第1話
ソルが死んだ日、世界が静かに崩れた。
ニュース速報は唐突に現れた。
「人気K-POPグループ“Moonlight”のメンバー、ソルさんが今朝、自宅で……」
その先はもう聞いていなかった。
スマホを持った手が震えて、病室の天井が滲んだ。
私はもう、心臓の痛みさえ感じていなかった。
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幼い頃から心臓が弱かった。
何度も手術を受け、入退院を繰り返した人生。
学校にもほとんど行けず、外に出ることも制限された生活の中で、
唯一、私に“世界”を見せてくれたのがソルだった。
彼の声に、歌に、表情に、
私は何度も救われた。
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なのに、その彼が、苦しみの中で命を絶った。
誰にも助けてもらえなかった。
私にも、何もできなかった。
私の中で、世界が止まった。
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その1年後、私は16歳で静かに息を引き取った。
ソルのいない世界で、これ以上生きていたくはなかった。
でも――
目を覚ましたとき、世界は始まっていた。
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「もうすぐよ、奥様!」「赤ちゃんが……!」
まぶしい光と、必死な声。
私は……赤ちゃん?
意識がぼやける中、誰かが言った。
「おめでとうございます!女の子です!」
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「ハン・ユナちゃん、1998年2月14日生まれです」
……ユナ? ハン・ユナ?
その名前に聞き覚えはなかった。
2025年の世界で、そんな人物は存在しなかったはず。
けれど、なぜだろう。
“彼のそばに立つ誰か”――そんな予感だけが、胸に残った。
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わかった。
私はこの世界に、“初めて”生まれたハン・ユナなんだ。
私がここにいること自体が、未来を変えた証。
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願ったんだ、あのとき。
「もう一度生きられるなら、ソルを救いたい」って。
なら、今度こそ。
私は、私の命を懸けて、
推しの未来を変えてみせる。