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第7話「崩落/古陣起動」

初見の方は[目次]→[第1話]へどうぞ(検索:n4192kt)。

「うおおおおおお!!!」

 屈強な体格の白袖が大剣を振り下ろした。

 それを僅かな動きで避けて、白袖に触れる。

 バタン、と白袖は倒れた。


「これで何人目だ?いくらなんでも殺意に満ち溢れすぎだろ」

 俺は呆れるように倒れた白袖を見下ろした。


 ルミナの危機を察した俺はすぐに誓約室を脱出した。

 その際、監視役の白袖を殺そうと思ってたが、怯える表情のベルトを見て、やめた。


 以降、白袖たちはできるだけ殺さずに、気を失わせるだけに留めた。

 力を使うより、殺してしまう方が楽だったが、ベルトが救出に同行する以上、仕方がないと思った。


「本当にお強いですね。懲戒部は新翼騎士団に引けを取らないと聞いていましたのに……」

 ベルトは腰を引かせながら、俺の後ろで呟いた。


 ベルトは俺の脱出に乗じてここから脱出する決意をしたと言っていた。

 今のところ足手まといになっていないから気にはしないが……まあ、何かあったときは一人先に行けばいいだけか、と思い同行を許可した。


「ルミナがどこに連れていかれたか、見当はつかないか?」

 俺の問いにベルトは沈黙し、意を決したように答えた。

「考えたくはないのですが……あまりに反抗的な者を収容する場所があるとか……」

 俺の表情を伺い、ベルトは焦った。

「わ、わからないですよ! でも、やはり奥の方じゃないですか? 階段から降りてすぐに、そういう拷問室のような場所があると心象に悪いんじゃないかな」


 更に奥へと走る。

 すると、突然通路横のドアがいきなり開いた。目の前と通り過ぎた後方のドア。

 前後を取り囲むように敵が襲いかかる。


「ちぃっ!」そんな奇襲をされてしまっては本気を出さざるを得ない。

 腰に差したナイフを二本、敵の首を目がけて投擲した。


「……悪い。焦って手が荒れた。以降は落とすだけにする」


 ベルトが倒れる白袖たちを見て、顔をそむけた。

 敵――屈強な体形の白袖が赤く染まった。


 俺は振り返った。

「こいつら、明らかに俺を待ち伏せしてたよな」

「逃げたのがバレたんですかね……」

 ベルトは自分の手を触りながら答えた。


 しばらく行くと、ドアの隙間から甘い香りが漂う部屋があった。

 明らかに他の部屋とは異彩を放っていた。


 俺はすぐにその部屋のドアノブを握った。

「だ、大丈夫ですか? また待ち伏せしているのかも……」

 ベルトの言葉を無視するように、部屋の中へと入った。


 そこにいたのは司祭だった。


 中央の椅子の前にただ佇んでいる。

 他に誰かが潜んでいる気配はなかった。


「驚いたよ……まさか、こんなところで親玉に出会うとは」

 すかさずナイフを投げる。


 ナイフは司祭の喉元で魔法陣によって弾かれた。


 司祭は俺と、その後ろのベルトを流すように見た。


「ふむ。まさか、ここに君が現れるとは思わなかったよ」


「会話する気は無い。ルミナはどこだ?」


 司祭は頭を振った。


「原罪――君は生きているだけで人を不幸にする」

 司祭の足元に魔法陣が浮かび上がった。


「ルミナはどこだ! 礼拝堂での俺の言葉の意味、わからなかったとは言わないよな!?」


 魔法陣から溢れる光が司祭を包み込んだ。


「君がただの人ならどれだけの命が救えたか。ここに来るまで何人殺した? その罪が最悪な結果につながったことを自覚するといい」


 白紋が外周だけ残り、真ん中から透けた。


「逃がすかよ!」俺は駆けた。


 手に持ったナイフが空しく司祭の体を虚空を切った。


「地獄で永遠に眠るといい、罪人よ」

 白紋の外周だけが残り、中心が水面みたいに抜けた。

 ――司祭は完全に消え去った。


「くそ!逃げられた!」


 突然地鳴りがした。

 パラパラと天井のかけらが落ちてくる。

 ベルトを見ると、震えていた。


「何が起きた?」


 ベルトは両手で体を掴みながら答えた。

「支柱の魔力供給が断たれた音です……。司祭は地下を、地獄を捨てました。もうすぐ、ここは埋まります」


 細く長い螺旋階段。

 不便な通行手段だと思ったが、この時のためだった。


 ベルトの胸ぐらを掴んだ。

「他に地上へ出る道はないのか!?」


 ――首を振った。


「二か所あります。でも、どれも同じ構造のらせん階段です」


 万事休す。

 ――いや、何かあるはずだ。


 俺は司祭が消えた地点の足元を調べた。


 魔法陣の後。しかし、動く気配はなかった。


「おい! これを動かせないか?」


 ベルトは放心状態で返事をしなかった。


 俺はそんなベルトを掴み、無理やり魔法陣の元へと引っ張った。


「もう……終わりですよ。お金も妻も取られた……これ以上生きていても……」


 ベルトを殴った。


「な、何するんです!」


「俺は魔力がない。けれどお前ならこれを動かすことができるんじゃないのか?」


「何を言い出すかと思えば……こんな消えかけの魔法陣、私如きの魔力で起動できるわけないでしょう!」


「じゃあ、この魔法陣が動いていればいいんだな?」

「何を言って……それができれば誰でも――」


 地面に手を置いた。

「刃先ひとつ分だけ、地面の時間を巻き戻す! これぐらいなら、問題ないはずだ!」


 俺は力を発動させた。

 床石の継ぎ目が一瞬だけ逆流する。

 視界が揺らいだが、すぐに元に戻った。


 魔法陣が輝きを取り戻した。

 しかし、安定した魔力を供給していないのか、光はついたり消えたりを繰り返していた。


「早く! 魔力を注がないと魔法陣が消えてしまう!」

「バカな……古代魔法がこうも簡単に……」

「簡単じゃないから早くしろ! 頭の中いじられたくなかったら、さっさとやるんだよ!」


 たじろぐベルトだったが意を決して魔力を注ぎ込む。

 すると、魔法陣の縁から光が立ち上がった。


「おお、なんか成功したっぽい! ……で、これからどうすればいい?」

 ベルトに聞くと、少ししり込みしたようだが、問いに答え始めた。

「円陣の中へ……おそらく、地上のどこかへつながっているはずです」

 それを聞いて俺は魔法陣の中へ、しかし、ベルトは入らない。

「何しているんだ?早くお前も入れよ」

 ベルトは首を振った。

「私は……怖いです。その先がどこにつながっているか。もしかしたら、ここで死んでしまった方が良かったと思うことが、怖いのです」

 ベルトが笑顔を向けた。

「だから、この先はあなた一人で。ご武運を、心から祈っています」

 俺はベルトの手をつかみ、魔法陣内へと引き入れた。


「な、何をするんです! 私はもういいと言ったのに!」

「つべこべうるさいんだよ。地上に出たら案内人が必要だろ?それだけのことだ」

 ベルトは俯いた。何かに思い伏せるように。

 そんな彼が見ていられなかったので、俺は余計な一言を言った。

「お前が何を考えているかはわからないけど。別に俺は何にも気にしていない。やりたいことをやっているだけだ。だから、あんたも地上へ出たら好きにするといい。自分が思ったとおりに」

「……」

 ベルトは答えなかった。


 足元が抜けた。光が弾ける。

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