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序章:静かなる時化(しけ)

 

 その日は、抜けるような青空だった。

 最新の秋物を纏い、代官山の路上でシャッター音を浴びていた凪にとって、世界はまだ自分の支配下にあるように見えていた。


「凪ちゃん、最高。ラスト、もっと遠くを見つめる感じで!」


 カメラマンの要求に応え、視線を空に飛ばす。

 その瞬間、視界の端がわずかに歪んだ。

 心臓が嫌な音を立てて跳ね、指先から温度が失われていく。

(……まだ、大丈夫)

 彼女は奥歯を噛み締め、完璧な微笑みをレンズに刻みつけた。

 それがプロとしての、そして「凪」としての意地だった。


 二時間後。

 都内の大学病院の診察室は、先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返っていた。


「……検査の結果が出ました」


 医師が差し出した画像には、素人目にもわかる「影」が、肺の奥に根を張っていた。


「進行性の難病です。今の医学では、根治は難しい。これから数種類の薬を組み合わせて進行を遅らせることになりますが……」


 医師の言葉が、遠くの潮騒のように聞こえる。

 凪は、膝の上に置いたシャネルのバッグを強く握りしめた。


「あと、どれくらいですか」


「早ければ、一年。持って、数年といったところでしょう」


 一年。

 次の流行の服が出る頃には、自分はこの世にいないかもしれない。

 診察室を出た凪は、薬局で手渡された大量の錠剤を見つめた。

 赤、白、黄色。

 宝石のように色鮮やかなそれは、これからの彼女の命を繋ぎ止める「重り」だ。


 凪は震える指でスマートフォンを取り出した。

 履歴の最上部にあるのは、故郷の港で今ごろ網を引いているであろう、お父さんの名前。


『お父さん、今日もお疲れ様。さっき撮影が終わったよ。今度の雑誌、楽しみにしててね』


 送信ボタンを押す。

 涙は出なかった。ただ、喉の奥が焼けるように熱い。


「……ごめんね、お父さん。嘘つきな娘で」


 彼女はその足で、一つ目の恋を終わらせる決意をした。

 惨めな姿を晒すくらいなら、美しい記憶のまま、誰かの心に消えない傷を刻んで去りたい。

 それが、不治の病を宣告されたトップモデル・凪が選んだ、孤独な戦いの始まりだった。


この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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