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第9話: 小さな変化、大きな決意

翌朝、私は庭での散歩を終えたところだった。まだ息が少し上がっているが、以前よりは体が軽く感じられる。ここ数日の努力が少しずつ成果を見せ始めているのだろう。


「お嬢様、今日は庭を二周されましたね」


侍女のエリザが、驚きと喜びの混ざった声で言った。


「ええ。まだ疲れるけれど、少しは進歩している気がするわ」


私はタオルで額の汗を拭きながら答えた。庭師のルイスが近くで剪定をしていたのが目に入り、彼にも声をかけた。


「ルイス、今日はありがとう。散歩道がとても歩きやすかったわ」


「それは良かったです、お嬢様。毎日の努力が少しずつ身を結んでいるようですね」


彼の励ましの言葉に、私は素直に嬉しくなった。以前の私なら、こんな些細な進歩に気づくこともなかっただろう。



その日の午後、兄のローレンスが突然私の部屋を訪れた。いつものように冷静な表情を浮かべた彼が、机の前で日記をつけていた私をじっと見つめる。


「クラリッサ、最近の噂を聞いたぞ」


「噂?」


「お前が茶会で妙に礼儀正しくしていたとか、散歩を日課にしているとか……どうやら、本気で変わろうとしているらしいな」


彼の言葉に、私はわずかに頬が熱くなるのを感じた。


「まだ、始めたばかりよ。本当に変われるかどうかは、これからだわ」


「その謙虚な態度が続けば、少しは希望が持てるだろうな」


ローレンスは軽く肩をすくめてから、真剣な眼差しを私に向けた。


「だが、これだけは忘れるな。信頼を積み重ねるには時間がかかるが、崩れるのは一瞬だ。お前の努力を無駄にしないためにも、一歩ずつ着実に進め」


その厳しい忠告に、私は小さく頷いた。彼の言葉には容赦がないけれど、その裏には確かな期待が込められているのを感じる。


「分かってるわ。私は、もう逃げない」


ローレンスは満足したように頷くと、部屋を後にした。その背中を見送りながら、私は改めて自分の覚悟を確認した。



夜、日記を開き、今日の出来事を書き留めた。

――――――――――――――――――――

今日の記録

•散歩:庭を二周。体が少しずつ軽くなってきた気がする。

•ローレンスお兄様からの忠告「信頼は積み重ねるのに時間がかかる」

•小さな努力が積み重なれば、やがて大きな変化になる。


――――――――――――――――――――


ペンを置くと、机に置かれたお茶缶が目に入った。ソフィアからもらった「フィットティー」。まだ何度か飲んでいるが、目立った効果は感じられない。


「楽な道はないのよね……」


そう呟きながら缶を片付け、私は再び机に向かった。これまで避けていた「社交界の会話術」の本を手に取り、ページをめくる。少しずつでも、学ばなければ。



深夜、ランプの灯りの下で最後の一文を書き終えると、私はペンを置き、静かに微笑んだ。


「ただの悪役令嬢では終わらない」


その言葉を胸に、私は未来へ向けて歩み続ける覚悟を固めた。

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