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第四章:剥き出しのファインダー

 

 その日の撮影現場は、重苦しい空気に包まれていた。

 新進気鋭の写真家、蓮。

 彼は「真実しか撮らない」と公言し、モデルの表面的な美しさを嫌うことで有名だった。


「凪さん。そのポーズ、飽きた。もっと内側にあるものを出せない?」


 蓮の声は低く、苛立ちを含んでいた。

 凪は完璧な角度で首を傾けてみせたが、蓮はシャッターを切ろうとしない。


「内側って、何のこと? 私は今、最高の自分を見せているわ」


「嘘だ。君の目は、ここじゃないどこか……それも、すごく暗い場所を見ている」


 蓮はカメラを置くと、無遠慮に凪に歩み寄った。

 そして、彼女の左腕を掴み、ブラウスの袖を乱暴に捲り上げた。


「……っ、何するの!」


 そこには、昨日の八時間にわたる点滴が残した、生々しい青あざがあった。

 モデルにとって、腕のあざは致命的なはずだ。凪は咄嗟に腕を隠そうとしたが、蓮の力は強かった。


「これ、撮影のメイクで隠したつもりだろうけど、レンズ越しにはバレバレだよ。……君、何と戦ってるんだ?」


「……ただの貧血よ。放して」


 凪は冷たく言い放ち、彼の手を振り払った。

 しかし、蓮は引かなかった。

 彼は凪のバッグから溢れそうになっていた薬の袋を指差した。


「あんなに大量の薬、ビタミン剤だなんて言わせないよ。君、死ぬつもりで笑ってるだろ」


 その言葉に、凪の心臓が激しく脈打った。

 一番言われたくない言葉を、最も出会ってはいけない男に突きつけられた。

 それから二人の、奇妙な付き合いが始まった。


 蓮は凪に「生」を強要しなかった。

 ただ、彼女が独りで耐えている痛みを、黙ってファインダーに収めようとした。

 ある夜、凪のマンションで、彼女がいつものように十数錠の薬を飲み込んでいるのを、蓮は静かに見ていた。


「……惨めだと思わない?」


 凪は自嘲気味に笑い、紫色の錠剤を指先で弄んだ。


「思わない。闘ってる姿は、いつだって美しいよ」


「嘘つき。私はもうすぐ、お父さんが名付けた『凪』じゃなくなる。ただの枯れ木になるのよ」


 蓮は初めて、凪の頬に優しく手を触れた。

 その手の熱が、病に冒された凪の肌に痛いほど染みた。


「凪、最後に俺に撮らせてくれ。世界で一番、生きてるお前を」


 その言葉は、どんな求愛よりも凪の胸を打った。

 けれど、愛してしまいそうになればなるほど、凪の中の「プライド」が警鐘を鳴らす。

 こんな衰えていく姿を、レンズを通して永遠に残されていいのか。


 ある朝、凪は激しい喀血かっけつをした。

 洗面台に広がった鮮血を見つめながら、彼女は決意した。

 蓮の隣にいれば、自分は「死にゆく女」として甘えてしまう。


「蓮、もう会わない。あなたの撮る写真は、私の美しさを汚すわ」


「逃げるのか、凪」


「ええ、逃げるのよ。お父さんの前でも、誰の前でも、私は最高に綺麗なままでいたいの」


 蓮を追い出し、一人になった部屋で、凪は震える手でお父さんに電話をかけた。


「もしもし、お父さん?」


「おう、凪。今、船の上だ。今日は海が穏やかでよ、最高の凪だぞ」


「……そう。よかった。お父さん、私ね、仕事で遠くに行くことになったの。しばらく、電話もできないかもしれない」


「遠くって、どこだ? パリか?」


「……ええ。すごく、遠いところ。だから、心配しないでね」


 お父さんの「凪だぞ」という声が、耳の奥で何度もリフレインする。

 本当は、今すぐお父さんの船に乗って、潮風に吹かれながら眠りたかった。

 けれど、凪は笑った。


「私、世界一幸せな娘だから。じゃあね、お父さん」


 電話を切った凪の視界が、涙で歪む。

 机の上には、書きかけて破り捨てた、お父さんへの最後の手紙が散らばっていた。



この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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