第3話
6歳になった私は、ようやく自分の足で歩き、言葉も自由に話せるようになっていた。
幼い少女のふりをしているけれど、中身は16歳で命を終えた「私」。
親や大人たちの会話を自然に聞き取り、未来の知識を使って世の中の仕組みを少しずつ理解し直している。
けれど、ソルの名前はどこにもなかった。
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2004年の今、彼はまだ無名の少年のはずだ。
出生年は1996年。
この時代のどこかで、まだ“練習生になる前の彼”が、普通の暮らしをしている。
だけど、名前も顔も、グループ名すら知られていない。
唯一わかるのは、「Moonlight」というグループでデビューするという未来だけ。
私は、まず彼を“見つける”ことから始めなければならなかった。
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図書室に通うようになったのは、未来の記憶を整理するためでもあった。
雑誌、新聞、芸能関係の月刊誌――。
「あなた、ほんとに6歳なの?」と呆れる先生たちの視線を気にせず、私は静かに情報を集め続けた。
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11歳になったある日、TVの音に反応して、私は手を止めた。
新人アイドルの特集番組。まだ見習いレベルの練習生たちの映像が流れている。
――その中に、見覚えのある横顔があった。
画面に映る少年。ダンスの動きはぎこちない。でも、目だけは真っすぐだった。
胸がざわついた。
画面の端に映る、名前のテロップ。
《カン・ソル(강설) 13歳》
私は息を呑んだ。
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「見つけた……!」
胸の奥が熱くなって、涙がにじみそうになる。
でも泣いている場合じゃない。
この瞬間から、私の本当の戦いが始まるのだから。
未来を変える戦い。
彼の命を救う戦い。