若い騎士
その翌日、昼下がりの薬屋に、見慣れぬ影が差し込んだ。
入り口には、旅人にしてはきっちりした身なりの若い男が立っていた。腰には剣、背筋は真っ直ぐ、視線は油断なく店内を見回している。
「失礼します。この辺りで、見かけない若い男を見ませんでしたか」
声は落ち着いているが、言葉の奥に張り詰めたものがあった。
「旅人ですか?」
「王宮から派遣されました。……ある方を探しています」
彼は腰の袋から紙片を取り出した。そこには、簡単な似顔絵が描かれている。
王族らしい端正な顔立ち──ただし、少し若く見える。
私は紙を受け取らず、一歩下がった。
「……いいえ、心当たりはありません」
嘘ではない。少なくとも、人間の姿のままなら。
そのとき、棚の上でクロが身じろぎした。
青年騎士の視線が一瞬そちらへ動く。
けれど、彼はすぐに視線を戻し、礼をして踵を返した。
扉が閉まり、外の光が遠ざかる。
私はクロを見る。クロは欠伸をして、そっぽを向いた。
「……知らない顔だな」
「こっちの台詞」
外では、蹄の音が遠ざかっていった。
日常と非日常の境界は、また少しだけ近づいた気がした。