第8話
「あなた、未来を知ってるの?」
その声は、背後からふいに降ってきた。
夕方のレッスン終わり、ソルを待っていた帰り道のことだった。
振り向くと、そこには見知らぬ女性が立っていた。
私より少し年上に見える。大人びた印象。
だけど、目の奥にある光は私と同じ――“知っている目”だった。
「……誰ですか?」
「私はレイラ。未来から来たわ。あなたと同じように」
心臓が一瞬止まりそうになる。
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「信じられないなら、これを見せるわ」
彼女が差し出したのは、見慣れたロゴが印字された小さなカード。
――2025年の地下アイドルイベントのチケット。
私が、死ぬ一ヶ月前に手に入れたはずのもの。
「どうしてそれを……」
「あなたが行けなかった最後のライブ、私が代わりに行ったの」
レイラの瞳は穏やかで、でもどこか痛みを宿していた。
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「私も、ソルのファンだった。彼を救いたいと思った。だけど……それだけじゃダメだって、わかったの」
「……どういう意味?」
「救いたいだけじゃ、未来は変えられない。あなたが変わらなきゃいけないの。立場も、力も、全部使って」
私は息を呑んだ。
まるで、心の奥を見透かされたようだった。
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「私はここで終わる。あなたに託すわ、ユナ」
レイラはそう言って、私の手を握った。
その手は、冷たくて、でも確かに温かかった。
「ソルを救って。あなたなら、できる」
その言葉を最後に、彼女は人混みに消えていった。
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まるで幻のようだった。
でも、あの瞳と声は、確かに私の胸に焼き付いていた。
未来を知るのは、私だけじゃなかった。
でも、“運命を変える”という責任は――私に託された。