中にいつもいてくれた、静かな海なんだよ」
凪は、お父さんのゴツゴツとした、魚の匂いがする手を握りしめた。
その手は、どんな高価な薬よりも、凪の痛みを和らげてくれた。
最後の夜。
凪は、お父さんに頼んで縁側の戸をすべて開けてもらった。
夜の海は、どこまでも深く、暗い。
「お父さん……。私、怖くないよ。……でも、もう少しだけ、お父さんの声を聞いていたいな」
「ああ。いくらでも話してやる。お前が生まれた日のこと。初めて海を見た日のこと。全部、話してやるからな」
お父さんは、凪を膝に乗せ、昔話を始めた。
その低い、野太い声が、凪の全身を心地よい揺り籠のように包んでいく。
凪の瞳には、かつてのモデル時代の鋭い光はもうなかった。
そこにあるのは、お父さんが願った通りの、穏やかで、透き通った「凪」の海だった。
「……お父さん……大好き……」
「ああ。俺もだ。大好きだぞ、凪」
静かな波の音が、一際大きく聞こえた気がした。
お父さんの腕の中で、凪の体からゆっくりと力が抜けていく。
それは、長い、長い航海を終えた船が、ようやく静かな港に錨を下ろした瞬間だった。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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