第4話
「あの子……芸能人にでもなるの?」
母の一言に、私は目を見開いた。
家のサロンで開かれていた小さなパーティー。
招かれていたのは、政財界や芸能関係者の子どもたちとその親たち。
その中に――いた。
TVで見たあの少年。少し背が伸び、顔立ちがはっきりしている。
でも、目は変わらない。まっすぐで、どこか儚さを秘めた瞳。
カン・ソル。
私の“推し”であり、死を止めるべき少年。
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「彼、だれ?」私は自然に聞いた。
隣にいた執事が、軽く答える。
「地方のダンススクールから推薦されて、この会に呼ばれた子らしいです。芸能事務所の目に留まれば……という話で」
「……どこのスクール?」
「スウォン市にある“BLUE WAVE ACADEMY”です」
記憶にない名前。けれど――手がかりがまた一つ。
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私はドレスの裾をつまみ、小さく深呼吸した。
初めて会う、でも何よりも大切な存在に向かって、一歩を踏み出す。
ソルはジュースの紙コップを片手に、壁際で静かに立っていた。
同年代の子どもたちと騒ぐでもなく、大人たちの話に入るでもなく。
変わらないな。未来の彼と、根っこのところがまったく同じ。
「……こんにちは」
声が少し震えた。
ソルがこちらを向く。
一瞬、目が合った。
その瞳に――戸惑いが、そしてかすかな興味が走った。
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「君……誰?」
「ユナ。ハン・ユナ。君は?」
「……カン・ソル」
その名前を、本人の口から聞いた瞬間、私は静かに誓った。
必ず守る。
この命を懸けても――君を、守ってみせる。