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第五章:泥濘(でいねい)の生

 

 蓮との別れを告げたものの、凪の心は決別とは程遠い場所にあった。

 一人きりのマンション。深夜、激しい呼吸困難に襲われた彼女は、冷たい床を這い回りながら、なりふり構わず叫んでいた。


「……嫌。まだ、死にたくない……っ!」


 喉から漏れるのは、モデルの端正な声ではない。獣のような、生の渇望だった。

 彼女は床に散らばった薬の瓶を、震える手で掴み取る。

 一錠でも多く飲めば、この苦しみから逃れられるのか。それとも、明日が来るのか。

 その時、合鍵で入ってきた蓮が、崩れ落ちた彼女を背後から抱きとめた。


「凪! しっかりしろ!」


「……蓮……助けて。私、まだ、綺麗な服を着て……お父さんに、もっと……」


 凪は蓮のシャツを、爪が剥がれるほどの力で掴んだ。

 その瞳には、死を悟った賢者のような静けさは微塵もなかった。

 あるのは、暗闇に引きずり込まれまいとする、醜くも純粋な「生」への執着。


「撮れよ、蓮! この汚い私を、必死に空気を探してる私を撮りなさいよ!」


「……ああ。撮ってる。俺の目に、全部焼き付けてる」


 蓮はカメラを構えることすら忘れ、ただ彼女を抱きしめ続けた。

 二人の間には、もはやモデルと写真家という境界はなかった。

 死を目前にした一人の女と、それを繋ぎ止めようとする一人の男。


「凪、お前は枯れ木なんかじゃない。嵐の中を咲き誇ろうとしてる花だ」


「嘘……。もう、花びらなんて、一枚も残ってないわ……」


「俺が見てやる。最後の一片が落ちるまで、俺が全部見ててやるから」


 蓮の涙が、凪の頬に落ちた。

 その熱を感じたとき、凪の「強がり」という名の防波堤が、音を立てて崩れ去った。



この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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