第6話
ソルが所属することになる事務所の名前を、私はまだ知らない。
未来で彼が所属していた“LJエンターテインメント”の設立は2001年。
つまり、今の時代にはまだ存在していない。
「じゃあ、彼を引き込んだ“誰か”が、間違いなくいるはず」
私は父の秘書室に目をつけた。
ハンファグループは芸能プロダクションにも出資している。
その情報が手に入れば、ソルの周辺も把握できるかもしれない。
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ある日、私は食事の席でそれとなく聞いた。
「ねぇ、お父さま。芸能の世界って、投資としてはどうなの?」
父は少し驚いたように私を見たが、すぐに笑った。
「急にどうした? まさか芸能人にでもなりたいのか?」
「ううん、そうじゃなくて。未来性があるって学校で聞いたの。知りたくなって」
「なるほどな。……実は今、ある事務所に出資しようとしているところなんだ。“アドレイン・エンターテインメント”。知ってるか?」
知らない名前だった。でも、それがむしろ“鍵”のように思えた。
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私はそれから毎日、新聞、雑誌、ネットニュース(この時代のPCは遅いけど)を読みあさった。
そしてようやく、小さな記事にたどりついた。
《地方のダンススクール出身の練習生・カン・ソル、オーディション通過》
まだ“名前”で検索してもヒットはしない。
でも確かに彼は、少しずつ“ソル”としての道を歩き始めている。
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「間に合うかもしれない」
声に出すと、体がふるえた。
未来では決して救えなかった人が、今ここにいる。
私はもう、見ているだけのファンじゃない。
“ユナ”として――彼の隣を歩いていく。