リスのくうちゃんと星降る湖
動物たちがなかよく暮らす森の奥に『星降る湖』と呼ばれる大きな湖がありました。
毎年、うんと寒くなる冬の日、たくさんの流れ星が夜空を通ります。森の動物たちは、その流れ星を湖に映して、星に包まれた気持ちになるのが好きでした。
「今年こそ、星降る湖を見たいよぉ!」
木の上で大きな声をあげたのは、リスのくうちゃんです。
くうちゃんはまだまだ小さいので、流れ星が降る夜はいつも眠くなってしまって、一度も見たことがありませんでした。
「くうちゃんは小さいからまだ無理だよ」
お兄ちゃんがくうちゃんの頭をなでながら言いました。でも、くうちゃんはプイッと首を振ります。
「くうちゃんはもう小さくないもん! だってこの前お誕生日だったもん!」
「くうちゃんはまだちびちゃんだから、だめよ」
お姉ちゃんがくうちゃんのぷっくりした頬っぺたをツンツンしながら笑いました。でも、くうちゃんはまたプイッと首を振りました。
「うわーん! くうちゃんだって星降る湖を見たいもん!」
とうとう、くうちゃんは泣き出してしまいました。大粒の涙がポロポロとほっぺを伝って落ちます。お兄ちゃんもお姉ちゃんも大あわてです。
「そうだよなあ、くうちゃんだって星降る湖が見たいよな」
「そうよね、くうちゃんだって星降る湖が見たいよね」
お兄ちゃんとお姉ちゃんは同じことを思いました。
「じゃあ、くうちゃん、どうしたら夜でも眠くならないか一緒に考えてみる?」
「うん!」
くうちゃんの涙がピタッと止まって、ぱっと笑顔になりました。
それから、三匹は頭をくっつけて、どうしたらいいか考えました。
「寝そうになったら、こちょこちょ起こしてあげるわ」
さっそく試してみることにしました。
あくびをしたくうちゃんをお姉ちゃんがこちょこちょくすぐります。でも、くうちゃんは、ちっとも目が覚めません。
「ん〜トントンして〜……」
それどころか、寝ぼけてトントンをお願いしてしまいました。お兄ちゃんが仕方なくトントンしてあげると、くうちゃんはもうすっかり夢の中。
これにはお兄ちゃんとお姉ちゃんも困ってしまいました。
「うーん……他にいい方法ないかな……?」
「眠くならない食べ物とか、飲み物とか……」
「あった!!」
お兄ちゃんがぱっと顔をあげました。
「大人がいつも飲んでる、あの苦い飲みもの! コーヒーだよ!」
「それなら目がパッチリになるって聞いたことある!」
さっそくお兄ちゃんがヤカンでお湯を沸かして、
お姉ちゃんがコーヒーをいれてくれました。
「くうちゃん、どうぞ!」
「にが〜い!!」
くうちゃんは一口飲んだだけで、コーヒーの苦さに目を白黒させました。
「もっとミルク足そう!」
「まだにが〜い!」
「もっともっと足さなくちゃ!」
「まだまだにが〜い!」
「もう全部ミルクにして、ハチミツも入れてみよう!」
「わ〜! 甘くてとってもおいしい!!」
気づいたらコーヒーじゃなくて、甘〜いハチミツホットミルクになってしまいました。
「ふわあぁ〜なんだか、ねむたくなってきちゃった……」
くうちゃんは、気持ちよさそうに眠りはじめてしまいました。これにはお兄ちゃんとお姉ちゃんは困ってしまいました。
『星降る湖』に流れ星が落ちる日は――もう、明日なのです。
次の日の朝、お兄ちゃんがぽんと手をたたきました。
「ねえくうちゃん、お昼にいっぱい寝ちゃえば、夜でも眠くならないんじゃない?」
「うん! でも……今、ちっとも眠くないよ」
「大丈夫! まかせて!」
お兄ちゃんはニコッと笑うと、ほかほかの湯気ののぼるマグカップを渡しました。
「ハチミツたっぷりホットミルクだよ」
くうちゃんがふうふうしながら飲むと、目がとろんと細くなってきました。ベッドにころんと横になったくうちゃんを、お姉ちゃんが優しくトントン、トントンとたたきます。
「ふあぁ……」
くうちゃんは、あっという間に夢の中です。お兄ちゃんとお姉ちゃんは、くうちゃんを起こさないようにそっと部屋を出ました。
「くうちゃん、くうちゃん! 起きて!」
ゆさゆさ揺すられて、くうちゃんは目をこすりながら起き上がりました。
「まだ眠いよぉ……」
「星降る湖に行く時間だよ」
「――えっ!?」
びっくりしたくうちゃんはパッチリ目が覚めました。お兄ちゃんがマフラーをぐるぐる巻いてくれて、
お姉ちゃんがふわふわ毛糸の帽子をかぶせてくれて出発です。
くうちゃんは、お兄ちゃんとお姉ちゃんの手をつないで歩きます。はぁ〜っと吐く息が、ふわふわ白いけむりになって、夜の空に消えていきました。
星降る湖に着くと、もう森の動物たちがたくさん集まっていました。くうちゃんたちは、大きな木の上にのぼって、流れ星が来るのをワクワクしながら待ちました。
見上げると、夜空にはお星さまがいっぱいです。
「くうちゃん、そろそろ流れ星がはじまるよ――」
みんなが夜空をじっと見つめていると――
――ひゅんっ
夜空に浮かぶお星さまがひとつ、スーッと流れていきました。
――ひゅん
――ひゅん
「2つ……3つ……」
くうちゃんが流れ星を数えます。4つ、5つ、6つ……ななつ!
でも、もう数えきれないくらい、たくさんの流れ星が夜空を横切っていきます。すると、お兄ちゃんとお姉ちゃんが、そっとくうちゃんの肩をポン、ポンとたたいてくれました。
くうちゃんが下を見ると――
「わあっ……!!」
星降る湖にもたくさんの流れ星が映っています。
湖にも、空にも、きらきらなお星さまがいっぱいで、まるで星の中にいるみたいです。
くうちゃんは、きらきら光る流れ星を夢中で見つめました。お兄ちゃんもお姉ちゃんも、同じように静かに見ています。
どれくらいたったでしょうか。
最後の流れ星がすーっと消えて、夜空がまた静かになったとき――遠くで、フクロウさんが「ホーホー」と鳴きました。
その声を聞いた動物たちは、お家に帰りはじめました。
「あらあら、くうちゃん寝ちゃったね」
お兄ちゃんがくうちゃんを抱っこして、お姉ちゃんがふわふわのしっぽで包みます。二匹はくうちゃんを起こさないように、ぴったり肩を寄せ合って、きらきら光るお星さまに見守られながら、お家に帰りました。
くうちゃんは、夢の中でも流れ星を追いかけているのかもしれませんね――
おしまい
読んでいただき、ありがとうございました!
今年の童話祭のテーマが「きらきら」だと聞いたときから、お星さまがいいなあと考えていました。
数年前、星が最も輝いて見える場所といわれる信州阿智村にいきました。
それなのに、なんと、なんと、見事に大雨(笑)
でも、せっかく来たんだからロープウェイに乗って山頂まで行ったんです。
ふと雨が止んで、雲の隙間からお星さまがひとつ見えて……本当に綺麗でした。
この物語は、そのお星さまのキラキラを思い出して、満天の星を見ることができたらいいなあ〜と思いながら書きました。
くうちゃんが思いっきり星たちを見ることができてよかった!私もいつか満天の星を見れたらいいな。
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