第一章:色鮮やかな毒薬
その夜、凪は都心の高級タワーマンションの一室にいた。
一人目の恋人、IT企業を経営する高木が、バカラのグラスを傾けながら彼女に微笑む。
「凪、今日の撮影はどうだった?」
「いつも通りよ。私がカメラの前に立てば、最高の一枚にしかならないわ」
凪はいつものように傲慢なほど不敵に笑い、バッグの奥に隠した薬袋を足で押し込んだ。
「さすが俺の女だ。来月、パリに行かないか。君に似合うドレスをあつらえたいんだ」
「パリ? いいわね」
凪は微笑んだ。
けれど、心の中では冷めた声が響いている。
(来月の私に、飛行機に乗る体力があると思う?)
一週間後。
シャワーを浴びていた凪の手のひらに、驚くほど大量の髪が絡みついた。
排水口に吸い込まれていく自分の体の一部を見つめ、凪は鏡の中の自分を睨みつけた。
その夜、高木が彼女の部屋を訪れたとき、凪はすでに決めていた。
「どうしたんだ、凪。顔色が悪いぞ。どこか具合でも……」
心配そうに手を伸ばす高木を、凪は冷たく撥ね退けた。
「触らないで」
「凪……?」
「高木さん、私たち、今日で終わりにしましょう」
凪はドレッサーに座ったまま、一度も彼を振り返らなかった。
「急に何を言うんだ。さっきまでパリの話をしていただろ」
「飽きちゃったのよ。あなたのその、お金で何でも解決できると思っている傲慢な態度」
「……本気で言っているのか?」
「本気よ。私、もっと面白い人を見つけたの。あなた、もう用済み」
凪は立ち上がり、彼を出口まで誘導した。
一瞬、激しい眩暈が彼女を襲う。
その拍子に、棚から隠していた薬の瓶が床に転がり、派手な音を立てた。
「なんだ、これは……。凪、君、これを飲んでいるのか?」
高木が瓶を拾おうとした瞬間、凪はそれを激しく蹴飛ばした。
「ただのビタミン剤よ! 早く帰って。あなたの顔、もう見たくないの」
彼を部屋から追い出し、鍵を閉めた途端、凪はその場に崩れ落ちた。
震える指でスマートフォンを手に取る。
画面には、お父さんからの着信が入っていた。
「もしもし、お父さん?」
「おう、凪か。今、海から上がったところだ。お前に送るウニを剥いてるんだがよ、住所は前と同じでいいか?」
「うん、ありがとう。楽しみにしてるね。……ねえ、お父さん」
「なんだ」
「お父さんの海は、今日も凪いでる?」
「ああ。鏡みたいに静かだ。お前の名前みたいにな」
「……よかった。こっちも、すごく穏やかだよ。じゃあね、お父さん」
電話を切った瞬間、凪は声を殺して泣いた。
吐き出された鮮血が、真っ白な絨毯の上に、誰にも見せられない不吉な花を咲かせていた。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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