第7話
「君、ハン・ユナっていうんだって?」
突然声をかけてきたのは、年上の少年だった。
精悍な顔立ちに落ち着いた物腰。
会場の大人たちとも自然に話している姿が、ただ者じゃないと感じさせた。
「……はい。どちら様?」
「ソヒョンだ。オ・スヒョン。父がこのイベントの後援をしている」
そう言って差し出された手。
何か、胸の奥がざらりとした。
この人、後に“縁談相手”として私の前に立つ人だ。
未来には存在しないはずの“ユナ”の運命を、別の意味で狂わせてくる人物。
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「噂には聞いていたけど、本当に聡明そうな子だね。まだ9歳?」
「それより年下です」
「ふふ、そうか。……もしよかったら、うちの会社にも一度見学に来てくれない? ちょうど芸能事業部を立ち上げるところでね」
芸能事業部――!
動揺は顔に出さないようにしながらも、私は息をのみそうになった。
「それは……父に相談してみます」
「もちろん。君とは、また会える気がする」
スヒョンはにこやかにそう言い、去っていった。
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彼は、ユナという存在が生まれたことで“新たに発生した運命の人”なのかもしれない。
でも――私はもう、誰のレールにも乗るつもりはなかった。
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数日後、私は意図的にソルの練習現場に足を運んだ。
表向きは“芸能投資を学ぶための視察”。
だけど本音はただ一つ。
彼の“本当の姿”を、この目で確かめたかった。
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鏡の前で踊るソル。
汗だくになりながら、真剣に動きを繰り返す姿。
一秒でも止まれば叱責されるような、緊張感のある空間。
けれど、彼は楽しそうだった。
「……ソル」
私の小さな声に気づいたのか、彼がこちらを見た。
一瞬驚いた顔になり、すぐにふっと笑った。
「来てたんだ、ユナ」
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その笑顔を、私は何より守りたい。
過去の私のように、ただステージを見上げるだけのファンじゃない。
今度は、隣にいる“誰か”として――。